「テロップの後、中継入りまーす。3……2……1!」



「シュテルンビルト市民の皆さん、こんにちは。毎度お馴染みHERO TVの時間と相成りました。今日の司会も実況アナウンサーでお馴染みのマリオでお送りさせて頂きます」
ロゴ入りテロップから切り替わって画面全体にアップされるのはマリオの顔で、カメラのピントがそちらに合わせているせいで背景は薄くぼやけて見える。
「今日は特別記念番組ということで、本日開館したばかりヒーロー博物館特集をお送りします」
ここでカメラがひいてヒーロー博物館の建物を映し出す。その後、予め撮影しておいた博物館の敷地が見える全体図が出て来る。一通りのヒーロー博物館の全体像が掴める形を示すと、またカメラはマリオの元に返って来た。
「ご存じの方も多いと思いますが、ヒーロー博物館はシュテルンビルトで活躍するスーパーヒーロー達を取り上げた初めての博物館となります。そしてそして、今回はなんと!館長に就任している、元KOHでもあるバーナビー・ブルックスJr.さんに来て貰いました。どうぞ」
やや低姿勢を見せたマリオは固定されたカメラの枠の端へと避けて、バーナビーの来訪を歓迎するとびきりの声を出した。効果音としてパチパチという拍手も交じる。
「皆さん、お久しぶりです。バーナビーです」
ここでカッチリとしたモダンな白いスーツに身を包んだバーナビーが画面に登場し、慣れた様子でカメラ目線の挨拶をしてくる。
キャー!と声援が沸くのは画面の向こう側だけではなく、野次馬根性逞しい博物館を訪れているうら若き乙女たちの声が、さくらなしでアフレコしてくれた。その勢いは警備員なしではカメラに映ってしまいそうなくらいだ。
「いやはやホントHERO TVには久しぶりのご出演ですね。最近は実業家をなさっているとか聞きましたが、先ほどはセレモニー式典お疲れさまでした。ご覧の通り大盛況ですね」
マリオが見渡す様に手の平を広げると、ここでカメラは二人から遠ざかり、行列で混み合う入口と外の式典を映す。
「ありがとうございます。今は、おかげさまで間接的ですが、ヒーローに関わる仕事をさせて貰っています。今回もヒーロー博物館の館長ということで、とても光栄です」
戻ってきたカメラは再び二人を映して、バーナビーは軽く目を伏せながらも喜びの表情を見せた。
「またまたご謙遜を。バーナビーさんが中心となって発起しなければこの博物館はなかったですよ」
元々明るい雰囲気だが、場をより盛り立てる為にマリオは声を弾ました。
「いえ…僕もヒーローとして市民の皆さんに色々とお世話になったので、少しでも恩返ししたい…そしてヒーローの事をもっとよく知って貰いたい…そう思っただけです」
ほんの少しだけ遠くを見つめるような表情をしたバーナビーが、しっかりとヒーロー博物館の基本コンセプトを伝えた。
「ご立派なことです。さて、ではそろそろ皆様お待ちかねの館内の紹介へと向かいましょう。もちろんバーナビーさんが解説してくれますよ!」
前振りも十分に盛り上げて、いよいよカメラは潜入リポーターとして館内へと入って行った。

「皆様、どうぞご覧下さい。休憩所も兼ねた天井三階までぶち抜いた開放感のあるロビーの中央には、何と!初代KOHレジェンドの像があります。正に伝説的存在です。大きいですねー しかもこの格好がなんとも凄い!レジェンド像はヒーローアカデミーやポートレスタワービルにもありますが、ヒーロー博物館の像はなんと飛んでいる姿となっています。浮いていますが、どういった構造なんでしょうかね」
一通り下からレジェンド姿の広大さをカメラは示すと、まるで打ち合わせをしたかのようにバーナビーへとカメラワークが移る。
「これは…持続する磁力を持つNEXT能力の応用で浮かんでいます。レジェンド像の重さは2トンほどありますが、危険性は全くありません」
安全を示す様に、一応部外者は立ち入り禁止になっている柵をひょいっと越えて、レジェンド像の浮いている真下をバーナビーはゆっくりと歩いて見せた。その足取りによどみは全くない。
「おおっ、これは素晴らしいですね」
ちょっとのけぞるほど大げさにマリオはリアクションを見せる。周囲で眺めていた子どもたちも驚きのざわめきをかき立てて、高大な目を向けた。
「ヒーロー博物館はNEXTの研究に関してもスクールプログラムなどを学習施設で実施していますから、是非幼い子どもにも来てもらいたいと思っています」
戻りながら上を向いている近くの子どもに軽く微笑みかけてこちらへと歩き、バーナビーは説明を付け加えている。
「そういえば、あちらでは子どもがレクリエーションしていますね」
マリオは手を向けて、開けたところにある子ども専用のコーナーを指し示す。あまりにも夢中なようでカメラが入っているのにも気がつかず、宙にボールを浮かせたりと不思議な遊びをしているのが見えた。これもレジェンド像を浮かせているNEXT能力に付随するものらしい。
「館内には子ども専用の場が5つほど設けられています。親子連れの方にも楽しんで頂けると思いますよ」
ここで壁に張り出された館内マップをバーナビーは指差す。博物館自体は三階建てで地下ならではの施設も兼ね備えていることを示唆している。
「ロビーだけでも盛りだくさんのようですね。では少しカメラを移動してみましょうか」
ようやくカメラも同行して二人は歩きだす。初日ということもあって人ごみはかなりのものだが、これでも入場制限はかけているのでぶつかるほどではない。隣にはガイドツアーも同時に進行しているが、振り向いてバーナビーに手を振っている女性も出て来た。とりあえず順路に任せて進んでいく。
「最初の展示物は、やはりヒーローの成り立ちなどの歴史ですね」
フロアの入口に近い場所から出口に至るまで、壁には大きな年表が詳細に記述されている。メインターゲットでもある子どもたちにも読みやすいように難しい表現はもちろん避けており、彩りもかなり明るめに設定されている。
「今の子どもたちは生まれた時からヒーローがいるのが当たり前となっていますから、是非歴史に興味を持って貰いたいと思って一番に取り上げさせて貰いました」
「なるほど。今となっては、ヒーローは随分と身近になりましたからね。おやっ、ここでもやはりレジェンドが大きく取り上げられています」
歩きながらも解説はどんどんと進んでいくが、次のフロアに入るとまたマリオは大きな声を出す。
「こちらは今回の特別展の一部です。レジェンドに関してはありがたくも貴重な品々を寄贈して下さった方がいらっしゃったので、その方の熱意も含めて大きいコーナーにさせて貰いました」
「いやあ、凄いですね。おっと、こちらのレジェンドが活躍するモニター映像は私も初めて見ました。もしかしたらHERO TVにもフィルムはなかなかないかもしれませんね。なかなか盛況なようです」
カラカラと独特な音を鳴らしてフィルムが回り続けている。レトロな雰囲気の中に子供たちが不思議がりながらも眺めている姿がある。
「子どもたちにも感心を持ってもらえているようで安心しました。この頃は、まだショーアップされていないのが物珍しいのかもしれませんね」
フロアの周囲を見回して安堵の息をバーナビーは漏らしている。どうやら若干の懸念材料だったらしい。
「いやはや、私どもが子どもの頃のヒーローと言えば、これが当たり前だったのですけどね。今思うとコスチュームにも時代を感じます。さて、ではそろそろ次のフロアへ向かいましょう」
ぐるりと周囲を映すと、足並み早くカメラを含めてずんずんと進んでいく。まだまだ先は長いのだ。
「こちらは…えーと、催し物の会場でしょうか?」
展示物はいっさいない開けた空間に足を踏み入れて、マリオは不思議がった。たた人だけはここにも膨大にいるのはわかるが、先が見えにくい。
「はい。普段は、講演会などでも使えるような仕様にもなっています」
「そうですか。そして…今日は………なんと!現役のKOHがいます!スカイハイの登場だーーーー」
ここで最高潮の盛り上がりを示唆するようにマイクを持っていない手をマリオは高く上げた。
こちらに気がついたスカイハイが壇上から優雅に降り立ち、カメラに近づいてくるのだが、その姿はさすがに素早い。
「スカイハイさん。今日は来て下さって感謝します」
「やあ、バーナビー君。こちらこそ、呼んでくれて嬉しいよ」
二人がにこやかに深い握手と挨拶を交わす姿は、新旧揃っていて神々しくさえ感じるようだった。
「あ、カメラにも一言お願いします」
二人のやりとりをカメラに収めると、今度はすかさずスカイハイにコメントを求めてきた。抜かりはない。
「ああ、そうだったね。シュテルンビルトの諸君。こんにちは、スカイハイだ。今日は記念すべきヒーロー博物館の開館だ。これも…日頃から応援してくれる君たちのおかげでここまで来る事が出来た。だから私は言いたい。ありがとう!そしてありがとう!」
ここでスカイハイはお決まりの両手を上げるポーズをしたのだが、いつもより身近なヒーローに興奮した子どもたちがその腕にぶら下がってきた。まさにスカイツリー。それを嫌な顔一つせずスカイハイは明るく笑って楽しませている。もはやカメラなど気にしていないようだ。視線は完全に子供たちを楽しませることにいっている。
「えーと、ではこちらの解説はバーナビーさんの方にお願いしましょうか。どうぞ」
しばらく様子を見ていたが、どうもなかなか終わりそうもないのでマイクをバーナビーの方へと向けた。
「はい。スカイハイさんには今回ここでミニ講演を頼みました。ヒーローに付随する正義感や使命感について話して下さったとは思うのですが…」
思わず苦笑しながらも横目でスカイハイの方を見ている。無事に果たせたのだろうか。この状態ではさっぱりである。
「すっ、素晴らしいですね!それも。では…我々は講演をこれ以上中断するのもお邪魔ですので、次に行きましょう!!」
もはや講演どころか子どもたちの遊び道具となりつつなっているのだが、後で警備員がスカイハイを壇上に戻してくれることを願って、一行は場を後にした。
廊下は広く取られていて、子どもが疲れても休めるように所々にソファが置かれている。そうして通路は長く続く。
「ここからは常設展ですね」
フロアに入る直前に壁に描かれた表示を示しながらバーナビーは言う。
「皆様。大変長らくお待たせしました。こちらは、近年活躍した及び活躍中のヒーローたちのフロアとなります!」
大手を開いてマリオはマイクを持つ手にも力を入れて力説した。
随分と広いフロアなのだが既にひしめき合う人々が、展示物を夢中で眺めている。
「ここは博物館の中央エリアになりますので、一番大きく取らせて貰いました」
「いやあ広いですね。皆様お馴染みの現役ヒーローの勢ぞろいした展示物のコーナーは素晴らしいです。おや、こちらのヒーローはトレーニングスケジュール表なんてものもありますね。いやはや、毎日凄い量をこなしているようで…」
基礎トレーニング部分だけ見ただけでも眩暈がしそうなくらいなリアクションをマリオは取る。
「そうですね。僕も現役時代は暇さえあればトレーニングをしていたような気もします。展示物の中には、ヒーローたちの私物もお借りして置いてあります。直接触ることは出来ませんが、自分もヒーローになりたいという方がいらっしゃったら是非参考にして下さいだそうです」
未来のヒーローを促すようにバーナビーは声を出す。
「私物ですか。ファンにはたまりませんね」
「それとヒーローごとにコーナーを作ってありますので、同じヒーローのファン同士で交流の場にもなればいいと思っています」
今は混み合いすぎてちょっと難しいかもしれないが落ち着いたら是非そうなって欲しいと言う気持ちを含めたようにバーナビーは言った。
「確かに。コーナーによって随分とお客さんの感じも違うような気がします。おっと、あのコーナーは女性が多いようですが、どのヒーローかな?」
マリオが、わざとらしく声を出したので、少しバーナビーは苦笑をして…
「なんと!あれは、バーナビー・ブルックスJr.のコーナーです。さあ、行きましょう!おおっと、突然の本物のバーナビーさんの登場にファンが凄いです。えっ、あ…すみません…カメラさん!あ、あ………」
金切り声にも近いバーナビーファンの絶叫含めて、周囲は大混乱の渦へと巻き込まれた。人ごみが半端ないせいで、カメラの前にも専ら着飾った女性の頭しか映らない。
「………皆さん、すみません。後で改めて場を設けますので、今は抑えて欲しいです」
困った顔を見せたバーナビーがそう言うのでようやく冷静さを取り戻したファンたちは、その場を遠ざかり取り巻きと化した。ようやく場が少し開ける。
「いや、凄い人気ですね。絶頂期KOHのまま引退なさったのですから、ファンの心情もわかるのですが…ちょっと勿体ないと思ったりしませんか?」
少し着崩れてしまった派手色のスーツと髪型を直しながらも、若干きょどりながらマリオはコメントする。
「引きとめたり戻ってきて欲しいと言って下さる皆様は大変ありがたいと思いますが…僕にはやりたいことがありまして」
「そうですか。ヒーローも素顔は一般市民と同じですものね。顔出しもしているヒーローは未だにバーナビーさんだけですが、ヒーローを辞めても色々と大変そうですね」
現在進行形で巻き込まれたマリオは深々と自らの気持ちも含めて伝えてくる。
「おかげさまで。僕の場合は目的があって素顔を晒していましたから、結果的にはその目的も叶いましたから良かったとは思ってはいますが。ヒーローは簡単にはなれるものではありませんが、もし志す方がいらっしゃるのなら諦めずに頑張って欲しいとは思います」
「貴重なお話ありがとうございます。今後のニューヒーローたちの参考にもなるお話でした。バーナビーさんのコーナーを後ろに聞けたお話はなかなか得難いものでしたね。おやっ、隣のコーナーは………」
「ワイルドタイガーさんのコーナーですね」
すかさずバーナビーは声を出してくる。
「ワイルドタイガーといえば、バーナビーさんのパートナーとして最後を華々しく飾ったわけですが……これは凄いですね。等身大レプリカでしょうか?」
ワイルドタイガーのコーナーは、そのヒーロー歴の長さから独自のメモリアルが流れていたり、アイパッチなどが展示されており、所属の変わった新旧スーツの紹介などもあったが、一番目立つのはアポロンメディア社に所属していた頃のスーツの等身大が飾られていた。一段高い台座の上に立っているので余計に壮大に見える。
「これは、レプリカではなく実際にタイガーさんが着ていたスーツです」
補足するように、バーナビーが的確に答えて来る。
「ほほうっ、それは凄いですね。他のヒーロー達のレプリカはいくつか見て来ましたが、こちらは本物。意外と綺麗に使っていたんですね」
ワイルドタイガーといえばクラッシャーなイメージだったせいか、マジマジとその白と緑を基調としたスーツを間近に見ながらコメントする。ただ透明なアクリル板のようなものでスーツの周囲は覆われているので、それ以上は近づけないのだが。
「タイガーさんはスーツをよく壊していましたから、予備のパーツもたくさんありましたよ。引退したときは…確かにボロボロでしたね」
懐かしがるように目を細めてバーナビーは語る。
「そうでしたね。お二人は同時に引退をなさって、そしてこうやってコーナーも隣同士で、永遠のバディと言ったところでしょうか」
「そう…ですね………」
盛り立てるマリオを横目にバーナビーは含んだ声を出す。
「さて、では次のフロアに向かいましょうか」
「ええ」
名残惜しむようにしばらく立ち止まっていたバーナビーを促す様にその声が出されたので、まるで後ろ髪をひかれるように、また進みだした。



その後も歴代KOHのコーナーや名場面及びMPVシーンを写したミュージアムシアターなどいくつかの主要コーナーを周り、出口付近ではミュージアムショップとカフェの紹介をした。
時間ギリギリいっぱいまで進行して大盛況のまま、HERO TVは終了の時間となった。
「ご苦労様でした。バーナビーさん」
博物館に付随する事務所の休憩室でマリオは労りの声をかけた。
「いえ、今日は色々と紹介頂きましてありがとうございました。これで市民の皆さんがよりヒーローに興味を持ってくれると思うと喜ばしい限りです」
バーナビーも感謝の意を述べてHERO TVに伝えた。後で番組プロデューサーであるアニエスにもきちんと挨拶に向かうつもりのようだ。
「そうですね。我々ももっと盛り立てていくつもりですので、また博物館の取材を申し込むこともあると思いますので、宜しくお願いします」
「こちらこそ」
願ってもない事にバーナビーは深く頷きながらも答える。
「では我々は中継車に戻らせてもらいます」
「お疲れさまでした」
ぺこりとお辞儀をしてバーナビーが対応した後、マリオが去ったとの入れ違いに今度は室内に声が飛ぶ。
「バーナビー君!」
突然開いた扉からやってきたのはスカイハイだった。
「スカイハイさん。お疲れさまでした」
若干の驚きも含めてバーナビーは声を出す。確かにもう講演は終わっている時間だったのだが、あの混み具合ではなかなかこちらに戻って来るのは大変だと思っていたからだ。予想通り、やや走って来たらしく軽く息切れを起こしているようだ。
「いや。先ほどはすまなかったね」
一応カメラを向けられたのに殆ど一セリフでフレームアウトという自体になってしまって、彼は彼なりの反省の色を見せているようだ。
「いえ…あれがスカイハイさんらしくて、とても良かったと思います。講演も後で録画したのを見させて頂きますので」
「そうかい?あまり自信はないのだが、皆に私の熱意が伝わっていればいいと思うよ」
ここで少しぐっと拳に力を入れてスカイハイは言葉を出す。そこまでしゃべるのは得意ではないタイプなのかもしれないが、気持ちだけは本物だ。
「大丈夫ですよ。誰よりもヒーローらしいヒーローではありませんか、スカイハイさんは」
スカイハイは簡単には満足をしない性格でそれが利点でもあるのだが、悩んでしまうということも知っているのでバーナビーは率直に思った事を声に出した。
「いや、私より…ワイルド君の方が……………残念だね。彼がこの場にいないのは。一番こういった物を喜んでいたと思うのに…バーナビー君もワイルド君と連絡が取れていないのだよね?」
少し言葉を濁しながらもスカイハイは尋ねてくる。
「虎徹さんも…きっとこのヒーロー博物館を見てくれていますよ」
ふっと、少し視線を外したバーナビーは窓の外から見える博物館へと視界を映す。
「そうだね。彼は照れ屋でもあったから。あまり表立っては出て来てくれないだろうし。
ところで、バーナビー君。気になったのだが、その指輪はどうしたんだい?結婚でもしたのかな」
珍しく気がついたようでスカイハイはバーナビーの左手薬指にはめられたリングを指し示した。ちらちらとカメラにも映っていたものだったが、女性ファンの多いバーナビーなのでマリオはあえて突っ込まなかった事を聞いてきた形だ。
「結婚ですか?いいえ…でも大切な人から貰ったんです。とても…大切な………」
意味深にしゃべると、バーナビーは左手を軽く宙に上げて右指を軽くリングに添えて、いくどかなぞる仕草を加えた。
「ほうっ、それは素晴らしい。白亜色のリングというのも、とても珍しいね。どこで作って貰ったのかな?」
バーナビーの白い肌より更に白い色を見て、スカイハイは興味津津の様子だ。
「これは、僕達二人で作ったんです」
手造りのリングを興味深そうに眺めるスカイハイ。
そこからしばらく二人は昔の話を含めて談笑をし始めた。








カツンッと響く音は磨かれた床の上を歩く皮靴の音。
ヒーロー博物館の初日は大盛況にて終了した。閉館後、見回りの警備員が暗闇の中を懐中電灯片手に進む。とても静かな空間で足音だけがまるで自分の存在を証明するかのようだった。
「誰だ!」
僅かに垣間見えた人影を見つけて、ライトを向け前傾姿勢をして身構える。その声は驚きも含んでいるが、最もは不審者への警告だ。
「あ…バーナビーさんではありませんか?こんな時間にどうしたんですか」
照らされたライトの先にいたのは館長であるバーナビーであった。自身のコーナーの前で立ちつくしている姿が映し出される。
「このエリアは…警備の範囲外だった筈ですけど、そちらこそどうしてここに?」
ゆっくりと身体を向けたバーナビーは質問を質問で返した。その態勢に全く揺らぐことはない。
「あ、すみません。なにぶん…初日なので少し迷ってしまったようで」
確かにバーナビーに指摘された通りだったので、警備員は弁解してくる。昼間は人がいすぎで把握しにくかったのだが、やはり誰もいなくなるとこの博物館の広さを実感した。
「今後は気を付けて下さいね。このエリアは僕が見て回っているので」
「えっ、バーナビーさんがですか。それは、大変ではありませんか?」
自分は雇われ仕事でやっているのだからこれが当たり前で気にならないのだが、どう考えても色々と忙しそうなバーナビーが見回りとはそぐわないように見えての言葉だった。
「大丈夫ですよ。それにここは一番大切な場所なんです…一番ね」
「そうですか。では、警備コースに戻ります。こちらは宜しくお願いします」
びしっと敬礼のように頭を下げると、警備員はフロアを出て元の通路を伝っていく。その懐中電灯の光が消えゆくまでしばらくバーナビーはその後ろ姿を眺めていた。



そうしてしばらくするとバーナビーは自身のコーナーを離れて、隣のワイルドタイガーのコーナーへと向かう。その後、迷いもせずに中央にあるワイルドタイガーのスーツの前に立つ。よどみなくポケットから取り出したリモコンを操作すると透明なアクリル板がゆっくりと床下へと収納された。
「すみません、虎徹さん。邪魔が入って…」
ゆるやかにワイルドタイガーのスーツを抱きしめると、そのままの形でバーナビーは顔を上げてフェイスオープンさせた。
その中には…瞳を閉じたまま眠ったように死んでいる虎徹がいた。もちろんバーナビーの問いかけに答えられるわけもないが、その冷たいだけの両頬に軽く手を添える。
「どうです?貴方が望んでいたヒーロー博物館ですよ。ここに居られれば虎徹さんは幸せですよね。死んでもヒーローなんですから………」

嬉しそうに語りかけるバーナビーは、左手薬指を虎徹の目の前に持ってくる。
そうして、虎徹の骨をくりぬいて作ったリングに、愛おしそうに軽くキスを送って見せつけたのだった。






『バーナビーが用意した虎徹の為のヒーロー博物館へようこそ!』











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