「「さあ、君も…ステージで、僕と握手をしよう!!」」
移動中の車内テレビから聞こえてきた自分やバーナビーなどのスーパーヒーロー全員の声を聞いて、虎徹は非常に驚いた。
だってそこには、知らないバーナビーと自分ではないワイルドタイガーが映っていたのだから。

「…な、何これ?」
他人を指差してはいけないと母親から教育された記憶はあるが、今の虎徹にはそんな余裕などあるはずもなかった。
指差す相手が自分ならばいいというわけでもないが、ただ先ほどまで映っていたテレビ画面を指差して隣に座っているバーナビーに問いかける形となる。
只今絶賛移動中だ。ニュースとBGMがてらにつけていたテレビは恐ろしい爆弾を落とす。
今日の仕事はこれでようやく終わり、これから一度会社に戻って解散という按排だったからこそ、半分睡魔に襲われていたところだったというのに、今は目がギンギンに冴えている。ある意味凄い効果だ。
「何って…CMじゃないですか。意外と良く出来ますね」
もちろんバーナビーも横目でテレビを見ていたらしく、さっくりと答えてくれる。
ワイルドタイガーはバーナビーの付属品という扱いだから、仕事的にはバーナビー単体の方が多いのは事実で、つまりバーナビーにとって自分が登場しているCMなんて珍しい物でもないらしく、それほどは興味がないらしい。
「いや、そうじゃなくてさ。これ、誰?マジで…こんなCM撮影した覚えないんだけど」
そうなのだ。虎徹にとってはそれが大問題なのである。
いくらCM放映時間が15秒程度だろうが、さすがに自分が身動きしたのなら物覚えが悪いと言われようが覚えているに決まっている。
だがしかし、虎徹には先ほどのCMに対する心当たりが全くなかったのだ。
「セリフは一昨日収録したでしょう。覚えてませんか?」
「………セリフ?」
バーナビーが言うセリフというやつは「さあ、君も…ステージで、僕と握手をしよう」という少年相手のキャッチコピーのことを指し示しているのであろうか。
なんだかそう言われてみれば、その文面を虎徹は見たことがあった。
アドリブ最悪というレッテルを張られている虎徹は、めんどうくさいので取材も完全に製作スタッフが用意したカンペに頼り切っている。努力をしても無駄だと悟った。
後はヒーローとして声を適度に張り上げておけばいいという程度で、自分は声の俳優ではないのだから気合なんて入っているわけがない。
ということでバーナビーに指摘されて、ようやくおぼろげながらもそのセリフを言わされたような記憶を蘇らせる。
「いや、だからこれは…誰だって………」
だが百歩譲ってそうだとしても、先ほどのTV画面にあったようなバニーと並んで同じポーズなど取った記憶は未だになく、虎徹は続けざまに疑問を投げかける。
「誰でもありませんよ。CGですから」
「へ?」
いきなり人間ではない名前を挙げられて、虎徹は目を丸くする。それは全くの予想外だった。
「先日、アニエスさんが僕たちの登場ポーズを決めたでしょう。先だってのCMですから、多分一回きりですよ。明日のステージの宣伝でしょうから」
まさかいくらバーナビー達が忙しいとはいえ(虎徹はそれほど忙しいわけではない)、企業秘密であるスーツをヒーローショー宜しく他人に着て貰うわけにもいかないらしい。
一度バーナビーが仕事をサボった時に代役を立てたがうまくいかなかったし。
だからこそのCGのご登場というわけだ。世の中は便利になったもんだと虎徹は思う。
しかし、今バーナビーは明日とか言ってなかったか?はて…と、そのままの謎を虎徹はかける。
「明日のステージって?」
まるでオウム返しのようであったのだが、わからないのだから仕方ない。
首をがくんと横にして、尋ねる形となる。
「スケジュール確認してないんですか?明日は、ヒーロー全員揃って新ポーズのお披露目があるじゃないですか」
バーナビーの方が驚いたという顔をして、こちらに伝えて来る。
「…マジかよ。やっべー、完全に忘れてた」
そういえば、確かに確かにアニエスからそんな話をされていたような気がするが、目の前のことに精いっぱいで記憶の彼方へと忘却されていたのが、今蘇る。
大体登場ポーズとか全く興味がなかったから、脳内が勝手にスルーしていたのかもしれないが。
ヤバい。ヤバすぎる………何も準備もしてない。
「えーと、えーと。ポーズってどんなのだっけ?バニーちゃんと同じ??」
大体、あの時廃墟のような雑居ビルで虎徹は完全に遅刻をした。
ロックバイソンの肩の角に若干自分が隠れていたような記憶はあるが、あまり真剣に見ていなかったのだ。覚えている方が難しい。
「一応、対になるポーズですが…方向逆ですし。距離感とかもありますし」
「そうだよな…他人のポーズなんて覚えてないよな。どーすっかな…アニエスに連絡すれば見せてくれっかな」
PDAをポケットから取り出し、虎徹は電話をかけるかどうか頭をかかえてしまう。
「今更、確認なんてしたら…アニエスさん凄く怒ると思いますよ」
最初にあのポーズを提示されてから随分と日数が経過している。
アニエスの性格からして虎徹に対して容赦はないだろうから、化粧が崩れるほどの表情が想像に堅い。
「そうだよな…うーあーー」
電話帳でアニエスの番号を呼び出したところまではしたのだが、バーナビーにそう言われてコールボタンまで押せる状況ではなくなったことを悟る。
アニエスに軽くぶっ殺されるかもしれないという予想は、いくら虎徹だって容易につく。
特に最近はルナティックの登場で適当な扱いを受けていると言うのに、それが他のヒーローではなく自分なら尚更である。
とはいえ、自業自得で困ったことに変わりはない。
「あの…僕持ってますよ、登場ポーズのデータ。家に行けばですけど」
「え?マジ…何で?……そっか、練習の為か。バニーちゃんは真面目だなぁ」
なんと、素晴らしい提案を虎徹は耳にした。
かねがね広告活動には積極的なバーナビーだが、そこまで網羅しているとは思わなかった。
なんて真面目な相棒を持ったのかと、虎徹は心の中で涙したくらいだ。ありがたすぎる。この時ばかりは拝みたくなった。
「んじゃ、バニーちゃんちへレッツゴー!」
そうして…何も知らない虎徹は、右手を子どものように空へと突き上げて、明るく言ったのだった。



ご存じバーナビーの住まいは高級マンションの上層にあり、セキュリティも何重にも入り組んであり万全だ。
その誰もいない豪華すぎる輝かしいシャンデリア付きのロビーだけでもゆうに虎徹の家が何個か入るくらいの広さだ。大変勿体ない。
顔出ししているヒーローとしての必要経費なのかもしれないが、毎回…よく疲れないなと虎徹は毎回感心してしまう。多分絶対自分が住んだら肩こる。
エレベーターで目的の階まで上り、エントランスフロア前でバーナビーが鍵かわりの生体認証をすると、スライド式の扉がゆっくりと横へ動く。
「どうぞ」
先を促されて、失礼しますと小声で言いながら虎徹は中へ入った。
たったそれだけの当たり前のことなのに、なぜか背中に明確な違和感。
「………おーい、バニーちゃん。一体、君は…何をやってるのかな?」
立ち止まりはしたが振り返りはしなかった。いや、出来なかったのだ。
だって、バーナビーが後ろから虎徹にぎゅっと抱きついて、その右肩にぱふっと頭を乗せてきたのだから。
やわらかくも整ったブロンドが虎徹の首を何度か揺らいで、若干くすぐったい。
「だって………外で触ると怒るじゃないですか」
どさくさにまぎれて、ぎゅっと腕に力を入れてバーナビーはベスト越しに虎徹の腹部をさする。その手つきは、情人専用だ。
「当たり前だろ。仕事中は、お触り厳禁」
なだめるというよりは少し強い口調で、虎徹はそれを主張した。
バーナビーの好き勝手にさせるとキリがないので、これは付き合う上での二人のルールなのだ。
「ずっと側にいるのに、手出せないなんて生殺しだ」
わかってはいても酷い人だと、バーナビーなりの主張を加える。
好きな人に触れたい時に触れられないことに、こんなに忍耐力を消費するとは思わなかったのだから。恋から愛になっても感情と言うものは厄介である。
「はいはい。でも、今は仕事の延長だからねー離れて」
虎徹は悲痛なふりをする訴えを軽く流して、冷静にバーナビーの腕を剥ぎとった。
扱いが悪いが、このままでは何も出来ないのだから仕方ない。
正直…明日のことが憂鬱でそれどころではないのだ。何よりも練習が優先である。
でもとにかくバーナビーがいなければ駄目だから、右手を引っ張ってリビングまで半分引きずる形となる。
勝手知ったるリビングだからこそ、テレビも兼ねているスクリーンの電源を入れる。
容量を随分と食ってそうなのに立ち上がりは早いのは、お金をかけているからだろうか。
「で、バニー。データは?」
そして、いつまでも自分にひっつこうと未練がましいバーナビーに追い打ちをかける。
バーナビーのプライベートルームとはいえ、あくまで今は明日の仕事が大切だということをきちんと示しておく。
「…わかりましたよ」
しぶしぶと嫌々を兼ね揃えたような表情をしつつも、バーナビーはようやく自身のパソコンへ近づいた。
立ったままパソコンを立ち上げて、何やら操作しているのが遠目からでも虎徹にもわかる。
しばらくすると、ぼうっとスクリーンにヒーローズの全員集合図が浮かび上がる。
「おっ、結構凄いな」
わかってはいたが、なかなかの壮観図に虎徹は声を張り上げる。
ここのスクリーンは巨大で幅が若干足りないが、それでもヒーローひとりひとりが等身大くらいの大きさで表示することが出来るのだから(ロックバイソンはちょっと無理)
これで皆の新ポーズでキメキメではなければもっといいのだが、それはもう仕方ないから諦めている。
「とりあえず全体図と位置関係はわかりましたか?もう少し見やすいようにしますね」
そう言うと、またバーナビーはマウスを操作する。クリック音が何回か響く。
パッと画面が切り替わると他のヒーロー達の姿が消えて、今度はワイルドタイガーのバーナビーの対になったヒーロースーツ姿だけが表示される。
ロックバイソンの角で隠れていたワイルドタイガーも、これで全体像がわかりやく見える。
「えーと、こんな感じか?」
横目でCGのワイルドタイガーを見上げながら、虎徹はそれらしいポーズをとってみる。
姿鏡は別の部屋だから、確認は広く取られた窓にぼんやりと映る自分の姿くらいだ。
何か…いまいちよくわからないし、アンバランス差もぬぐえない気がする。
というか、別に自分がやりたくてやるポーズというわけではないから愛着とか全くないし、正直忘れそうで仕方ない。
その辺…バーナビーなんか真剣に完璧にこなすのだろうから、自分の駄目さが強調されそうだ。コンビであるからこその弊害である。
「あーなんだかなぁ、よくわかんねぇな」
ずっとしていると、微妙に疲れるポーズだということに気がついたのは唯一の利点だろうか。慣れないと足つりそう。
いくら等身大とはいえ、なんかぎこちない感じがして仕方なく、虎徹はソッコーでポーズをやめてもう少し観察することにした。
「もしかして、こっちの方が見やすいですかね………」
掴みきれてない様子の虎徹に気をつかって、バーナビーは再びパソコンへと向かう。
一瞬、ヒーロースーツ姿の虎徹が消えると、変換データを注入しているようで少しずつ変化して…
「すっげー!これ、正しく俺じゃん。どうやってんの?」
次にスクリーンに映し出されたのは、虎徹そのままの姿だった。アイパッチさえしてない。
しかもきちんとあの登場ポーズを再現していて、相当驚いた。
「この前、定期検査でCTスキャンした時のデータを斎藤さんにこっちのデータと相互関係を組んでもらったんですよ」
「へーおじさんにはついていけない世界だわ。でも、これでかなりわかりやすいわ」
今度こそ本当の等身大サイズであった。
スクリーン上とはいえど、このサイズの自分を間近に見ることもなかなか少ないので、なんだか面白い。
しかもこれで、細かい手の角度とか足の反り返りとかもチェック出来るので万々歳だ。
虎徹はスクリーンの前に立ち、自分のCGの真横でアングルを調整しながらもポーズを取ってみる。
素でこんなポーズやってたら変な人だろうが今見ているのはバーナビーだけだし、その相棒も同じポーズをするのだから別に笑ったりしないから、気にしない。
うん。なかなかいい感じだ。ようやく今まではあやふやだった感じが、引き寄せられたような気がしてきた。
これならあと一斉のタイミングさえ間違えなければ、ポーズ自体に文句を言われることはないだろう。
良かった、良かったと…虎徹は安堵の息さえ吐き出す。
「ありがとな、助かったわ。バニーちゃんが練習熱心でデータ取っておいてくれなかったら、ヤバかったわ」
バーナビーに向き直って、虎徹は感謝の言葉を出した。
自分一人ではこんなに短時間にコツさえ掴むことは出来なかっただろう。
「………もしかして、単純に練習の為に…僕がデータ収集していたと思っているんですか?」
「えっ…違うの?んじゃ、何でよ」
何だか見当違いの返事がやってきて、虎徹の脳内は疑問に浮かぶ。
確かにわざわざ斎藤さんに頼んで生身の自分たちのデータまで用意するほど、これが難しいポーズだとは思わなかったが。
完璧主義者であるバーナビーが何にこだわろうと、あまり虎徹が疑問に思わなかったことは確かで、そういえば何でだ?とここまで言われて初めて感じたくらいだった。
「このデータ。結構自由がきくんですよ。この前、ファイヤーエンブレムやスカイハイさんが操作していたの覚えてませんか?」
「あーそういえば」
ファイヤーエンブレムの酒池肉林ハーレムポーズや、全員がスカイハイポーズを取った、なかなか斬新というか一般人には理解にしくいポーズが色々と映し出されたのを思い出した。
あれはギャグの一部という認識でしか虎徹の頭の中に残っていないので、基本真面目なバーナビーにそれが当てはまらなかったのだ。
「なになに、バニーちゃんも独自のポーズがとりたかったわけ?」
あの場で遊んでいた(スカイハイは多分天然)のは二人だけだったし、火事が起きてしまったから他のメンバーは自由に操作することが出来なかった。
虎徹自身はポーズなんて全く興味がなかったわけだが、バーナビーは異様に御執着していて特に目立つセンター付近固定は結局最後まで譲らなかった。
もしかしてというかやっぱり、バーナビーなりの最善のポーズを研究していたのだろうかと思いつく。
人気を得るためにはそんな努力までするのか大変だなと、からかいの中に少し同情も含む。
「もうアニエスさんの決めたポーズで確定してしまったんですから、そんなことしませんよ。
だから、個人的に楽しませて貰ってます。例えば、こうやって………」
再びバーナビーはパソコンへと向かい、操作を始める。今度は少し時間がかかっているようだ。
スクリーンに映る虎徹の姿が僅かに揺らいだのかと思ったが、なんと静止画止りではなくゆっくりと動き出す。仕草は不自然もなく滑らかだ。
次の瞬間には、CGであるはずの虎徹はそろそろと自らのベストのボタンに手をかけて、ぷちぷちと一つずつ丁寧に外して行く様子が流される。
続いてベルトのバックルに手をかけたところで、あまりの光景に硬直していた虎徹の脳が動き出す。
「ストップ!ストップ!!なになになに…なにこれ?本気なの、バニーちゃん!」
幸いストップと叫んだところで、バーナビーは停止ボタンを押してくれたのだが、下手に中途半端にズボンの前をくつろげようとしている場面で止まっていて、余計に目に悪い。
というか、何が楽しくて自分のストリップショー紛いを見せつけられなくてはいけないんだ。変にリアリティがある分、胸やけする。
「良く出来ているでしょ?」
赤面する虎徹をあざ笑うように、バーナビーは言ってやる。悪気など全くみせるつもりはないらしく、性格が悪い。
「いやいや、違うからこんなの!俺じゃないし」
鏡越しとも違う別次元の存在を認められなくて、虎徹は大否定する。
単純にポーズ練習で見ていた時の大絶賛とは、酷い様変わりだ。
「見た目は貴方ですよ。表情も肌の色も………だって僕たち、セックスしているじゃないですか。ここまで似せるの苦労したんですよ。後は声…ですか。どうやって録音しましょうか」
何を今更と言わんばかりに、バーナビーはその正さを示し続け、次まで提案し始めた。
「………もしかして、これズリネタにしてたのかよ」
はあ…と盛大にバーナビーにもわかるくらい虎徹は、ため息をついた。
この若くてイケメンでハンサムで甘いマスクの持ち主が自分に御執着という事態が未だに信じられないのだが、照れも隠しもせずにこんなことを言うなんて…ていうか言わせてしまうなんて、自分は嫌な大人になってしまったものだと、なんだろう…少し泣きたい。
「いけませんか?だって僕…貴方より一回りも若いんですよ?週に二回程度じゃ、満足出来ません」
やれ…外では触るなとか会社でも二人きりの場所限定でキス止まりまでとか、散々制止を促されて、破るともうセックスしないとか言われてバーナビーも色々と限界だった。
別に虎徹に迷惑かけているわけではないし、自分一人の時間に何をしていても文句言われる筋合いはないだろうと、完全に開き直って性質が悪い。
そこまで言われて、困ったような顔をした虎徹だったが帽子を取り、がしがしと乱雑に頭を書いてから仕方ないと言う顔をする。
「ったく。わかった、わかった。とりあえず、そのデータは消すこと。もししたいなら…こんなもんに頼らないで、俺に電話しろ。こっちの方面の体力には自信ないけど…出来る限り付き合ってやるからさ」
半分帽子で表情を隠しながらも、そこまで言ってやる。
どうやら自分も甘く…相当この青年に入れ込んでしまっていることを隠すように。
「いいんですか?毎日電話するかもしれませんよ」
ぱあっと明るい表情になったバーナビーは喜びをそれでも隠しているようで、でも凄いことを言い放つ。悪気があるのかないのか。たぶんあるだろうが。
「…毎日は…………努力する」





その日は、早速で押し倒されて床の上でやられたが…

後日―――バーナビーがマスターデータを惜しんで消してなかったせいで、不注意に虎徹の全裸データがスクリーンに表示されて、しばらくセックス禁止になってしまったことは言うまでもない。











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