『経費削減(Spending cut)』
ヒーロー事業部にやってきたロイズが、バンッとA4サイズのボール紙をフロアの一番目立つ壁に貼り付けた。
そこは虎徹とバーナビーがパソコンから視線を上げると一番目にする場所で。
その紙に書かれた経費削減という文字のインパクトは、最大の効果を発揮する筈だった…
アポロンメディア社は、大都市シュテルンビルト内だけではなく他地区の同業種企業とも資本提携などをする世界有数の広告代理店である。
そんな会社に入社するのに必要なことは単純に優秀であることだけではなく、限りなくコネが必要だった。
世間的に年配と揶揄される年代に突入してしまったそのおばちゃんも、その道を辿ってきてこの会社に君臨していた。
コネの何が悪い。利用できるものは利用して生き抜いていくのが世の中というものであるという開き直りっぷりとハングリー精神が必要なのである。
それにいくらコネがあっても、本当のカスが生き残れるほどここは甘い会社ではなかった。
経理部で長年バリバリのお局として他を圧倒してきたおばちゃんは、この度人事異動を貰った。
それは会社が長年構想していたヒーロー事業部が設立されることになり、そこへの引き抜きという形での配属であった。
なんて素晴らしい。明るい新事業への抜擢は、男社会しか生き残れない昔ながらの古臭く唐変木な会社気質の中での、女性の中では栄転にも近かった。
アポロンメディア社はヒーローテレビのマネージメント専属から一歩踏み出し、今度から自社でヒーローを抱えてやっていくということで、関係者の中でも限られた人間しかヒーローの正体を知ることは出来ないらしい。
新しい上司にあたるロイズから色々と企業秘密を聞かされて守秘義務の契約書にサインをして、おばちゃんは物凄く上機嫌だった。
これからは新しい職場で輝かしい仕事が待ち受けている…そう思っていた。
しかし…現実は甘くなかった。
ここに、事務所のフロアがあります。自分(おばちゃん)がいます。男が二人います。ただ、それだけ………
上司であるロイズはヒーロー事業部だけを統括しているわけではないらしく、仕事をする部屋も完全別。メカニックチームがこんな高層で仕事をするはずもなく、人数は揃っているが作業する場所は完全別。
ということで、おばちゃんだけがヒーローであるワイルドタイガーとバーナビー・ブルックスJr.と同室にいなければいけないという構図になってしまった。
最初は喜んだのかもしれない。何と言っても、バーナビー・ブルックスJr.といえば無駄にイケメンすぎるほど抜群に恰好よくファンサービスにも長けている。ワイルドタイガーの方も冴えないオヤジではあるが、それなりにベテランのヒーローである。
今まで経理部で女性ばかりに囲まれてきたから、年代が違うしそれほど好みではなくても男性がいる方がやっかみもなくて楽だった。
それに二人は仕事柄このフロアにいないことも多いし、気楽だと思っていた。最初だけ…
おばちゃんはヒーロー事業部内の総務経理を一手に引き受けているのだが、もうひとつ…上から指示されている仕事があった。
それは、バーナビーとワイルドタイガーの様子を観察して、毎日業務日報の一つとして上司に送ることであった。
詳しい理由なんて聞かされていないが、二人が色々と特殊な立場な人間であることに変わりはないし、必要業務と言われればすんなり受け入れられる。
別にそこまで綿密に書くことを要求はされていないし、提出した後の内容に関して今まで追求されたこともないので最初は片手間程度でやっていたのだが、徐々に変化した。
一言で説明すると、問題が起きたのである。
なんと………あっさりとくっつきやがったのだ。この二人は!
ゲイだとは気がつかなかったよ、こっちは。
年齢も性格も違いすぎるし、完全に油断していた。
シュテルンビルトで同姓婚は随分前から認められているし、野次るほど珍しいってわけではないが、途端にこのフロアが恐ろしい空間に成り下がった。
TVの前ではそれなりに仲の良いコンビを演じているが、もう…会社帰って来ると………イチャイチャイチャイチャしているようにしか見えない…
本人達は一応自覚ないらしく(もしかしてバーナビーは若干わざとか?)こちらは嫌みとして悪態の一つや二つついているというのに全く効果なし。恋も、愛も、恐ろしいほどに盲目なものらしい。
こっちは悪徳高いお局として、使えない駄目な新人をいびりで何人かリタイヤさせたこともあるというのに、このラブパワーには勝てる気がしなかった。
そんな…自分たち二人の世界を作っちゃうバカップルだったが、さすがにいきなり上司であるロイズがやってきて、ポスターの如くボール紙を貼り付けた時は現実世界に戻ってくれたらしい。できれば、いつもそうしろよ。
「ロイズさん…これ、何ですか?」
思わず立ち上がったヒーロー名ワイルドタイガーこと中の人、鏑木・T・虎徹はポスターを指差して、こてんっと首を傾げる。
バーナビーも同様だったらしく、その横で無言の同じくを示しているようだ。
「説明は彼女に頼んであるから。あと、よろしく」
彼女というか自分(おばちゃん)を示して、ロイズはあっさりとまるで来た時のように退室してしまう。
後に残されたのは結局いつもの三人で、視線は当然のことながらこちらに集まる。
「どういうことですか?」
今度はきちんとこちらへ疑問の声を向けたらしく、バーナビーが声を出してくる。
相変わらずハンサムなのに、実情は色々と勿体ない男である。
「言葉通り。経費削減しなさいってことよ」
ちょいちょいっと二人を自分の事務机の上に呼びつけながらも、概要を言う。
何だかまだよくわかっていなく面倒くさそうな虎徹は足取りが遅かったが、それでもおばちゃんは椅子に座り、それを挟まずに男二人が目の前にたたずむという微妙な位置関係になった。
「経費削減…つったってなぁ」
珍しくその意味自体は知っていたらしい虎徹が、だるそうに身体を傾けて言ってくる。どうやら相当やる気はないらしい。
「はい、これ読んで。うちの事業部の、販売費および一般管理費の集計表だから」
パシリと叩きつけるように、二人それぞれにA4のコピー用紙を提示する。
簡素化の為にそれほどの枚数はないが、数字の羅列だけは半端ない内容で、むしろ数字しかないと言っても過言ではない。
「うげー、俺…数字とか大嫌いなんだけど」
明らかに嫌そうな顔と口調で虎徹は書類を受け取り、パラパラと数字の羅列を眺めるが、全然理解をしている様子はない。目を滑らせるように流しているだけだ。
「あの…僕達一応社員なんですけど、こんなに詳細に見せていいんですか?」
逆に理解に努めているバーナビーの方は少し驚きながらも、数字を読み込んでいる。
ざっくりと眺めただけでもその内容がわかるらしく、虎徹とは大違いな態度だ。
「これ上からの通達だから。売上と給料は一応見せてないから平気でしょ。売上って言っても、契約固定のスポンサー収入と、随時貴方達が受けている撮影や取材とか広告収入くらいかしらね。今回はとりあえず経費をって事」
給料は言わずと知れず年俸制で、二人は自分のランク付けを知っているだろうからそもそも必要ないという話だ。
年俸査定は契約更新時に決まるもので、ここで簡単に削減出来るものではない。
「経費ねぇ…これ、意外と安くすんでいるんだなぁ」
目でなぞりながらも虎徹は簡単に言っとく。あまりわからないふりすると怒られると過去の経験から学んでいるからだ。
「もしかして、単位間違って見てませんか?右上を見て下さい。これ、100ドル単位ですよ」
ちょっと虎徹の見ている紙を覗き込んで、バーナビーはその右上を指差した。
相変わらずいちいち顔を近づけて……見ているこちらは砂吐きそうで、おばちゃんはその光景を直視するのをやめた。
「100ドル単位?…つーことは、いち…じゅう…ひゃく…あー駄目だ。わかんねぇ」
虎徹は試しに指で右からなぞりながら、一つ一つの桁を確認し始めた。
余程普段馴染みがないのであろう。正直、子どもと同レベルである。
「数字の間にコンマ(,)があるでしょう。これ3桁ごとですから、それを目印にして下さい」
この的確なアドバイスを、わざわざ耳元で囁くというウザい行為でなければ感心するのに、本当に虎徹に対しては残念な男だバーナビー…とおばちゃんは毎度の失望を胸にする。
「あーえーと………マジかよ!めっちゃ金かかってね?」
いくらかぐたぐだと数えていたのだが、やっと具体的な金額がわかったらしく、虎徹は大げさに騒ぐ。
一般人からすると有る程度以上の金額になると生活的に自分に馴染みがないせいか、もうわけがわからなくなるらしいから、その対応に似ている感じがする。
「初めからそう言っているじゃない。だから削減しろって言われているのよ」
おばちゃんは、ややジト目で虎徹を睨んでやったが、多分効果はないであろう。
そうは思っても、やらなければ心が収まらないぐらい色々とこっちは荒んでいる。
「常識的に考えると、金額が高い経費から減らしていくのが効率的だと思いますが…」
「そうだな。それでいいんじゃね?」
ちょっと苦笑しながらもバーナビーが言っていたのに気がつかず、虎徹は安楽的に右に倣った声を出す。
「貴方ねぇ…人件費を除いて一番かかっている経費なんだと思ってるの?良く見て」
パシパシッと何度か書類を指で弾いてこちらは強烈に主張する。
金額に実感が持てたのだから、ざっくりと内容全体くらいは把握したかと思ったが、やはり勘違いだったらしいから腹立たしい。
「えーと………もしかして、賠償金?」
やっと気がついたようで、虎徹から放たれた若干その単語を言う時は声小さめである。嫌な汗でもかいているのだろうか。
一応悪びれた様子を見せているから、申し訳ないという気持ちは、少しはあるらしい。
「そうよ。だから物壊すなって言ってるの」
より一段強い声を出して、その事を言ってやる。
毎度毎度のことだが、これで少しはわかっただろうかという思いを込めて。
「でもさ、でもさ。この、保険料だってめっちゃ高いぞ!何でだ?」
虎徹は、少し逃げるするように次のターゲットを無理やり見つけて反撃する。確かに指を差した保険料も、物凄く高い事は事実なのだから。
「それ、物損の保険料だから。貴方が物壊す時、有る程度少額な物は保険使ってるのよ。おかげで、等級下がりまくっているから無駄に高い。もしかしたら来年は保険料安くなるかもね。だって、もう補償限界だって保険会社から通達来てるから。そしたら全部会社が賠償金払うことになるわね」
火に油を注ぐとはこのことだろうというぐらい、おばちゃんは捲し立てる。勘定科目の意味もわかっていないのに、文句を言う方が悪いのである。
「えーとえーと………おい、バニー。この『減価償却費』って何だ?」
まだ一応諦めていなかったらしく、金額の高い経費を見つけて小声でバーナビーに尋ねてみている。
他の経費はその名前から何となくどんな内容だかわかるようなわからないような感じなのだが、これだけは圧倒的に馴染みのない単語なのに、嫌に金額が高いから気になっているようだ。
「実は、機械とか車とか高額な物を買うと一度に経費には出来ない仕組みなんです。法定耐用年数という何年ぐらい使えるかと試算した年数で、毎年経費にしていく。これを計上したのが減価償却費と言うんですよ」
本当は定額法とか定率法とかあって単純な年数で割り出せないから、もっと複雑な仕組みなのだが、なるべく虎徹にもわかるように可能な限り噛み砕いてバーナビーは説明しているようだった。
「ふーん。そうなのか。つか、バニー…なんでそんなに知ってんの?爆弾処理知識とかはともかくさ。こんな知識までヒーローに必要だったのか」
前々から博識な相棒だとは思っていたが、淀みなく会計学っぽい説明までしてくれるとは。こいつパーフェクトなんじゃないかと疑うぐらいな目を向けて、虎徹は違う方向の質問を投げる。
「いえ、確定申告の為の知識ですけど」
シュテルンビルト市民は、労働者ならば確定申告をするのが義務である。
収入があるのならばそれが給料だろうが事業だろうが全て、1年まとめて4月15日までに申告をしなければならない。
毎月給料からは源泉徴収されているとはいえ、それによって自分がいくら税金を納めているかを実感していくのである。
もちろん虎徹も確定申告をしている筈で、だからこそこんなに会計に疎いのはある意味奇跡だった。
「確定申告ねぇ…俺、給与収入ぐらいしかないから、書類だけ役所の人に渡して全部やってもらっているからなぁ」
ふむふむなるほどと思いつつ、自分の例を持ち上げる。
「僕は両親からの遺産の関係で、不動産管理していますから。あとは個人的に株をいくつか。自然に身についた知識ですかね」
「へぇ〜凄いな。で、説明してもらって悪いんだけど、結局まだ減価償却費ってまだよくわかんねぇんだけど」
申し訳ないとは思ったが、わからないものはわからないのだから仕方がないようだ。
わからないことをわからないままで終わらせようとしていないだけマシというところだろうか。
「そうですね…簡単に言うと設備投資をした金額…だと思ってもえらば」
あまりに単純だが、バーナビーは何とかざっくばらんに説明する。これが本人にも多分限界だろう。
会計の基礎が理解できない人間に1から説明する方が時間かかってしまうからしようがない。
「あー設備投資ね。うんうん。つーことは、それ無駄にやりすぎってことね。ここ削減すべきじゃね?」
単純明快に虎徹は結論づけて言葉をだしてみる。
「虎徹さん…多分。設備投資って、僕達のバイクとかメカニックの機械とかのことですよ」
バーナビーはわかっているようで、すかさず小声で、そこへ突っ込む危険性を指摘した。
わからないように言っているつもりなのかどうなのか知らないが、聞こえなくともこちらから言っていることは何となくわかる内容だ。
「うーん。そうだよな…紙装備で死にたくはないよな。あと高いのは………修繕費と弁護士費用……………いえ、もう何でもありません」
もはや従った方がいいと判断したのだか、直立不動で虎徹はこちらに向き直った。
下手な勘定科目を指摘しても大体、何か虎徹が原因だったりするから危ないものだ。
「貴方の壊し癖は口が酸っぱくなるほど指摘してるけど、今回は別の視点から経費削減しろって言われているのよ」
もはや賠償金関係のことは毎日毎日言っている事なのであるが、治らないのだから仕方ない。
この件に関しては、正義の壊し屋のネームバリューとしての必要経費だとわりきってロイズも若干諦め気味らしい。
それでも無理なら他の部分で良いから、出来うる限り削減しろということだ。
「しかし、あと…僕達が関係のある経費って、あまりないような気がするのですが」
基本的に一番無駄遣いと言われているようなものは、接待交際費なのだろうが、バーナビーや虎徹は営業とは少し違う役割にいるので、その部分を自由に使っていいという契約にはなっていないし、スポンサー相手だとこちらがお金を出すというよりは相手に払ってもらう方が多いと言う奇妙な構図になっているのだ。
あとは、日々の消耗品や事務用品を少々。通信費や水道光熱費などの固定費も節約意識を入れれば確かに前よりは削減可能かもしれないが、それも微々たるものではないだろうか。
多分ロイズが求めているような劇的な削減は、とても難しく感じているようだった。
「とりあえず期限は一か月。ある程度の結果が出せなければ、来年の年俸の査定を考えるそうよ。じゃあ、頑張って」
「げっ…マジかよ………」
青くなる虎徹の声をスルーして、用件だけ告げるとおばちゃんは一人パソコンに向き直って、蜘蛛の子を散らすように自分の席に戻るようにと視線を促した。駄目なら、しっしっと仕草まで付け加える所存で。
「…わかりました。少し考えてみます。行きましょう、虎徹さん」
少し顎に手をあてて考える仕草をしたバーナビーは、給料が下がるかもしれないと困り果てている虎徹の手を、安心させるように引っ張った。
だからいちいち手を握らなくてもいいだろう…と突っ込んだら、負けだと思った。
まさか、この経費削減がとんでもない方向に転ぶとは思わずに………
それから一ヶ月と少し経過した後、おばちゃんは上司であるロイズに呼び出された。
その部屋は、それほど広いというわけでもないが周囲の高層ビルが一通り見渡せるぐらいの高度にあるため、解放感はあるほうだろう。
応接セットとロイズの執務机の間に立ったおばちゃんは、黙って上司の反応を待った。
既に一か月の経費削減成果に関するレポートはメールで送ってあり、今ロイズの手元でめくられている書類は正しくそれなのであった。
もちろん呼びつけられた用件も、その件なのだろうと皆目見当がつくほど安直で。
「レポートを見させてもらったが、成果が出ているようで驚いたよ。正直あまり期待していなかったのだが、まさかこれほどとは………」
経費の前月対比を見ながらも、至極満足そうにロイズは声を出す。
いつもあまり良い顔をしないタイプなので、おばちゃん相手にこんな顔を見るのはもしかしたら初めてだったかもしれないというほど上機嫌であると読みとれる。
「それは…良かったですね」
まるで他人事のようにおばちゃんは返答する。
実際、本当に他人の事なのだ。自分なりに出来うる限りの経費削減をしたのだが、事実確かに非常に頑張ったのは自分ではなく、バーナビーと虎徹の方なのだから。
「特に、旅費交通費と車両費の削減が素晴らしい。前月対比で30%減とは…一体どうやったのかね?」
全体的に減少傾向にあったものの、確かにその二つの項目の費用収益対応の原則に対しての効果は絶大であった。
あまり言いたくなかったが、説明を求められているのだから仕方なくおばちゃんは重い口を開いた。
「車両費は。あのバイクなんですけど、燃費がリッター10キロくらいしか走らなくて凄く燃費が悪いんですよ。それなのに毎日つけてもらっている車輌日誌を確認すると、バーナビーもワイルドタイガーもお互いの家を行き来しているようなので…今までは余計に燃料費がかかっていました。それを必要時以外は地下鉄などに切り替えたようです」
これを提案したのは自分ではなくバーナビーなので、おばちゃんはざっくばらんに説明する形となる。
「ふむ、なるほど。でもそれにしては、旅費交通費も随分と削減しているようだが。非課税の通勤費はこちらから支出しているのだよね?」
車両費削減の仕組みは理解したが、その分ひっ迫するはずの旅費交通費も比例して減少していることが目についたので、ロイズは再び尋ねる。
手元のデータには、単純な金額の総計だけではなく総勘定元帳の転記による逐一の出金伝票により内容も確認出来ているのだ。
それなのに一回一回の金額は、予想外にとても少額に思えた。
「それは、今まで個別に移動して来たのもなるべく二人合わせているようだからみたいです。詳しくは聞いてませんけど………バーナビーの家の方が会社に近いからという理由で、ワイルドタイガーは今そっちに住んでいるみたいですよ」
若干言いにくい出来事だったが事実なのだから、説明はそれしか出来ない。
おばちゃんはあっさりと、二人の内情を吐露した。
正直、直接…同棲し始めてました!と宣言される方が非常に鬱陶しくて仕方ないだろうが、それでも二人が話している内容から、徐々に知っていくという手段もなかなかウザいものだった。鬱が増したとしかこれは言えない。
「………そ、そうか。それは………ご苦労だったね」
そこまで明確に聞いて、さすがにロイズも狼狽するように軽くせき込んだ。視線も妙に外れる。
ロイズからしてもバーナビーと虎徹の関係は手をこまねいているようで、そんなに真剣に触れたい話題でもないらしい。
それに、まだたまにしか二人に接触しないから慣れていないのだろう。
こっちは毎日のことなのだから、慣れる以外にあの場で神経図太くいられる方法は存在していない。
「もう、用件はないですよね?」
「ああ…退室したまえ」
おばちゃんの追及に関してもはやロイズは二の句を告げる気力もないらしく、あっさりとそれを認める。
「では、失礼しました」
おばちゃんもそれ以上は何も言わずに、さっさと部屋を出た。
結果は確かに出せたのだが、全く嬉しくないということがあるとは思わなかった。人生何があるかわからない。これで、もし次の査定で昇給率が上昇したとしても、なんか空しいし嫌だ。
オフィスに戻ると、タイミング悪くバーナビーと虎徹が席でいちゃついていた。
二人の机を隔てる仕切りがあるから、バーナビーの腕が身を乗り出す格好となっている。
もはや隠す気もないらしいから、こちらは横を通り過ぎて、スルーして自分の席につく。
「虎徹さん…虎徹さん。次の確定申告は、夫婦合算申告しませんか?単独で申告するより税金が安くなるんですよ」
調子に乗ってさり気無く告白しているバーナビーのセリフを聞いて、アポロンメディア社は職場婚したら二人の部署が離れる規定かどうか調べる為に、おばちゃんは社員就業規則がしまってあるファイルを探し始めた。