※ このお話は、冬コミにて無料配布した内容と同一となります。








 クリスマスイヴなんて嫌いだ。大嫌いだ。そう…それは、バーナビーの大切なものを全て奪っていく日だから。

 シュテルンビルト一有名な巨大クリスマスツリーの周囲には、浮き足立つ人々がいた。ある者は家族揃って売店へ赴き、ある者は恋人同士でスケートを楽しむ。文字通りの幸せだけが詰まった空間。この日は…誰もが不幸でいてはいけない家族の日の筈だった。季節柄、しんしんと寒いだけの筈の空気も、この場所だけはどこかじんわりとした暖かさを生み出すかのように朗らかで、でもただ一人やってきたバーナビーだけは異彩を放つかのように、歩いていた。
 周囲の空気がざわめく――― それは人々がバーナビーという存在の認識をしているからこそ、皆…遠巻きにしつつ、離れるのだ。クリスマスツリーの下を歩いても、誰も声をかける人間はいない。察しているのだ。つい数時間前に起きた惨劇を。バーナビーの相棒であるワイルドタイガー死去の訃報を。
 浮かれている空気も嫌うかのように、憂鬱な表情でバーナビーは忌々しくもクリスマスツリーの前に立つ。それは、またたった一人となる日を認識するために。以前、居たのは大切な両親。それを失ってからは、誰も好きになれるはずもなかった。もう誰も近くには寄せないと思ったのに、勝手に入り込んできた人間がいた。そう…でも虎徹はもういない。
 クリスマスイヴに死ぬものではないなとわかっても、うれしい筈もない。少なくとも神父様は予約済のイベント毎に引っ張りだこだ。これから年末にかけて忙しく、牧師様もつかの間の休日に入る為、虎徹の遺体は年明けの葬式まで冷凍保存決定だった。氷結された冷たい身体に寄り添いたくとも、結局…彼の遺族の希望で彼の遺体はオリエンタルタウンへと移送されてしまった。だから、今のバーナビーの手元にはなにもない。

 そして、雨は降る。
 葬儀は虎徹の実家で、しめやかに行われた。誰もがその死を慈しむ。生前の人柄を慕ってか、多くの参列者に彼の生家は溢れる。それは決してヒーローだったからというわけではない。たとえ正体を知らなくとも、誰もが彼に親愛を抱いていたのだ。葬式は形式上通りではあったが、予想以上に皆はなるべく明るく振る舞った。元々、明るく賑やかな性格だったからこそ、表面上はそれに倣うようにしたのだろう。お清めの席でも、天へと話しかけるように自然に昔話に花が咲く。でも本当は早すぎる死を誰もが受け入れたくなくて、無理にでもしゃべるしかなかったのかもしれない。これだけ、好かれていた人間を失くした。人というのはこんなにも簡単に亡くなってしまうものという現実だけが、今バーナビーの手元に落ちた。
 そうして、火葬場から戻ってきた虎徹は小さな箱の中の骨へと成り下がっていた。そのまま親族が連れ立って向かう鏑木家の墓地に、バーナビーも請われて同行した。
 鏑木家が檀家に入っている寺は、小高い山腹にあった。寺に賑やかな場所は似合わないとはいえ、それにしても寂しい場所だった。元々このあたりの寺の数も少ないようで、地域の墓はすべてこの寺の裏山にあるくらいだ。片田舎にしてはかなりの数の墓石が見える。先祖代々の鏑木家の墓はその中でも古い部類に入るらしく、住職の墓が連なる更なる奥にあった。雨はまだ降り続いているが、それほど酷い本降りというわけでもない。じっくりゆっくりと整備され尽くしていない土の上を歩き、目的の墓を目指す。
 いくらバーナビーが虎徹の相棒とはいえ、今までこの墓の前に来たことさえ無かった。そんな必要があるとは思いもしなかったからこそ、皮肉のように今を歩かされる。小山を登るかのように、裏山の入り口から十五分ほど進むと、ようやく鏑木家の墓と対面した。墓自体がそれほど新しいというわけではないが、普段から手入れをしているらしく無駄な草木も生えておらず清々した様子だった。隣には鏑木家本家の墓。次男だったので別の墓だからこそ、まだ比較的新しい部類に入るのだろう。そこに今眠っているのは、彼のかつての妻。そうしてこれから虎徹もこの中へと入る。前方で、住職が何かを言っているが聞き取れるわけもなく、ただ言われるがままに、一連の動作をおこなった。親族の誰かが、後ろの墓石をずらし…小さくなった骨壺を納めているのを、他人事のように眺めるだけ。これで終わりだ。おしまいなのだ。これでもクリスマスや年越しを挟んだせいで長い方だったのだろう。通常、通夜葬式の後に直ぐこれらしいから。そうして、鏑木家の墓の前でバーナビーは呆然と立ち尽くした。
 これで、虎徹は幸せなのだろうか。満足に行けるのだろうか。そんなことはない。いくら隣に先祖代々の骨と一緒でも、同じ場所に奥さんがいても…きっと寂しい。ただ、許せなかった。虎徹の死因ではない。今、この状況を、だ。

 だから、もう振り返らない。きびすを返して、バーナビーは一人その場を離れようとした。だが、一人の男が後ろから肩を叩き、声をかけてきた。それは、知らない人間だ。
「もう、帰るのか?」
 一際異彩輝く見事なバーナビーの金の髪もくすんだかのような雨の下で、もたらされる言葉。いくらKOFとはいえ、仕事上のパートナーを突然失った現状にとても耐えられないのかと思われたのか。単純に心配する声が伝わってきた。
「ええ…………ああ、そういえば貴方は虎徹さんのいとこでしたね。是非、虎徹さんと一緒に死んであげて下さい」
「は?」
 突然すぎる言葉に、何を言われているのかわかる筈もない。虎徹のいとこである男は一つ首を傾げて、きっとバーナビーはあまりの事態にどこかおかしくなったのだろうという認識をした。そして、しばらくはバーナビーが元来た道を淀みなく戻っていく姿を眺めていたが、直ぐ自分も未だ皆が墓参りをしている鏑木家の墓の前に戻っていった。

 そして、不幸が起きた。
 裏山に面していた鏑木家の墓への崖崩れ…それは巨大な岩。断崖絶壁からの地すべりに、周囲はあっと言う間に巻き込まれた。せき止めるものはなにもなく、あっけなく人々は飲み込まれてしまった。



「きっと一人でいくのは、寂しい…ですよね。みんなで一緒に死ねて、これで虎徹さんも幸せになれると思います。ただ…僕には、貴方と一緒に死ぬ価値もないですけど」
 惨事をきちんと見届けて、バーナビーは空へ向かった虎徹へと追悼の意を示した。
 それは、虎徹をあっさりと死ぬことを許した世界が憎いバーナビーの、手始めの第一歩だった。











世 界 で 一 番 大 嫌 い な 日