※ このお話は、虎狩2にて無料配布した内容と同一となります。
鏑木一家は、活気ある大家族とご近所さんでも大変評判だ。父、母、長女、長男、次女、三女、祖父、ペットの犬と大層賑やかで、昨今の少子化や核家族化などなんのその。間違いなく幸せな家庭だった。特に大人は子ども達をとにかく可愛がる傾向にあって、親より子ども達の方がずっとしっかりしているとも言われている。だから皆、仲良く暮らしている筈だった。ある二人の関係を除いては。親は、子ども四人に常に平等に愛を与えていた。だからこそ、特別でありたかった一つの関係がうまくいかなかったのだと…
この時まで、大黒柱で一家の父親でもある虎徹は気がつかなかった。そう…長男のバーナビーと虎徹だけはお世辞にも仲が良いとは言いがたかったのだ。
「バニーは、俺の子供にしては出来すぎた」
何度こう…つぶやいてきたか。長女を筆頭に娘三人も揃ってしっかり者だが、ユーモアがさっぱり通じない長男バーナビー相手に虎徹はずっと苦戦し続けてきた。子ども四人の中で唯一の息子だからかどうかはわからないが、立派で真面目すぎて…虎徹にダメなところがあると注意さえしてくる。まるで立場が逆なくらいだ。これがまさしく反面教師というのかもしれないが、言葉がややキツい傾向にあるのが残念に思う。
「僕の父親として、くれぐれも恥ずかしくないようにして下さいね」
これも何回も言われた。悲しいが、若干現実な部分もあるので反論が出来ないときもある。
虎徹だってバーナビーに歩み寄ろうと、何度も頑張った。例えば、鏑木一家は全員同じ携帯電話会社を使っているから家族割だけではなく家族間なら無料通話の恩恵を受けられる。それもあってなるべくマメに電話したが、バーナビーはいつもそっけない。次に最近流行りの友達親子を目指して「メル友になろうよ」とアドレス登録を虎徹だけが呼ぶ愛称の『バニーちゃん』表示にして言えば「は?」と冷たくあしらわれた。何とか仲良くしようと努力はしているけど、結局は報われない。そんなかみ合わない関係のままの虎徹とバーナビーだったが、今…一番の修羅場にあった。
「そんな大切なことを、なぜ今まで僕に隠していたんですか!」
鏑木一家は大所帯の筈なのに、こういう時に限って娘三人は仲良く揃ってショッピングへ行き、祖父はペットを連れて近所の公園に散歩へ行き、母親は夕飯の買出しへと向かってしまった。つまり、今この広い家には父親である虎徹と長男であるバーナビーの二人きりという状況だ。それ自体もかなり珍しいというのに、悪いことに虎徹はバーナビーに問い詰められている真っ最中だった。
「いや…別に隠していたわけじゃ」
そうは言いながらも、なんとなく問題となったソレを隠してしまうのは、やはり若干後ろめたいからで。
「明らかに隠しているじゃないですか? それに嘘もついていた…僕は貴方の職業はライフセーバーだと、ずっと子どもの頃から聞かされていました」
まざまざと虎徹が隠したモノを指摘するように、バーナビーは苛烈に責める。そう…バレたのだ。虎徹の本当の職業が、ヒーローであるということが………
ヒーローという職業はとにかく危険を伴うことが多い。それはヒーロー自身が怪我をしたりすることも多いというのも要因だったが、なるべく正体を隠すという一点においては…明らかに犯人やその家族からの逆恨みを防ぐ為だ。だから必要以上に他言はしないようにと会社の規定にも書かれている。その他言の範囲はヒーロー個人の裁量に任せられている部分が多く、たとえ家族でも告げるのは自由だった。
「言おうとは思ってたんだよ! でも、タイミングが見つからなくて…それに、バニーは…ワイルドタイガーをテレビで見るといっつも辛口だったし………」
最初こそはまだ幼い子どもだったバーナビー相手に言おうか言わないか…ずっと虎徹は悩んでいて………それがずるずると今まで続いていて。結局、バーナビーが二十五歳になっても言えずにいて、今ついにとうとう最悪の形でバレたわけだが。もっと早く言うつもりだったのだと、心では思っていても確かに言い訳にしか聞こえないだろう。
「僕はいつまでも子どもじゃありません! それに、バニーって呼ばないで下さい。おじさんだけですよ? そんな変なあだ名で僕を呼ぶのは」
それはいつもバーナビーがよく口にする文句の一つではあったが、そこまで言われて虎徹も少しムキになった。なってしまったのだ。
「親にとって、子どもはいつまでも子どもなんだよ。それにお前だって、俺の事をいっつも『おじさん』だとか『貴方』だとか他人行儀に呼んでるじゃねーか」
バーナビーの基本は礼儀正しくて、他の家族の事はきちんと尊敬した家族の呼び名を口にしているのに、虎徹に対してだけは、いつまでも他人行儀な三人称ばかりであった。反抗期長いな…と最初は思っていたが、いつまでもこうでは父親として認められていないのかと心配だったのだ。だから少し感情が漏れ出でてしまったのかもしれない。
「…どうやら話をしても平行線のようですね。失礼します」
即座に虎徹から視界を外したバーナビーは、くるりと後ろを向いてしまう。虎徹の横をすり抜けて、向かう先は部屋の外へと繋がる扉で。
「待てよ。バニー!」
いつもだ…いつもこうなってしまう………ただ言い争いをしてほとぼりが収まるのを待つだけで。
「………貴方が、本当の事を言ってくれるのを…ずっと信じて待っていたのに………」
「え?」
バタンッと少しわざと音を大きく立てて扉が閉まるが、理解できないバーナビーの捨て台詞のように声を耳に入れてしまい、しばらく虎徹は立ち尽くしたままだった。―――どういうことなんだ? バーナビーは全て知っていたのだろうか。逃れられない状況で、ワイルドタイガーのヒーロースーツが見つかった。それはバーナビーがなぜか虎徹の部屋にいたせいで。薄いメタリックスーツが少し開いていたのは完全に虎徹の管理不足のせいだから言い訳するつもりも今更ないが。だとしたら、今まで見てみぬふりをしてきたというのだろうか…
悶々と考えているうちに、出かけていた家族が次々と帰って来たことを告げる、はきはきした声が玄関先から聞こえる。あっという間にいつもの家族所帯に元通り…だ。屈託のない子どもたちの笑顔。その一つだけの陰り。なぜか虎徹はいつまでも違和感をぬぐえなかった。
「バーナビーは?」
年齢的には兄なのに、基本は呼び捨てにする次女カリーナの声が一家団欒の夕食中の食卓の場に響く。
「それが…部屋にいるとは思うのだが、反応がないんだ。困ったな」
一旦持っていた箸を止め、一家の母であるキースは珍しく困り果てた顔を見せた。
「なにかあったの?」
こちらはまだご飯を口の中につめている途中なのか、そのままの状態でもぐもぐとしながらも三女のパオリンが尋ねる。
「私たちが出かける前は普通だったのに…どうしたのかしら?」
洞察力鋭い長女のネイサンがすかさずこちらを見てくるので、虎徹はたちどころに居心地が悪くなってしまった。
「虎徹? お前、何か知ってんのか?」
若干どころか完全な疑いの声が、少し離れた席に座っている祖父であるアントニオから飛んでくる。
「あ…ああ、ちょっとな」
言葉が勝手に濁り、視線もあさっての方向を向きながらも、虎徹は返事をする。が、それはやはり悪い方向に捕らえられてしまったようで。
「またケンカしたの?」
「ほんと、こりないよね。何度目?」
「んもぅっ、いつものこととはいえ、ちょっと呆れるわ」
「原因はどうせいつも虎徹。お前の方だろ?」
「そう…なのかい? それは、いけない。仲直りは早い方がいいと、私は思う」
そうしてそのままの勢いで、五人から一気に追い詰め責められる。これが大家族の良いところでもあり悪いところでもあると、虎徹は少しだけ思ってしまう。今までの所業のせいか、虎徹をフォローする声が一向に飛ばないということはどういうことだろうか。今は絶対バーナビーの方が、虎徹より家族の信頼度が上だと物語っているようだ。
「わーったよ! 寝てるイワンの様子を見るついでに…ちょっーとバニーちゃんの部屋も見てくればいいんだろ?」
父親としての立場とか威厳とか、そういった大切なものを完全に失いかける前に、虎徹は何とか宣言をした。殆ど食べかけだった茶碗をテーブルに置いて、大きなリアクションを含め椅子から立ち上がった。しかし一つの問題が解決すると、話はすぐさま次へと移るもの大家族ならではということだろうか。というか、それくらい虎徹とバーナビーがケンカをするのは日常茶飯事だからか。皆、虎徹をさっさと見送ると、次にカリーナの学校の話へと話題が代わっていた。
ダイニングを後にした虎徹は玄関前を通り、まず我が家に唯一有る畳部屋へと向かう。ふすま越しに見える室内の電気はついていないのようなので、なるべく音を立てないように静かに中を覗うと、座布団の上で犬のイワンは丸まって寝ていた。これは起こさないほうがよいようだ。本当はバーナビーのところへ直ぐに行くのはちょっと気兼ねするからここで時間をつぶそうかと思ったが、残念無念なようだ。二階へ向かう為に再び玄関前を通ると、きちんと揃えられたバーナビーお気に入りの赤いブーツが目に入った。何かない限り外出時はコレを履いているから、やはりバーナビーは自分の部屋にいるのだろう。そのまま少し重い足取りで二階への階段を上がる。二階の四部屋は全て子ども達の部屋で、手前から三女、次女、長女と続き、兄弟唯一の男であるバーナビーは一番奥の角部屋を使っている。
ゆっくりと廊下を歩き、バーナビーの部屋の前にまで着くと一つ深呼吸をする。コンコンコンと、極力静かめにノックを叩く。しかし反応があるわけがなかった。寝ているのだろうか? ふて寝というのもバーナビーには似合わないから、念の為もう一度ノックを入れる。………またも反応なし。
「バニー? ………入るぞ」
呼びかけにも、やはり応じない。部屋の鍵はかかっていなかったから、一声かけてからガチャリとノブを回し中へと入った。室内は真っ暗で、だからこそ一番に虎徹が感じ取ったのは、臭い…だった。鼻腔をかすめるのは、不快としか表現出来ない嫌な苦み。どこか感じの悪い場所で嗅いだ記憶から、虎徹は手を伸ばし、部屋の照明のスイッチを入れた。そこにはいつもとは違う…うな垂れた様子のバーナビーがベッドサイドに座っていた。
「何ですか?」
一度もこちらへは視線を向けずに、バーナビーはうざったいとでも言いたそうな口調で、言葉を投げてきた。しかし虎徹は不機嫌そうな声をまるっきり無視し、ずんずんとベッドサイドのバーナビーに近寄った。仕方なくといった様子で顔を上げたバーナビーに顔を近づけ、虎徹はすんすんと鼻を嗅いだ。
そして一通り臭いの確信をした後に、そのまま少し口を尖らせると、そのまま唇をはわせてバーナビーのと重ねた。触れ合う唇同士が一度だけ割り開いた先で、舌を絡め取る。
「………っ!」
互いの瞳が伏せられるわけもないので、バーナビーの息をのんだ驚愕の瞳が見えたような気もする。ただし、それも一瞬でバーナビーが跳ねのけるだけの時間が与えられてもいなかった。
パンッ!と景気の良い音が、静かな室内にただ響く。虎徹がバーナビーの頬を平手打ちしたのだった。
「バニー! 俺は…お前をそんな子に育てた記憶はないぞ?」
二人の距離は反動で離れたが、それでも虎徹は怒気を含んだ声を飛ばしてバーナビーに詰め寄った。
「ああ…その確認の為ですか」
すべてを納得し、理解したかのように投げやりにバーナビーはつぶやいた。そうしてポケットからタバコを取り出してまざまざと見せたのだ。さっきのはタバコ吸っている確認キスだったとわかったのだろう。
「タバコなんて…家族の誰も吸ってないじゃないか? どうしてお前が…」
まさかの事態に虎徹もバーナビーを問いつめる事しか出来ない。少なくとも今までそんなそぶりさえ見なかったというのに、慣れた様子を見せつけられて、ただ怒る事しかできなかった。
「それがどうかしましたか? 僕は成人年齢なんてとっくに迎えているんですよ。法的には何も問題ないはずですが」
至極当然と言う顔を向けつつ、バーナビー側にも若干の苛立ちの様子が伺えた。それでも虎徹の平手打ちによって少し赤くなった頬を押さえようとするわけでもない。
「そういう問題じゃないだろ! 俺は、お前の健康を心配しているんだ」
酒は自分も嗜んでいるし多少ならば良薬だが、タバコは百害あって一理なしという認識しかない。それをまだ若いバーナビーが吸い始めるだなんて、考えたくもなかったのだ。
「別に心配して下さらなくても結構です。自己管理くらい出来ますから」
そうしてバーナビーはこちらへと見せつけるかのように、オイルライターを手にとって火をつけた。またタバコを吸おうとする。だから…虎徹も苛立ち、指に挟んだタバコをすばやく引き抜き、奪い去る。
「じゃあ、言い方を変える。タバコを吸うのはやめろと言っている」
奪ったタバコを虎徹はぐしゃりと拳の中で握りつぶす。火が若干ついていたが、その熱さも気にならないくらい自分が熱くなっていた。
「僕に命令しないで下さい」
バーナビーに言葉は伝わらない。あくまでも返ってくるのは拒否の言葉ばかりで。
「なぁ…バニー。どうして…どうしてだよ? お前は子どもの頃から品行方正で手のかからない子どもだった。だから俺もきちんとお前の面倒を見なくても大丈夫だと思っていた部分もあったかもしれない。それは悪かった。頼りない父親かもしれないけど、何か悩み事があるなら相談に乗りたいんだ。それさえもダメなのか?」
バーナビーは間違いなく良い子だと、虎徹は今でも思っている。事実、他の家族相手にバーナビーはここまで辛辣ではないから。なぜいつも虎徹にだけ辛く当たるのか…それがわからなくて。どうにかして父と子としての関係を築きたかったのだ…
「貴方に…僕の何がわかるって言うんですか。今だってこうやって拒絶するばかりだ。僕の事わかりもしないで…相談なんて出来るわけがないでしょう?」
暗い顔をしたバーナビーが掴みどころのない主張を口にする。
「だから、こうやって歩み寄ろうと…」
あくまで諫める声を出している途中で、虎徹は言葉を遮られる。
「じゃあ、はっきり言いますよ! 相談したいことがあります。貴方が解決してくれるんですよね?」
いつもより一段抑揚の上がる音で、バーナビーは確認の言葉を出してくる。
「ああ。俺に出来る範囲なら」
少しその気迫に押されながらも、虎徹は頷き答えた。
「…昨日、僕は貴方の部屋にいましたよね。なぜ、無断で立ち入ったと思います?」
それはまるで査問する場のように、質問が飛んでくる。
「それは…俺のヒーロースーツを見つけたからじゃないのか?」
そうだ。それによって今自分たちの関係が悪化している。単純な構図から始まった言い争いだと、虎徹は思いたかったのだ。しかし。
「違いますよ。そんな事の為じゃない…僕はいつも貴方の部屋に足を運んでいましたから、見つけたのは偶然じゃないです」
「そう…なのか?」
知らなかった。虎徹の部屋は、お世辞にも綺麗とはいいがたく、よくバーナビーに掃除するようにと口うるさく言われるくらいで、生活必需品以外は何か変わった物がおいてあるわけではない。何かバーナビーに必要なもので、自分の部屋にあっただろうか…と一瞬頭を巡らせる。だが、その考えは見当違いであったと、続くバーナビーの言葉で粉砕される。
「………僕が貴方の部屋に立ち入るのは、自慰に勤しむ為ですよ」
若干吐き捨てるかのように、バーナビーの声が確かに虎徹の耳元に届いた。
「え?」
疑問を理解する前に、次の言葉が畳み掛けられる。
「僕は貴方を、いつもブチ犯したいと思っているんです。これが相談内容です。わかりました? それで、どうにかしてくれますよね?」
そこまで確定的に告げられて、虎徹は握っていたタバコをポトリと床へ落とした。
「な、何を…」
信じられなかった。あのバーナビーからそんな、まさか………こんな事が、理解の範疇にあるわけがない。
「顔も…性格も似ていないんですよ………僕と貴方は。だったらせめて…」
バーナビーは初めて座っていたベッドから立ち上がり、虎徹へとにじりよってくる。…嫌だった。それなのに虎徹はゆっくりと後ずさる事しか出来ない。走るなんて無理だ。そこまで身体が思考に追いついていない。
「こ、…これ以上近づくな! こんな…俺は、こんなバニーなんて望んでいない!」
今まで家族愛だったと思ったものが全て崩れて行くように、虎徹はただ拒絶する言葉を出すことしか出来ない。
「………気をつけて下さい。ここを守りたいでしょう?僕を拒絶すると貴方、壊れますよ」
口角を少しつり上げながらも、バーナビーは勝手なことばかり言ってくる。
「そ、…それ以上を言うな………」
なんだ。なにが起きた。強烈に嫌な予感が心身に到来して、耳を塞ぎたくなる。おかしい…これは自分の身体の筈なのに、バーナビーに誘導されているかのようで。
「あーあ、折角虎徹さんの望んだ擬似家族ごっこに付き合ってあげていたのに…」
「やめろっ! その名で俺を呼ぶな!」
名前を呼ばれた。バーナビーから見て父としてではなく、単純に鏑木・虎徹としての名前を…
「虎徹さん、本当はもう気づいているんでしょ?」
その言葉を皮切りに、タイムリミットは唐突に訪れた―――訪れてしまった―――バーナビーだけは、いつも虎徹の思い通りにならないのはなぜか? ここは虎徹にとって都合の良いだけの夢の筈なのに。そう…気がついてしまった。これは夢なのだと。
辛うじて保ってきた均衡が崩れて、世界がリセットされるかのように、瞬時にぐちゃぐちゃになる。それはここが虎徹の意識によって作られた世界だからこそ、脆く儚くもあって。暖かいだけの家族………みんな演技をしてくれていた? それはもう決して手が届かないからこそ。誰も絶対に傷つかない家族を虎徹が作りたかったから―――
「おはようございます、虎徹さん。起きてしまったんですね」
目覚めたくないのに起きてしまった今、虎徹は先ほどとはまるで違う世界にいた。いや、ここが本当の世界。夢を見ていたのだ。虎徹にとって都合の良いだけの世界の夢を。実際、虎徹がいるのは白いばかりの隔離病棟の一室。隣にはバーナビーがこちらを見下ろしている。
「今日は楓ちゃんの命日ですからね。いつもより夢見が悪かったかな?」
優しく問いかけるバーナビーが全てを物語ってくれる。そうだった…昔、虎徹が捕まえたNEXT能力者が逆恨みをし、娘の楓を手にかけちょうど一年が経過した。そうしてその犯人も、発作的にバーナビーが殺してしまった。復讐することも出来ずに虎徹は生きて、そうしてベッドに磔にされて動けない。
「まだ…僕が憎いですか?」
「………違う…そうじゃないんだ………」
やっと出した言葉だったが、もうどうでも良かった。
「虎徹さんは、眠っているときが一番幸せですから………辛いなら、寝ていて下さい。僕を楓ちゃんの代わりにでも何でもしていいですから―――」
娘を殺されて狂った虎徹は生かされ続けている。ここは安全だというようにバニーがいてくれる。もう…俺にはなにも残っていないから。だから家庭崩壊などしない夢ばかりをみている。ずっと長い夢をだ…これからも夢の中でだけなら、バーナビーにもつき合えるだろうから。
さきほど起きたばかりなのに虎徹は再び瞳を閉じる。これが現実であることを認めたくないように、どれも夢であるように願って………また、虎徹は次の夢を見る。見続ける―――