Dear Apollonmedia Company
Please accept this letter as formal notification that I am leaving
my position with Apollonmedia company on after two weeks.
Thank you for the opportunities you have provided me during
my time with the company.
If I can be of any assistance during this transition,
please let me know. Sincerely,
Barnaby Brooks Jr.
苦い顔をしたロイズはバーナビーから直接手渡された退職届に一通り目を通すと、封をまた閉じた。
そうしてそのまま受け取らずに机の上だけで反転させて、バーナビーの方へと返した。
「話はわかった。心情的にはわかるんだけどね。この一件は、私の一存では受理出来ない。君だけじゃない…虎徹くんの退職届もね」
苦々しい表情をしたロイズは少し視線を外しながらも、確実にそう言った。
「…それは、どうしてですか?」
眼下に戻ってきた退職届を見下ろしながらも、バーナビーは尋ねる。
「マーベリック社長が亡くなったことで会社の上層部も今は混乱していてね。それに…君も書いて来たように少なくとも2週間は通常業務ということになるだろ。上に確認を取るから、しばらくは待機していてくれないか?」
「わかりました」
ぺこりと頭を下げてバーナビーは退職届を持ち帰り、退室した。
そして。そう遠くもない三日後には連絡があり、バーナビーはアポロンメディア社の役員会議室へと呼び出された。
「ああ、待たせてすまないね。バーナビー君。今、事業報告事項の説明が終わったところだから」
秘書課の女性に促されて会議中のプレートを横目にしながらも、バーナビーは入室した。
役員会議室の中央には円卓型の黒い重厚なテーブルが鎮座し、ずらりと立ち並んだ高級スーツに身を包んだ男たちが、10名ほど座っていた。何人かはマーベリック経由で認識があったので、アポロンメディア社の重役たちだとバーナビーは直ぐに理解した。中央スクリーンには、臨時役員総会の文字が表題として固定されている。
入口から一番遠い上座に座る一人の男性が区切りをつけたかのように、バーナビーを席に促したが、簡単には座らなかった。
「いえ」
まるで裁判か何かを受けているような面持ちだった。全員の視線がバーナビーに集中する。
「今日の議題の主役は君だから、まあリラックスしてくれたまえ」
そういわれたとしても、くつろげるわけがなかった。ここでタイミングを見計らったかのように秘書課の女性がコーヒーを運んで来て、テーブルの上に置く。それでもバーナビーは座らなかった。
「それは…僕が退職をすると希望したからですか?」
バーナビーとてそんなにすんなりとヒーローを辞められるとは思ってはいなかったが、まさかここまで大事になるとは想像していなかったので、慎重に言葉を選ぶ。
「そうだ。結論から先に言った方がいいかな?君の退職には色々と問題があってね。処遇に困っていると言えばわかりやすいな」
「はっきり言うと、僕の退職は認められないという事ですか?」
若干遠まわしに言われたが、それでも簡単に退職届が受理されなかったことから、そうとしか考えられなくてバーナビーは的確に声を出す。
「それはまた微妙でね。これを見て欲しい。君が一身上の都合という自己理由で辞めたいというのはわかったんだが、非常に重要な問題点があるんだよ」
ここで、ピッと中央スクリーンが移り変わり、照らし出されたのはバーナビーの会社と結んだ雇用契約書だった。一番下には、バーナビー・ブルックスJr.と自身のサインがつづられているのが見える。
「第3章服務規律の第9条遵守事項を見てくれるかな。そこに…会社の名誉又は信用を傷つける行為をしないこと。と記載されていると思うんだけど。
当社のCEOマーベリック氏の逮捕から死亡までの経緯。そこが今回の論点でね」
雇用契約書全体を映していたスクリーンがピンポイントでその部分を大きく映し出した。そうして要点へと話は切り替わる。
「僕は、故意に会社に不利益を与えようとしたわけではありません」
一連のマーベリック死亡に絡むウロボロスの件はとっくに会社に報告している。だが、それは感情論の延長だとバーナビーは認識している。重役たちが望むのは、会社の円滑な経営なのだろうから、しっかりと言った。
「故意だったら司法局をとっくに通しているよ。だから、君にいくつか聞きたい事がある。
マーベリック氏が亡くなったといっても、彼はただのCEOだからアポロンメディアが彼個人の持ち物ってわけでもないんのだがね。同族会社じゃないからそれなりに代表権の分散もしているし。しかし、今はともかく始まりからするとこの会社は彼が作ったようなもので、単独で議決権確保出来る程度の株式は保有していた。となると、マーベリックの株式は相続した人物の物になる。ここまではわかるかね?」
「はい」
バーナビーは一つ頷く。犯罪者の相続に関する取り決めがシュテルンビルトでどうなっているかそこまで詳しくはないが、それでもマーベリックが何もしゃべらないで死亡してしまったことで、若干あやふやになっているのだろう。それは理解出来た。
「我々としても君の雇用を含め、マーベリック氏に会社の運営を一任している部分があった。だから、わからないのだよ。独断でやってきた彼に家族がいたのかさえ。会社を経由する納税猶予の特例も申請はしてないたようだし。
君は、マーベリック氏の養い子のような立場だったそうだが…実際はどうだったのかね?」
経営がうまくいっていたからこそ今までワンマンを許してきた経緯があったのだと、それは素直に認めたらしくしゃべっている男以外の役員も頷いている姿を見せた。そうして本題だ。
「確かに僕を養子に…という話は何度か貰ったような気がしますが、僕は亡くなったとはいえ両親の子でいたかったので受けていません。マーベリックさんの家族も見た事ないです。恐らく独身だったと思いますが」
マーベリックに操られていた…掌の上で踊っていたとはいえ、良くして貰った部分もあった筈だ。しかしバーナビーはその一線だけは越えなかった。
「ふむ。相続人がいないとなると、会社の株式は一旦国の物になる…かもしれないね。それなら自己株式として買い戻せばいいが。後は遺言書の心配かな。銀行の貸金庫と自宅の方はウロボロスの一件で警察が立ち入り調査していて、遺言書等の発見はなかったらしい。後は思い当たる節があるかね?」
遺産は寄付をするという財界人は多数いる。それがNEXT能力者の為に寄付とかだったら良い話なのだろうが、それでも会社としては色々とまた厄介なようだ。それにウロボロスが変に横槍入れている可能性もあるだろう。
「郊外に別荘を持っていて、僕も何度か連れていって貰った事がありますが」
「わかった。一応そこも調査してみよう。後で住所を教えてくれたまえ」
深く頷いて、理解を示される。響くのは、隅にいる筆記役が叩くキーボードの音だけだ。
「これで…マーベリックさんに対する僕の疑いは晴れましたか?」
良く考えれば会社が疑問を持つのは無理もなかったのかもしれないが、改めてバーナビーは確認する。
「そうだね、その件に関してはとりあえずは」
「他にも何か?」
意味深な言葉でその場はとどめられたので、いぶかしむようにバーナビーは声を出す。
「こちらが本題だ。君を呼んだのは他でもない。アポロンメディアは、今会社存続の危機に立たされている」
男がそこまで言い切ると、またスクリーンが切り変わる。
「スクリーンに表示されているのは、我が社の株価の推移だ。バーナビー君とワイルドタイガー君がヒーローとして活躍してくれたおかけで鰻登りだった。とある日までは…」
確かに男の言うとおり、タイガー&バーナビーのデビュー日からアポロンメディアの株価は上昇傾向だった。ジェイクの一件で一時下がったが、それでも回復をしている。そして最後は、最大限に下落していて。
「それは…今回のウロボロスの事件が明るみに出て、マーベリックさんが亡くなったからですか?」
そうとしか考えられなかった。一時はシュテルンビルトを恐怖の淵へと叩き落としたマーベリックとウロボロスとの一件は、ヒーローテレビによって市民に生中継されていたのだから。
結果としては、ワイルドタイガーとバーナビーの活躍でマーベリックは捕まったわけだが投資者からすれば、どう考えても駄目な姿だった。なぜならヒーローはただの従業員で経営者ではないのだから、重要なのはどうみてもマーベリックの方で、暴落はやむ負えない。しかもヒーロー二人が突然引退ともなれば余計に暴落するしかないだろう。
「そうだ。我が社だけではなく、他のヒーローを抱える企業も下落傾向だ。みんな気が付いてしまったのだよ。ヒーローがいなくなるだけでこんなに株価が上下するのだから自然に慎重にもなる」
一社がそうなると他の企業も危機感覚えるのは当然だったのかもしれない。緩やかな下降の元を示している。
元々ヒーローはクリーンな印象を与えてきたというのに、一度植え付けられたイメージは払しょくできない。
「既に今期の中間配当は絶望だ。銀行の貸し渋りも始まって、先日手形貸付の借換も断られてね。社債の償還期間が迫っているこの時期にだよ。固定資産の売却も考えているが、キャッシュフロー自体が苦しくなっている。一部の株主からは外部役員を入れろと声もあがっているが、事態はそう単純ではない。
そして………今我が社はM&Aの絶好のターゲットになっているのだよ」
男は緊迫した会社の存続の危機な言葉を慎重に投下した。
「買収…ですか」
確かにマーベリックの相続で浮いた株式と、事件があったせいで暴落したアポロンメディアの上場株式が美味しすぎたのだ。全部が自分のせいではないとはいえ、バーナビーは声を落とす。
「直接合併交渉を申し出ている企業もあるが、まだそちらは可愛い方だ。外資系のいくつかの企業が結託しているという情報が調査機関から入った」
いくつかわざとらしく手元の資料をめくる姿をバーナビーに見せつけてくる。
「僕がヒーローを続けていればどうにかなる問題なんですか?」
「君だけじゃだめだ。既にその段階じゃない。せめて最低でも、バーナビーとワイルドタイガーが一緒でなければ………」
「それは………能力が…」
バーナビーは思わず口をつぐむ。無理だった。自分だけならば気持ちの問題としてどうなるかもしれないが、ワイルドタイガーこと虎徹は能力が消滅するかもしれないという状況なのだ。例え、能力を失った状態でヒーローを続けたとしても、それが本当に効果になるとはわからない。そんな危険な博打をするのが会社を運営する人間のする事ではないことぐらいバーナビーにもわかっていた。
「我々とて保身だけではなく従業員を守る義務がある。だから、君に責任をとって何とかして貰いたいと思っている」
ここでようやくここまで留められた理由をしゃべりだす。
「でも、僕にどうやって………」
「マーベリック氏に続く筆頭大口株主がいらっしゃってね。君の事を凄く…買っているんだ。チープな表現をするならコアなファンと言えばいいのかな。元々シュテルンビルト内外に力を持つ投資家なんだが………
その方が、君が接待してくれるならば…とても友好的に我が社にM&Aしてくれるそうだ」
そこまで確定的に言われて、バーナビーは目を見開いた。
「つまり、僕に身売りをしろ?と…」
冷静を努めていたが、ぐっと拳を握りながらも、唇の端をひくつかせてしまったことが自分自身でもわかった。
「そこまで言っているわけではない。週に何回かの食事や…まあ後は詳しく条件は確認して欲しいんだが、まずは話を聞いてみるだけでもどうだい?」
バーナビーは唇を最大限に噛みしめた。自分に対してそういった邪な好意を向ける人間が存在していることは知っていた。それがこんな形で提示されるとは思っていなかったのだ。
「……………わかりました、受けます。その代わり、ワイルドタイガーこと鏑木・T・虎徹の退職届を受理して下さい。僕が引き受けるのだから、もう彼には関係ない事でしょう?」
「君がこの件を善良に受けてくれるのなら、こちらも喜んで了承しよう」
そうして極めて前衛的に会議は閉会したのだった。
今日もバーナビーは高級ホテルの一室にあるベッドの上だ。
最初から食事だけでは済まされなかった。そんなことは、もうとっくにわかっていたことで。
ただ、言われるがままに、命令のままにセックスに勤しむことを強要される。
いつか飽きるだろう…そうしたらどんな報復が?とか、若干自暴自棄にもなってくる。
何と言ってもプライドが高いバーナビーが服従をして済し崩しになるのが一番嬉しいと言う相手だったから。
「もう今日はいいんですか?」
終わりを告げられてバーナビーは多少ぶっきらぼうに尋ねる。丁寧に声を出すべき相手なのかもしれないが、そんな気持ちがもう持てないほど関係を繰り返しているのだから仕方ない。まだ夜は長い…いつもは朝方まで共に居る事が多いので、それは皮肉交じりの言葉だった。
「今日は次の予定があるから、これで終わり」
そう言うと相手が、手早くシャワーを浴びて来て用意していた替えの服へと着替えているのが見える。若干急いでいるようだ。
「また次に会う日は連絡するから」
ホテルのカードキーをバーナビーに投げて渡される。こんなことが何度―――
パタンっと閉じられた扉を恨めしく睨んで、バーナビーは瞳を閉じた。
扉の先の人間はそのままエレベーターを降りなかった。次の予定は、わざとこのセッティングにしたのだから。
流れるように直ぐにバーナビーと営んだ部屋の隣のカードキーを財布から取り出して、入る。
「はじめまして、来てくれて嬉しいわ。ワイルドタイガー。TopMaG時代からずっと貴方の事が気になっていたの。会社とバーナビーの事は心配しないで。私が何とかするから………」
二人のヒーローを手玉にとった、女性は薄笑いをした。
そして。さあ、どちらの子どもを先に孕もうかと考え始めたのだった。