※ このお話は、ザ★ヒーローショウにて無料配布した内容と同一となります。








 バーナビーの休日の過ごし方の一つに、トレーニングがある。
 それはヒーローという職業柄、常日頃から意識しなくてはいけないことで、必然的にやるべきものという認識を持っている。だからと過敏に言っても、バーナビー自身が別段とトレーニングを嫌っているというわけでもない。だから、そこは虎徹とは随分と正反対だな…とずっと思っていた。
「えーと。バニーは………っと、」
 思わずそう呟きながらも虎徹は、ヒーロー事業部の壁にかかっているクリップボードに目をやって、この場にいないバーナビーのタイムスケジュールを確認した。そこには事前の予定が書かれている筈なのだが、ちょうど今のこの時間帯は空白となっていた。おかしいな…と思いながら、次に随時書くタイプの行き先予定表に目を向ける。
「シミュレーションルーム? またか」
 流麗なバーナビーの文字で書かれていた行き先を合致しながらも、そう声を漏らした。最近のバーナビーというと、少し時間が空けばシミュレーションルームに詰めることが多くなっていた。不思議がるのと好奇心ついでに気になって虎徹も足を運ぶと、何やら斎藤さんと意気投合している姿さえ見せていた。どうやら何かのテストに協力しているらしいが…興味本位で自分も首を突っ込むと虎徹の方も実験台にされる可能性もあるので、あまり近寄らないようにしていたのだが。今日は、斎藤さんが日頃とらないせいで有給が溜まっており、その消化中であると聞いていた。たまにはバーナビーの様子でも見に行くか、と。まるで散歩がてらのように虎徹は足を進めた。
 メカニックルームは関係者以外の立ち入りが厳重に禁止されているのだが、ヒーロースーツの性能テストで足繁に通うことが多いせいか、連絡もせずに無断で行っても虎徹の網膜チェックで扉は開くので慣れた足取りでメインルームへと向かう。
「………あー、そうか。モニター操作の仕方がわからないな」
 タイミング悪く誰もいないフロア。集約されたタッチ式パネルを前に虎徹は少し途方に暮れた。バーナビーがシミュレーションルームにいるのは信号でわかるのだが、いつも斎藤さんの後ろから眺めているだけなので詳細なパネル操作がわからないのだ。自慢ではないが機械がそれほど得意な方ではないので、壊したら…ヒーロー時以外でもクラッシャーと呼ばれてしまう。それだけは勘弁したい。出来るならモニターでひっそりとバーナビーの様子を眺める程度で収めようとしたのだが、それは叶わないらしい。しかし、折角ここまで足を運んだのだから、やはり無理をしないようにと声くらいかけた方がいいだろうなと判断した。そうして虎徹はメインルームを出ると、足早にシミュレーションルームへと向かうことになった。



◇ ◇ ◇



 そこはまるで、もやが…かかったような空間だった。
 シミュレーションルームは機械で擬似的にどんな有り得ない状況でも再現出来るとはいえ、この濃霧は虎徹としても予想外で、油断していたまま目が霞む。かろうじて把握できるのは手を伸ばした先程度という悪視界で、中の様子はさっぱりだった。
「バニー。入るぞ」
 一応それなりに大きな声で叫んでみたが、声が奥へと通る様子はさっぱりない。だからと言ってぼうっと突っ立っているのも性に合わないので仕方なく、迷子になるのだけは避けて入口周辺を少しだけ歩いていた。
 瞬間―――
 やってきたのは、白い水蒸気が空を切る風を起こす物体。それが殺意を持って来た攻撃だと虎徹が認識出来たのは、理解するより本能が先に反応したからだった。それでも身体全体を動かし避けるという選択肢はもはや用意されておらず、辛うじて反射的に両腕を顔の前でクロスして、迫りくる衝撃に身を構えた。
 瞬く間にドンッ!という激しい震動と音が虎徹の両腕に力を込めてぶつかる。当たった角度が幸運にも良かったらしくうまく拡散した力が逃げてくれるのが、瞬時に来た痺れで理解した。
「………あれ。もしかして、貴方は本物の虎徹さん…ですか?」
 やはり攻撃して来たのはバーナビーで、風でわずかに薄くなった霧から姿を見せた。振り上げていた右足をゆっくりと下しながらも厳しい眼つきから、いつもの様子を見せることとなる。
「よっ」
 正直少しピリピリとした痺れが虎徹の両腕を襲っていたが、それでもぷらぷらとその腕を振り、何でもないように表現するくらいには余裕があった。
「危ないじゃないですか…全く、一体何しに来たんですか?」
 やれやれと言った様子を見せながら警告をし、バーナビーは息をつく。
「いや、ちょっとバニーが頑張っているようだし、手伝いでもしてあげようかなって。
 しかし、何この霧? 凄いね」
 述べるのは素直な感想。ホワイトアウトによる視界ゼロとまではいかないが、それでも目の前に居るバーナビーでさえうっすらぼやけるくらいだ。これでは先ほど間違えて虎徹を攻撃して来たのも無理はない。こんな場所に、こもりきりになって訓練をするとは随分と熱心だなとさえ感じる。
「そうですね。ちょうど休憩しようと思っていたところですから、解きますよ」
 そう言ってバーナビーは壁に設置されたパネルまですたすたと歩き、手慣れた手つきでいくつかのボタンを操作する。途端に、まるで換気扇が動いたかのようにぼんやりとしていた視界が開けて来た。霧が徐々に晴れて行く―――

 全ての場が曝け出された時。初めて虎徹はその惨事を目のあたりにすることとなった。
「なっ………ん、だ…これ」
 思わず口を開けたままも息を飲む光景。広がるフロアに転がっていたものがあったのだ。
 小さい物は手の平サイズ。大きなものは…いや、それが大方を占めている、人型。部品の数々。そう、これは…かつて虎徹とバーナビーを襲ったH-01と呼ばれたワイルドタイガーを模したアンドロイドだった。
 今となっては負の遺産とはいえ、最終的な管理はアポロンメディアに任せられたH-01。その認識しか虎徹には無く、あれ以来見るのさえ初めてだった。それが…ただの一体限りではない。指折りで数えるより余程多い数が、無残にも一帯に壊れて横たわっていたのだ。ある者は腹部に穴を開け、ある者は頭部をぶっ飛ばされ、ある者は四体を全部ばらして。各々の身に起こりえたことを如実に示していた。
「斎藤さんには…僕みたいに記憶操作や洗脳された時………と想定して、虎徹さんの身体データをインプットしてもらったんですけど。やっぱり機械は駄目ですね。想定内の動きしかし てきくれないって、さっき虎徹さんに攻撃して利かなくて…よくわかりました」
 あの攻撃は間違いではなかったと平然と示唆する言葉を吐き、とても残念そうに肩を落としてすくむ様子さえ見せる。
 思わず虎徹は後ずさったが、いつもならば自然に開く入口の自動認識は作動しなかった。それが、先ほどバーナビーがパネル操作していた一環だとは直ぐに気がつく筈もなく。
「そういえば虎徹さん。さっき、手伝ってくれるって言ってましたよね?やっぱり虎徹さんとは一度もっと真剣に殺し合いをしたいと思ってました」
 虎徹が後ずさった分だけバーナビーはじわりと間合いを詰めて来る。
「俺を…殺すのか?」
 もはや、そう尋ねても仕方がないのかもしれないが、今の虎徹の思考がマトモに回るのは酷く難しく、本能的な言葉が口をついて出た。
「ただ殺すだけなんてもったいないですよ。うまく綺麗に虎徹さんを殺そうってH-01を何匹も何匹も殺して虎徹さんを殺す練習だけはたくさんしましたから、安心して下さい」
「何が…目的だ」
 驚愕に怒りも湧き立つことはなく、ただその問いかけだけがこの広い空間に真に響く。
「僕が虎徹さんを殺せば、最期に貴方の瞼に焼き付く光景が僕になるでしょ? さあ、始めましょうか」
 これ以上はない最期を望んで…虎徹に、にじり寄る。



 バーナビーは、別に自分が虎徹に殺されたとしてもかまわなかったのだ。どちらにせよ、その結末は一緒なのだから。











生 き る の が 先 か 、 死 ぬ の が 先 か
I am busy in loving or killing. 2