「ハァイ! TIGER&BARNABYのラジオ番組、皆様お待ちかねの僕のコーナー。バーナビーの恋愛相談室です。
早速、一通目のハガキですね。R.N『恋する黄色いネコちゃん』
ありがとうございます。可愛いラジオネームですね。

…こんにちは、バーナビー。初めてハガキ送ります。突然ですが最近、彼氏が一緒にいても無言な事が多いんです。怖くて本人も聞けません。どうしたらいいでしょうか?

それは…困った彼氏さんですね。彼女を不安にさせるだなんて…でも安心して。きっと彼は君に伝えたいことがあると思うけど、言葉が見つからないだけだから。もう少し待って様子を見てあげみてはどうかな?彼氏さんを信じてあげることで、更に君たちの関係は良くなると思うよ。頑張って。

………では、二通目のハガキを紹介する前に、CM入ります―――」

「TIGER&BARNABY待望のデビューシングル!『正義の声が聞こえるかい』が近日発売となります。僕とタイガーさんが熱く…甘く…激しく………歌い上げています。店舗初回特典もありますので、詳しくは公式HPをご覧頂ければと思います。皆さんの予約、お待ちしています……………」



今日も番組の生収録が無事に終わり片づけも済んでひと段落すると、お疲れさまでしたーとスタッフ一同の声が響き渡る。
パーソナリティの二人である虎徹とバーナビーも、耳元からイヤフォンを取って席から立ち上がっての軽く会釈で〆る。
「ちょっと、おじさん。さっきハガキを僕に渡す時、モタモタしてませんでしたか?」
帰りの挨拶も一通り終わって、ロイズさんの運転する車の迎えを待っている最中、二人きりなことを言いことにバーナビーの鋭い指摘が入った。
言われた虎徹は、傍目からもわかるほどビクッと肩を震わせる。
「わ、悪かった。ちょっと考え事しててな………」
収録中。余計な雑音が入らないようにと、一部カンペなどの物のやり取りは隣に座っている虎徹が少し離れた場所にいるスタッフ経由でメインパーソナリティを務めるバーナビーに渡している。
その仕草がバーナビーいわく落第点だったらしい。彼自身はアドリブがうまい方だから、何とか虎徹が手間取っても流れるように誤魔化すことが可能だったが、やはりお冠なご様子だ。
「今後は、こういうことがないように気を付けて下さいね。一番人気のコーナーなんですから」
「はいはい、わかってますよ。バーナビーさんが居てこそのラジオ番組ですからね。つーか、何で俺まで一緒に………」
開き直りつつも、虎徹は今までも散々した愚痴をまた呟く。
「僕だって一人でやりたかったですよ。でも、僕達はコンビで売っているので仕方ないでしょう。大体、どうするんですか?デビューシングル…まだ収録終わってないのに、あんなCMしなくちゃいけないし」
どうやら先にデビューシングル発売という事実がネットで発表されて、歌うバーナビー自身はファンから言われて気がついたことを未だに少し根に持っているらしい。
会社の手違いで他の仕事が長引いていたバーナビーには後から伝える結果になってしまったというのが事実なのだが、本人の了承もなしに勝手に色々と進んでいる事には簡単には納得いかない様子を見せた。
文字通り、本当に急遽決まったCDデビューなのだが、意外や意外と歌うことには反対というかご立腹らしい。好きそうなのに。
もうプロジェクトは自分達の知らない場所で勝手に進行していたから、いくらバーナビーがNOと言っても難しいことは事実だが、不機嫌な理由はアレしかないだろうとわかっていて、だから茶化す。
「そのわりには、お前。熱くとか甘くだとか激しくだなんて誇張しまくってなかったか?」
聞いているこっちが恥ずかしくなるような形容詞を並び立てられて、冷やかしを含めて虎徹は言った。
あの部分は特にカンペがあったわけでもないのに販促の言葉もバーナビーの手にかかると、何割増しかに聞こえてくるのが凄い。
「事実です。大体、僕の歌のレコーディングは終わっていますから。貴方は一体いつになったら、マトモに歌える状態になるんですか。ボイストレーニング、きちんとやっているんでしょうね?」
「あー………一応は。自宅で腹筋とかもしてるぜ」
手痛いところを指摘されて、やや視線をずらしながら虎徹は曖昧に答えた。
そうなのだ。最初に二人揃って、何度か打ち合わせをした後、手ほどきを受けてレコーディングという流れになったのだが、バーナビーは一発OKを貰った。
しかし虎徹の方は、音程合ってないとかそういう問題ではないほどどこまでも駄目駄目と言われて、次回に持ち越しという形になってしまったのが、現在進行形。
「早く何とかしてして下さいね。既に僕にまで被害が及んでいるんですから」
そう嫌みをバーナビーが言ったところで、第一の『被害物』がやってきた。
ロイズさん運転の車が、キュッと目の前に到着したのだ。
二人ともお疲れ様。という言葉と共に後部座席に揃って乗り込み、ロイズさんは運転をしながらも今後のスケジュールの確認をこちらにしてきた。
一通りの話が済むと、ロイズさんは運転席側のオーディオに手をかける。
ピッとONが押されると、瞬く間にいつもの音楽が鳴る。鳴り響く。ずっと…
4分05秒の曲が、延々とループされ続ける。ガンガンと、それなりの音量で。
これがバーナビーへともたらされている、被害−−−−
それは、虎徹の歌う曲である『はみだし者賛歌』のデモテープだった。
しつっこいというほど、この曲が流れるようになったのは、もちろん虎徹のレコーディングがいつまで経っても終わらないからだ。
痺れを切らしたロイズさんが行ったのがこの洗脳作戦で、車の中やら職場やら、隙あらばどこでもキリなく音楽をかけることを強要された。
嫌なら早くうまく歌ってレコーディングを終わらせろという暗黙の示唆だ。恐ろしい。
当然コンビとして一緒にいることの多いバーナビーにとっては、これは厄介以外の何者でもない。
こうして定番の曲が流れ始めると、バーナビーは胸ポケットから音楽プレイヤーを取り出してイヤフォンを耳につけ始める。
そうして、そのまま一切押し黙ったまま、音楽空間遮断するのであった。

ラジオ収録スタジオからアポロンメディア社に戻るまでの道中はそれなりに時間がかかった。
虎徹は若干虚ろになりながらも自分の歌う曲を聞かなくてはいけないので、寝たらロイズさんに何言われるかわからない。
ようやく会社に着き、エンジン音が止まるのと比例して、オーディオから流れるその音楽もピタリと止まった。
「おーい、バニー着いたぞ」
寝ているわけではないとは思うが、今のバーナビーは腕と足を組んで目を完全に伏せているから、肩でも揺さぶらないと気がつかない。
仕方なく虎徹は、冗談半分にその金色の髪の隙間から飛び出ていた白いイヤフォンの紐をくいっと引っ張った。
ピンッと張った紐を伝い、ぽろりとバーナビーの左耳から抜ける。
わずかに出来た空間に残るのは残響。
「何するんですか!」
若干怒気をはらんだ声色でバーナビーは眉間に皺を寄せながら言う。
まさかそこまで怒るとは思わなかったので、驚きながらも虎徹は言葉を選ぶ。
「そんなに怒ることないだろ。着いたって教えてやろうと思ったのに」
「…それはわかっていました。今、いいところだったんですよ」
バーナビーは落ちたイヤフォンを拾い上げた後、ポケットの中のプレイヤーを取り出して手元も見ずに電源を切った。
「てかさーバニーちゃん。いつも何、聞いてんの?自分の曲とか??」
曲のいいところっていうからには、サビの途中か何かだったのだろうかと見当をつけて聞いてみる。
虎徹が聞く曲は自分の青春時代に流行した曲なので、今の若い子の流行の曲とかは、あまりわからない。
それ以上にバーナビーの聞く曲なんてもっとわかるはずもなかったからこそ、洗脳作戦を受けている虎徹とは逆に収録し終わった己の曲でも聞いているんじゃないかと思ったのだ。
『POWER OF JUSTICE』バーナビーにしては直球的なタイトルだが、彼が選んだわけでもないだろう。思い出すに若干歌っている最中、自分に酔ってるみたいにも思えたし。
「そんなナルシストみたいなことはしていませんよ。大体、僕の聞いている物を貴方が理解出来るとは思えませんが…」
ここでわざわざカチャリと眼鏡の位置を直して、上から目線を見せる。言うつもりはないらしい。
「あーそうかよ。俺だって、好きで自分の曲聞きまくっているわけじゃないからな」
それじゃあまるでこっちが自分大好きみたいな言われようだったので、虎徹一応反論しておく。
出来るならもう自分のデモテープは聞きたくない。多めに見積もっても、もう多分一生分くらいは聞いたのだから。
「貴方のは自業自得でしょう。
そうですね…その件含めて色々と話たいことがあります。今日の夜開いていますよね?僕の家に来て下さい」
「ぅえええ!?」
確定事項のように言われて盛大に嫌そうな声を虎徹は示したが、それはあっさりと却下されて、ずるずると気持ちが引きずられてしまった。呆気ない。






「っ、…は………ふ、…んっ……ん!…………」
「……く………ぅ……ん…、あ…いやだっ……」
「そこ………もぅ…だ…め……………あっ!!」

静かすぎる空間に響きわたるのは、虎徹の上擦って跳ねる声とベッドのスプリング音だけ。
それが嫌で微かに耳元に伝う他の音を探そうとしても、聞こえてくるのは結局下方から伝わる粘着質を纏う水音くらいだった。
バーナビーと虎徹が、いわゆるこーゆーセックスをする関係になってから随分と回数は重ねているとは思う。
虎徹からすると、この行為は毎回熱くて仕方ないのだが、最近のバーナビーはどこか冷めているようにさえ思える。
元々、普段のバーナビーといえば、虎徹に対してどこまでも辛口で同調しようとはしなかったが、いざ他人の目がない二人きりとなると、性格が変わったかのように独占欲の強い男となる。
付き合う方もその切り替わりに対応しなくてはいけなくて大変だったが、最近のバーナビーはベッドの中でさえ激しいが静かに虎徹を責め立てるばかりで。
そりゃあ変に言葉責めされるよりはマシかもしれないけれども、微かに虎徹の胸にチクリと刺す物があった。

「………それで、話って?」
一通り三回ほどお互いに射精して、うだるように二人まとめてシーツにくるまった時、虎徹はようやくそう聞いた。
今言葉を出したのは、それまで余裕なんてまるでなかったからだ。
バーナビーの望んだ性欲に付き合うがままにもがきあったのだから、意識を飛ばさなかっただけでも今日はマシだっただろう。
ピロートークの代わりを強請ったわけではなかったが、そもそものキッカケがただの口実とは違う色を含んでいた声を思いだし、聞く形となった。
「聞きたいことがあるのは、貴方の方なんじゃないんですか?」
まどろむベッドの中で汗に塗れた前髪を少し除けるようにかきあげながらも、バーナビーは虎徹に向かう。
「は?何で俺になるんだよ」
意味が分からなかった。こちらは、バーナビーが言うからわざわざ足を運んだというのに、何だというのか。
「恋する黄色いネコちゃん…って、言えばわかりますか?」
嫌味ったらしく、わざと首を少し傾げて、バーナビーはそう言ってきた。
「なっ、なっ、なっ、……何で!」
思わず飛び上がってベッドから逃げたかったが、腰に鈍痛を感じるし、それより先に左手首をバーナビーに引っ張られたから、それは叶わなかった。
そうして最終的には、束縛の意思を含めて足をしっかりと絡められる。
「お前…気がついていたのかよ………」
ぶっきらぼうに何とか虎徹は悪態をついたが、自分の顔が異様に赤いのは鏡を見なくてもわかるぐらいだった。
そう…今日ラジオでバーナビーが読んだハガキは正しく虎徹が投稿したものだったのだ。
「きちんと自分のコーナーのハガキくらい目を通していますよ。筆跡で直ぐにわかりました」
あっさり告げてくるバーナビーの言葉を受けて、筆跡という存在を思い出し、虎徹は自分の失念を感じる。
そこまで特徴のある文字を書くというわけではないはずだが、ここまで近くにいると気が付くものなのかもしれない。しかし、それにしても…
「もしかして…お前が選んだのか?」
「ええ」
ここで虎徹は大げさに右手で、額を押さえる。全てわざとだったのだ。
スタッフからあのハガキが回されてきたときの衝撃と言ったら、こちらは計り知れなかったというのに。大体、おかしいと思ったのだ。バーナビーの恋愛相談室といえば送られてくるハガキの枚数は、そのラジオ局でNO.1とも声高い。そんな稀少確率を勝ち抜いて虎徹のハガキが読まれるなんて………初めから気がつくべきだった。きょどった自分がホント馬鹿みたいだ。
「公共の電波を私物化すんなよ」
「ハガキ送った貴方が、それを言いますか?大体、僕だって最初はハガキなんて全部チェックするタイプじゃなかったんですけど、貴方が…」
「ん?」
「ファンからもらった手紙は全部チェックしろっていうから、するようにし始めたんですよ」
ここで、やれやれという表情をこちらに見せる。
「俺のせいかよ」
何だか全部虎徹が地雷を踏んでいるかのように誘導尋問されているみたいで、悔しくて口から不満がでる。
「ええそうです。
で、"一緒にいても無言な彼氏"って僕のことですよね?」
にっこりと笑ったままだが、バーナビーはどこまでも肯定をこちらへ促させた。もちろん色々と追及する気満々である。
「あーそうだよ。最近お前、セックスん時、黙りこくってるじゃん。
で、アドバイス通りに何か俺に伝えたいことあるんだろ。早く言えよ」
少しだけ観念しながらも、歯がゆい気持ちを含めて乱雑に虎徹はそれを認めた。
全部わかっていて、それでもバーナビーがここまで言ってくるのが悔しいのだ。弄ばれている気がしてならない。
「正確に言うと、伝えると怒るですかね………」
そう訂正しつぶやきながらも、バーナビーは少しシーツから身を乗り出して、ベッドの下に落とした自分のジャケットを拾い上げた。
そのまま胸ポケットを探り、目的物を見つけると虎徹に差し出す。
「なにこれ。お前の音楽プレイヤーじゃん」
「僕が何を聞いているか気になっていたんでしょ。どうぞ」
若干話をずらされたような気もしたが、確かにその曲目が気になっていたのも確かだったから、虎徹はイヤフォンの半分だけ耳につけた。
残ったもう一方をバーナビーが耳に当てて、二人で同時に聞くという形になる。
瞬く間に流れてきたのは、虎徹の全く知らない曲だったが、どこまでも優雅で眠気を誘うような―――
「クラシック?」
大まかなカテゴリーでしかわからないほどメジャーな例えしか出来なかった。
オーディオから流れてくるのは、おそらくヴァイオリンと思われる技巧的な演奏。
「これは、ラヴェル作曲のツィガーヌですね。今ランダム再生にしているので、そのうち目的のに変わると思いますが」
そう言いながら、バーナビーは指先でプレイヤーを操作し始めた。
微かに曲目が切り替わる音が混じる。
最初は無音だったから、よくわからなかったが、だんだんと音が拾われてくる。

それは………誰かの声の集合体。
女性のように途切れ途切れの甲高く鼻から抜けたような甘ったるい声は、悲痛に喘ぎながらも、バーナビーをどこまでも求めていて―――

その声の正体に気がついた途端、虎徹は大慌てでイヤフォンを引き抜いた。
この紐の先がバーナビーに繋がっていなければ、今直ぐ、投げつけたい踏みつけたい衝動に駆られるほどの激しい羞恥。
わなわなと震えながらも、間違いない。あれは………虎徹の濡れ声だった。
「あれ、もしかして自分の声だってわかりませんでしたか?」
平然と言い放つのは、目の前の最悪な男。
「な、なんで!こんな声が!!」
自分が認識している声と他人が認識している声が違うとわかってはいたが、それでもまるで他人事のように喘いでいる自分の声がわかって、あまりの恥ずかしさに外気にふれている耳さえも熱くてどうしようもなかった。
「貴方の声を録音したくて…まあ、僕の声はどうでもいいですからなるべく無言だったんですよ。これでわかりましたか?」
一応編集すれば抽出も出来ますけどね。やっぱりつなぎ目がおかしくなるし、生っぽくないので。とわざわざ、いらない説明を続けてくれるほどの余裕をバーナビーは持っていた。
「全然わかんねーよ!何で、そんなことする必要が…」
もはや怒るとかそういう段階の話ではなく、ただぐるぐるとまわる頭の中を整理するためだけに、虎徹は説明を求める。
こっちは客観的にあんな自分の声を聞いたこともなかったから、未だに認めたくはないくらいなのだ。
「録音しておきたかったんです。僕だけの貴方の声を」
「はあ?だからって、なんで突然………」
未だ何故、あんな馬鹿な行動に出たのか虎徹には全くわからなかった。自分はまだ分かる段階に立ってもいないという事なのだろうか。
「突然じゃありませんよ。僕たちがCDデビューすることになったから…です。大体僕は、嫌だったんですよ。僕はともかく貴方もだなんて……」
「全然意味わかんないんだけど、なんでそんなことが関連するんだよ」
もしかして虎徹の歌が下手だからCDデビューするのが嫌なのかと思ったが、たとえそうだったとしてもかみ合っているようにはまるで思えなかった。
大体、バーナビーが録音していたのは、虎徹の歌じゃなくてセックス中の声だし。
「だから、僕は貴方の声好きなんですよ。それなのに、何でわざわざ見知らぬ他人にまで聞かせる必要があるんですか?」
そうしてもたらされたバーナビーの言葉は、確かに明確ではあったが、どこか根本がズレているようにしか思えなかった。
「は?別に普段のインタビューとかだってしゃべってるじゃん」
何だ…その発想は………と変に虎徹が頭をひねる番となる。
声を好きだと言ってもらえるのは非常にありがたいが、それは限界があることに違いはないし。
「インタビューと歌は違います。繰り返し聞けるんですよ。何百何千と貴方の声だけを意識して。もし曲の歌詞が恋愛的内容だったら、絶対握りつぶしていましたよ」
それだけ言うと、自分の思いがいつまでも伝わらないことに腹を立てたのか、バーナビーが虎徹の喉仏に軽く噛み付いて来た。
もう誰にも聞かせないように声帯を食らいつくすかのような勢いで…場所が場所だけに若干苦しかった。
そのまましばらく虎徹の首を甘噛みし、鬱血の痕跡を残していたが、ふいに手を伸ばして腹筋を触ってくる。
「…ひゃんっ」
くすぐったいというよりも、適当なボイストレーニングとして腹筋をしていたせいの変な筋肉痛部分を押されての痛気持ちいいという感覚だ。
予期していなかった声が出てしまい、虎徹は慌てて口を塞ぐ。
「………俺はワイルドタイガーとして歌ってるんだぞ。お前の前での鏑木虎徹とは違う」
そんなに何回も聞くのはバーナビーくらいだろう。自分でも飽き飽きしているというのに。
「僕はヒーローとしての貴方も尊敬していますから、丸ごと欲しいんです」
贅沢な願いをあっさりとバーナビーは吐露する。
そして、そのまま包み込むように虎徹の身体を抱きしめた。しばらくの停止。
「………わかった、わかった。
えーと。あー、俺とお前で一緒に歌う曲あるだろ。レコーディング一回したやつ」
観念したかのように、虎徹はバーナビーのブロンドを撫でながらも顔を上げさせる。
「はい。それが何か?」
虎徹のソロ曲は駄目だし食らったが、まあ二人だから誤魔化せるだろうという結果で、二人で歌ったメイン曲『正義の声がきこえるかい』は既にレコーディング済であった。

「今度、俺のソロ曲をレコーディングし直すんだけどさ。その時に、あっちの曲も、もう一度レコーディングし直さね?
だったらあの曲で、CD買った奴全員に今度は俺たちの仲の良さを見せつけようぜ!」
少し恥ずかしかったが照れながらそう言って、虎徹はバーナビーの唇の端に軽く自らの唇を押し当てた。それはほんの数秒―――
バーナビーが言っていたように、熱く甘く激しく歌おうと心を出した。
「しょ、しょうがないですね。僕として不本意ですが、貴方がどうしてもっていうなら」
「あ、折角だからバニーちゃんのソロ曲の方もレコーディングし直す?」
どうせ虎徹のソロ曲も収録し直すのだから、バーナビーも納得いかない部分があるなら、どうだ?と誘う。
「結構です。あの時僕が、歌うのを邪魔されたのを一生忘れるつもり、ありませんから」
それをも大切な二人の思い出の一つとして、確かにバーナビーは心に刻んだのだった。











愛 の 歌 が 聞 こ え る か い