「聞いてない」
「そうでしょうね。僕、虎徹さんには言ってませんから」
「普通、一言くらい声かけるだろ?」
「そんなに重要な事だと思わなかったので」
「…バニー、お前。わざとだろ?」
「何か問題でも?」
「問題は大アリだ!とりあえず、その手を放せ!!」
「嫌です。だって、放したら…虎徹さんはここから出て行ってしまうでしょう?」
「そうだよ。このお前の部屋に置いてある俺の私物全部丸ごと一緒にな!」
世間一般様が聞いていたら、何をどう耳にしても痴話喧嘩にしか聞こえない、バーナビーと虎徹のやり取りだったが、ご多分にもれず…これは痴話喧嘩であった。
なんせこの場はまごうことなきバーナビーの住まいで、その場で虎徹は、手始めにクローゼットから己の私服を取り出し、片っ端から横に抱えていたボストンバックに放り込み始めたのだ。その数や、一着二着というレベルではない。それも当然と言えば当然である。バーナビーと虎徹は恋人同士で、今となっては半同棲のような形になっていたのだから。
それなのに今の虎徹といったら、その痕跡全てを抹消するかの如く、バーナビーのイメージに相応しくないと思われる二人共通の私物も何もかもをボストンバックへ投げ込んでいるのだ。
その現場を目撃したバーナビーは、慌てて虎徹の手を掴み止めさようとしたのだが、勢いは留まる事を知らない。それくらい危機的状況だった。
「何やっているんですか。虎徹さん!」
「………アポロンメディア恒例、家庭訪問。ロイズさんから、バニーは明後日が家庭訪問の日だって聞いたんだよ」
やっと向き直った虎徹は、バーナビーに対して…そう言い捨てた。
そうして冒頭の二人のやり取りに戻る。
家庭訪問―――
読んで字の如く、お宅へ赴くということであるが、常識的に考えられるのは、義務教育の過程にて学校の教師が生徒の自宅へ赴くというイベントである。
虎徹自身が家庭訪問を受けたのなんて20年以上前の出来事で、その存在自体忘れていたくらいだった。それなのにまたこの単語を耳にすることとなったのは、なんとアポロンメディアに入社してからのことである。
そんな事微塵も考えたこともなかったのだが、どうやら…アポロンメディアの社員にも家庭訪問という行事が義務として存在していたのだ。何故…とか、何で…とか、意味がわからない…とか、そんなありとあらゆる疑問符を並べても、あるもんはあるのだから仕方ない。言われるまで見もしなかった社員規定にもきっちり書かれていると気が付いたときは後の祭り。
瞬時に変な会社だ…とは思ったが、ヒーローをやっていたい虎徹に取ってはそれくらいさして問題にもしていなかった。そんなことに駄々を捏ねて、クビにされる方が数倍困る。だから、受け入れるしかなかったし、拒否権など存在している筈もなかった。
さすがに社会人相手の家庭訪問となると、学生のように仰々しいものではない。ちょっと上司が部下の自宅に来て、その様子を見にくるくらいだ。単身者の場合は親など家族が住んでいるところまで行く…というのが規定には書かれているようだが、アポロンメディア社は大企業なので地方出身者も多く、さすがに難しいと判断される単身者は普通に自らの住まいに上司を呼ぶのでも構わないとなっている。
虎徹もその例に漏れることはなく、昨年も上司であるロイズさんは、ブロンズステージにある申し訳ない程度の綺麗さしかない虎徹のアパートに来てくれた。5分で帰ったが。そう…そんなものなのだ。だから重要視などしていなかった。
だが、バーナビーの場合は事情が違った。そう…昨年までは養父代わりとなっていたマーベリックの屋敷に、バーナビーの家庭訪問がされていたのだが、事件が解決した今、マーベリックは帰らぬ人となり、その通例は使えない。そうなると、天涯孤独であるバーナビーの家庭訪問は、もちろん自宅で行われることになるのだが。その結論は非常に不味いものだった。
「ロイズさんがバニーの部屋に来るのに、俺が居たら変だろーが!」
勢い余ってバーナビーに掴まれていない方の手で、虎徹は床をダンッと叩いたのだが、その効果はさっぱりなかった。
「ちょうどいい機会です!別に僕は虎徹さんとの関係を隠したいと思っているわけではありませんし、まずロイズさんから認めて貰うのが筋だと思います。まどろっこしいことしなくても、この状況を見れば一目瞭然じゃないですか」
相変わらず虎徹の手は離さずに、こちらも空いた手で周囲に弧を描く。二人暮らしの、このゴムやらローションやらが転がるベッドルームのどこが家庭訪問に相応しいのか、小一時間問い詰めて詳細に説明して貰いたかったが、今の虎徹にはそんな余裕はなかった。
「お前は良くても、俺は嫌なんだよ!隠したいの!」
そう…虎徹の想いはそれ以外有り得なかった。しかし、バーナビーの発想は斜めっていた。
「どうしてですか?僕たちの関係が認知されれば、外でもいちゃいちゃ出来るじゃないですか!」
今までこそこそ隠れていなければいけなかったストレスを発散させるかのように、主張される。どうやらバーナビーの方は、虎徹とは真逆な不満を持っていたらしい。恋人には自分に無い物を求めるというが、これが虎徹が求めた先にあるものだとは思いたくなかった。聞きたくなかった。
「だーから、それが嫌なんだよ。オープンにしたら、お前余計に迫ってくるだろ?俺の腰が持たない!仕事にも支障が出る!」
さすがに次の日が仕事の場合は多少?いや…ホント多少程度にセーブしているようだが、それでも虎徹の限界ギリギリを見極めているのが逆にイラつく。と、ここで思い出して、虎徹は地団駄を踏む。
「当然です!でも僕一人が悪いわけじゃないんです!!虎徹さんが可愛いから…体が、勝手に………」
ここでバーナビーは奇妙としか思えない激しい苦悩のポーズをとるが、これがまたハンサムがやると意味ありそうに見えるのが厄介だ。言っている事はアホとしか思えないからこそ尚更に。
「俺のせいにするな!大体…週六セックスとか異常だって言ってるだろ?休息が一日って神様じゃねーんだからさ」
そうなのだ。虎徹が抱く一番の不満がコレである。兎が持つ発情のように日々迫って来るバーナビー相手に虎徹は完全に疲れていた。そして40近いオッサンである自分を可愛いとか平然と言うバーナビーに対してもだ。日頃溜まっていた鬱憤を吐き出すかのように虎徹も言い張った。
「………わかりました。虎徹さんがそこまで言うなら、僕も条件によっては妥協してもいいです」
押して駄目なら引いて見ろという法則を試すかのように、バーナビーはようやく虎徹の手を放し、身体も少しだけ離した。
「条件?」
何だか嫌な単語が飛び出してきて、気乗りしない顔をした。それでも一応話とやらは聞いてやろうという姿勢は示すが。こういう機会でもない限り、虎徹はバーナビーに流されてしまうことが多いから。特に夜の問題は、だ。
「前々から虎徹さんに着て貰いたいなと思っていた服があったんですよ。明日一日、それを着て下さい」
ちょうど良い機会が巡ってきたと喜ぶ内心を隠しきれないように、バーナビーは微笑を口元に添えた。あちら様はまるで素晴らしい名案を提示したかのようだ。
「服?明日は仕事だぞ。変な服なんて着て出社なんて出来ねえぞ」
バーナビーの出した交換条件がまだ聞くに堪えられるからこそ、虎徹は的確につっこむ。
「それくらい僕もわかっていますよ。大丈夫です。別に見た目がおかしいとか、そういう事は全くありませんから。明日一日だけです。きちんと着続けてくれたなら、虎徹さんの要望通り週六から週五にします」
言っている事はろくでもなかったが、それでもバーナビーははっきりと言い切った。これがバーナビーの妥協という提案だったのだが。
「週五でも多い。せめて週四にしろ!」
何だか全てバーナビーの思い通りになるもの癪で、虎徹は多大な請求を口にする。
「………虎徹さんは僕とセックスするのがそんなに嫌なんですか? 一日僕の願望に付き合ってくれるだけで…それじゃ随分と酷くないですか?」
ここで舞台俳優のように、しゅんとしたバーナビーは残念そうに顔を下に向け、ぽつりとつぶやく。あからさまとはいえ、さすがに良心が痛むような…でも内容が内容なんだがこの時ばかりは絆されてしまうようで。
「…あーもうっ、わかったよ。週五でいいから」
元々週六というのも押しに押したバーナビーが勝手に作った条約だったので理不尽なのだが、なんか弱気になってしまい、虎徹は了承してしまった。
虎徹は一度口にした約束事は守る性格である。
次の瞬間に確信犯的笑みを浮かべたバーナビーに気がつく事はなく、そして…問題の服とやらが、クローゼットから出て来たのだった。嗚呼、無情。
「虎徹君、どうしたの。どこか具合でも悪いの?」
翌日。初っ端から虎徹は、会社の渡り廊下で、今一番会いたくない人ランキング暫定二位のロイズさんと遭遇した。いや、この表現は非常に申し訳ないのだが、それでもロイズさん本人に問題があるというわけではなく、問題は虎徹自身にある。
「いえ。別に、全然元気ですよ。ははは…」
空元気を振舞うように不自然に虎徹は笑った。正直、話しかけられた時はビクリとしたものだったが、無難な話でほっとしたというのが本心だ。
「まあ元気ならいいけどね。それで何、そのロボットみたいな歩き方は?」
若いんだからしっかりしろとでも言いたいのか、軽く叱咤する言葉をロイズさんは織り交ぜた。
「えーと、えーと、新しい健康法…?だと、いいな。なーんて」
またも奇矯な笑いを付け足さないとやっていられない…そんな状況だったから全力で誤魔化す。
「ま、そんなことより………まだ君のトコの日程は決まってないけど、私の時間が空いたら家庭訪問行くから。くれぐれも部屋を綺麗にしておくように」
昨年までの惨事を思い出し、ロイズさんは軽く頭が痛いようで、こめかみを押さえている。いや、虎徹だって別に汚くしたくてしているわけではなくて、たまたま普段のあり様がお世辞にも綺麗とはいえず、でも家庭訪問があるから片づけないとと思っていたのに、ヒーローとしての呼び出しが突然来てしまい、いつもの様子を晒すことになってしまっただけなのだ。最終的になんか凄く前向きに考えた結果、これが普段なのだから有りのままの自分の部屋を見て貰うのが一番だと思ったのだが、やはり潔癖症に近いロイズさんには不評だったようだ。
「今年からは綺麗にしますよ。ところでロイズさん…毎年恒例とはいえ、俺とかバニーとかまで家庭訪問する必要なくないですか?どうにかなりませんかね…」
この際だったから、ずっと燻り続けていた胸の内を虎徹は吐露する。そもそも今虎徹がロボットみたいにぎこちなく歩かなくてはいけない理由も何もかも家庭訪問がキッカケだったから、恨みさえしたくなるほどなのだ。
「そんなこと言われてもね。うちの社員は役付でも非常勤でも必ずやってるから、そんな例外無理だと思うよ」
虎徹の主張は淀みなく拒否の方向へとロイズさんにより進む。
「え?まさか平社員だけじゃなくて上の人もやってるんですか?」
そんなに大々的だとは思わず、思わず虎徹は素の声が出た。
「かつてはCEOが取締役の家に行っていたみたいだけどね。今年は役員同士が持ち回りで行くみたいだよ。そういうことだから、そんな勝手は無理だから。せめて不快に感じない程度の部屋に日頃から掃除しておくように」
説明をしながらもきっちりとトドメの言葉を刺してくる。
「はーい。わかりました」
やっぱり行きつく先は説教に近い小言だったので、もう余計な事は言わずに虎徹はただ了承だけを示した。
対するロイズさんも忙しい人なようで、とりあえず忠告だけはしたことに満足をし、さっさと妙な歩き方をする虎徹など放って、目的地へスタスタと進んで行ったのだった。
一人残された虎徹も歩く。いや、好きで歩いているわけではないし、出来ることならじっとしている方が今の身体には良いのだが、それは出来なかった。元々外部から入ってきた虎徹にとって社内で悠々と居られる場所など少なく、専らがヒーロー事業部での仕事と待機という形だ。で、そこにいたくない理由はもちろん只一つ。バーナビーが居る…これだけで十分だ。だから今日一日は、仕事を放り出し…だからと言って外でサボるなんてことも出来ないから、社内で時間が潰せるような場所を探す。そう決めた。
虎徹だって今自分が活気よく歩けているとは思っていない。むしろロイズさんのようにわざわざ声をかけてくれる人は、通常ならば有りがたい存在なのかもしれない。しかし、ロボットのようだと言われたのには、少しショックだった。背筋をぴんと伸ばしての直立不動、これでなるべくゆっくり歩く。不自然だろうが、今の為には体に負担をかけないように、それを心がけていただけだったというのに。
とにかくどこか隠れられてゆっくり休める場所を探そう!そう明るく前向きに思ったのだが、、、
「どこに行くんですか?虎徹さん」
ゆるやかに歩いていたせいか追いつかれて、つまり…まあ後ろに不敵な笑みを浮かべるバーナビーが居た。やっぱり無駄だったか、とがっくし肩を落とす。
「お前の居ないトコ。ついてくんな」
そっけなく言ってもどうせ効果がないとはわかっていたが、それでも悪態の一つでもつかなければ気が晴れなかったが、もちろん叶わない。
「それは叶わぬ相談ですね。だって僕には確認をする義務があるので」
決定事のようにそう言うと、バーナビーは不意打ちのように虎徹の腕を引っ張って、手短に横にあった小会議室の扉を開けて手際よく押し込んだ。
「何すんだよ」
虎徹の叫びは、後ろ手でバーナビーが閉じた扉と鍵の音にかき消されるようだった。簡単に密室空間の出来上がりである。
「だから確認ですよ。僕が用意した服…きちんと着てくれているかどうかの―――」
そう言いながら、バーナビーは悠然と虎徹をテーブルの上へと押し倒してくる。小会議室のテーブルはそんなに質の良いものではなく木製の簡易テーブルを並べただけなので、重さで動いてしまい、そのアンバランスを保つ為に虎徹は苦心しなくてはいけなかった。
そんなことに虎徹が気を揉んでいるのを尻目に、バーナビーは虎徹に伸しかかりながらも慣れた手付きでベストのボタンを手早く外す。
「…言われた通り、きちんと着てるって。すげえ嫌だけど」
まさか社内で確認されるとは思っていなくて…慌てて雑言を口にしながらも、虎徹はバーナビーの手を振り払おうとした。
「僕から逃げる算段していたのはわかっていますよ。貴方のことを素直に信じろとでも?言っておきますけど、ずれたりしていたら駄目ですからね」
結局バーナビーは虎徹の言う事も伸びた手も無視し、自らの手を進める。虎徹の軽い邪魔に合い一時は軽く止まっていたバーナビーの手も、あっという間にベストのボタンを全て外すこととなる。次いで片手で首元からネクタイを解いて勢いよく引き抜く。そうして、目的の深緑色のシャツのボタンに手をかけるのだ。それも虎徹に見せつけるかのようにゆっくりと…ぷちぷちとボタンが外れて行く音が、無用に響いた。ボタン自体の位置は決してずらさずに漏れなく全てのボタンを外すと、ベストとシャツの合わせ目を共に掴み、一気に虎徹の胸部を外へ晒した。
「…あっ」
思わず意図しない声が虎徹の口から漏れた。そして、ふいっと赤面を隠しきれなくなった顔を横へと背けた。それでもバーナビーからの視線が突き刺さるように感じるのは、やはりこの格好のせいだろう。
昨日、交換条件としてバーナビーが着るようにと強要してきた服は、虎徹の常識の範囲を越えたものだった。それを嫌々ながらも見に付けた結果、虎徹のシャツの下は素肌に黒いサスペンダーで乳首を辛うじて隠しているという姿になっていた。
間違ってもサスペンダーは素肌に付けるものではないだろうが、バーナビーの指定がコレだったのだ。確認する前に、すんなり頷いて非常に後悔した。確かにこれなら、上には普通に服が着られるわけだし、傍目から見れば違和感などないが、身につけている虎徹自身は恥ずかしくて仕方ない。
こんな格好の一体何が楽しいのか虎徹にはまるで理解出来なかったが、バーナビーいわく、どうやら有名な外国映画の倒錯的な愛とエロスのオマージュらしい。タイトルを一応聞いたような気もするが、もちろん虎徹は知らなかったので三秒で忘れてしまったのだが。むしろ覚えたくないと脳を拒否ったのだと思っている。
「どうやら…きちんと身につけられているようですね」
少しは満悦したらしい声を出しながらも、バーナビーは虎徹の上半身に確認のための視線を注いでいるだけかと思ったのだが、そう甘くはなかった。
「…ひゃっ!…触るなよ、」
視線をバーナビーから外していたからこそ突然訪れた刺激に虎徹は驚きの声を出し、思わず顔を上げる。
「僕は虎徹さんの為に、サスペンダーを安定させているだけですけど」
全く悪びれなく素知らぬ顔をしながら、虎徹の素肌には触っていないことをバーナビーは強調する。まるで自分が優しい人間であるかのような口振りだ。ムカツク。
確かにバーナビーの言うとおり、直接触られてはいない。バーナビーは黒いサスペンダーの位置を確かめるように虎徹の乳首の上に置いているだけなのだから。だが、それが虎徹には非常に厄介だった。もちろんそれだけに甘んじるわけはなく、やがて…バーナビーは次なる行動として、もっと厄介な事和してくる。
「ひゃ…んっ………何、して…」
「ちょっと息を吹きかけて見ただけですけど、」
ぞくりと背中を駆け巡る奇妙な感覚に、虎徹は目を細める。こんな生暖かい刺激でもダメなものはダメだ。
「虎徹さん。乳首、立ってますよ」
間近でそれを見ながら、わかっていてわざと、バーナビーは口にした。
虎徹はなるべく意識しないようにと思っていたというのに最悪だ。そもそも、こんな変態としか思えない格好のせいで、そうなってしまったのだから全てバーナビーのせいだ。それでサスペンダーが乳首とこすれないように、ロイズさんにも不信な目を向けられるほど変な格好をしなくてはいけなかったのだし、やはり全てバーナビーのせいだ。
「………立ってねーよ、」
それは虎徹の精一杯の否定の声だったが、見事に裏目に出る。
「そう…ですか。では確認してみますね」
素直でない虎徹に畳みかけるかのように、バーナビーはサスペンダーの上から乳首をつまんだ。
「ぅ、…あっ!」
飛び出た声をかばうように、虎徹は瞬時に口元を覆った。いくらアポロンメディア社屋の壁が薄いわけではないと知っていても、隣も普段なら厳かな会議室で、外は社員が行き交う廊下だ。万が一にも聞かれて良い声ではなかった。
声を押さえることに必死となった虎徹は背となっていた会議机へのバランスを崩したのだが、そこはバーナビーが手を回して支えてくれた。助かった…と思うのもつかの間で、これを良しとしたバーナビーは背中からサスペンダーをなぞって引っ張ったりするから、たまらない。声が漏れる。
「…も、いいだ…ろ。確認は…」
約束通りバーナビーの指定した服をきちんと着ていることは一目瞭然としか思えなくて、合間合間に声を出す。
「そうですね。上…は確かに。では残りの下も確認しましょうか」
納得したかのようにサスペンダーから手を離したが、今度は嫌な言葉を出しながら、虎徹の履いているサスペンダー用のズボンに手をかけた。
「ちょっ!」
下もかよ!と思い、虎徹は先ほどより大いに慌てた。サスペンダー用のズボンと言っても、こちらも只の黒いスラックスにしか見えない代物だ。ただ、サスペンダーで釣り上げているのでベルトはしていないのだが。問題はそんな上辺ではなく、バーナビー指定の下着の方だった。
「あ、脱がすとなると、せっかく調節したサスペンダーも外さないといけなくなりますね。どうしようかな…」
再びサスペンダーを手持無沙汰に弄くりながらもバーナビーは困ったふりをした。
何が調節だ…わざとキツくしただけじゃないかと虎徹は大いに叫びたかったが、逆効果だとわかっているので黙る。そもそも、決してずらさずにきちんと着るということ事態が面倒な格好ばかりさせるのだ。外していいのはトイレの時だけとか、憎い。それをこんな時にでも律儀に守ろうとしているバーナビーが恨めしかったので、睨む。
「まあ、見て確かめられなら…触るしかないですね」
また不吉な事を呟いたバーナビーは、虎徹をより会議机に押しつけてくる。容赦ない重さに慣れている虎徹はいいとしても、机自体がガコンッと音を立てて幾らか後ろにずれるくらいだ。
虎徹に覆いかぶさるように体重をかけてきたバーナビーは、会議机の脚の一部が床下コンセントに都合よく引っかかり安定が取れたとわかったところで、虎徹を支える腕をゆっくり外した。そのまま右手を下し、虎徹の膝から太ももにかけてじりじりとなぞり上げていく。
「何、言ってっ………んぅ、…」
いくばくか身をよじって抵抗を試みたが、そううまく逃げられるものではなく、空しく声だけが漏れる。
「…あっ…!」
虎徹の抵抗に気を良くはしなかったバーナビーは、今度は先ほどいじったのとは逆の乳首をつまんで押しつぶしてくる。サスペンダーの上からとはいえ、そう集中されれば素でやられるより厄介だ。軽い痺れるような痛みも伴い、虎徹は嘆声と共に軽く目を瞑る。
その一瞬のすきを幸いと感じたのかどうかはわからないが、バーナビーは目敏く、少し密着していた二人の身体に隙間を開ける。
そして、やっと離れてくれるのかと安堵した虎徹を一蹴するかのように、今度は撫でていた虎徹の両太ももを割り開き、バーナビーは自身の膝を間に入れてきた。
「っおい…やめっ、……」
もちろん虎徹の制止の声など通る筈もなく、呆気なくバーナビーの膝はズボン越しではあったが虎徹の性器を刺激しにかかる。容赦なく何度も振動を与え、揺り動かす。
「ん……んん!っ…こ、…んなんで、確認…なんか出来ねー…だろーがっ」
「出来ますよ。ほらっ」
そうやって会議机の上に完全に虎徹を押し付けたバーナビーは、下着の縁をなぞるかのように膝を押し当てるように動かしてくる。と言っても殆ど虎徹の性器のきわを辿るようになってしまっているのは、身についているのが黒い男性用のTバックだからだ。しかもこれがまた…どこで買ったんだ?と思うほど、子供用かと思うくらい布地の小さい代物だった。つまり…キツイ。バーナビーに押し付けられると余計にその狭さからの圧迫を感じた。
「…ひ……あっ、」
極め付きに虎徹のズボンのホックは外さずにチャックだけ開いたバーナビーは、開いた中に指を入れ、中が先走りの白濁濡れている事をしっかりと跡付けてくれた。
「きちんとずれずに身に着けているようですね、安心しました。ところで僕としては折角着て貰ったので最初の約束通りこのまま身に着けていて欲しいんですけど、駄目ですか?そろそろ限界ですか?」
バーナビーいわく確認が済んだことに満足をしつつも、焦らすように未だに身体は離さず、間近で虎徹に問いかけてくる。この、野郎…完全に人をおちょくってやがる………まるで素直にこの恥ずかしい恰好をした自分が馬鹿みたいじゃないか!
次の瞬間、虎徹は割り入っていたバーナビーの股間を今度はこっちの膝で軽く蹴り上げた。わずかに鈍い音が響いたような感覚さえあった。
「いい加減にしろ!この変態兎!!」
予想していなかった痛みに若干バニーは「うっ」と声を上げて、その場にうずくまった。これでも同じ男としてその痛みはわかるからこそ虎徹は加減したつもりだったが、正直自業自得である。いくらなんでもやりすぎだ。
ようやく圧迫していた身体が離れたのでチャックを上げ、ベストとシャツの前を掛け合わせた虎徹は、そのままバーナビーを置いて会議室の扉をバンッと閉めた。
返って清々した。もう、この恰好で恥ずかしがるとか馬鹿な事はするつもりはない。大股で廊下を歩き、さっさと虎徹はヒーロー事業部に戻って行ったのだった。
酷いアクシデントはあったが怒りに任せてバーナビーに睨みを利かせていたので、それから先の時間は普段よりは早く進んだような気がする。ま、あの場でうずくまったバーナビーがヒーロー事業部に戻って来たのは虎徹が戻ってくるよりかなり時間がかかったのだが。理由としては罰が悪いと思うようなタイプではないので、確実に身体的な物だっただろうが、少しは懲りただろう………と思ったのに、やはりそれは虎徹の思い込みだった。
「虎徹さんは僕を殺す気ですか?酷いにも程があります!」
「酷いのはどっちだ?こんなアブノーマルな恰好させといて。いっそ、不能になっちまえ!」
そんなやりとりが今行われているのは、バーナビーの住まいでの一コマだった。昼間の出来事を鑑みて若干嫌ではあったが、当初約束をしてしまったので未だに虎徹はあのサスペンダー+Tバックという意味不明としか思えない恰好を身に着けていた。もちろんきちんとこっちはやり通したんだから、約束は守れよ?と言う為だ。それが主題だった筈なのに、バーナビーは股間を蹴ったことに根を持っている。わざわざバーナビーの家にまで行ってやったのは、少し…やりすぎてしまったかなと不安に思った部分もあったというのに、あからさまに文句を言われると反抗したくなるのは仕方ない。だって普通にバーナビー元気みたいだし。
「ともかく、もうこの恰好はいいだろ?脱ぐからな」
そもそも全部バーナビーが悪いんだと決めつけて虎徹は言い捨てて、足を進めた。もちろんバーナビーのいない寝室へと向かい、そこで着替える為だったのだが。
「…そうですね。是非、脱いで下さい」
納得したかのように平坦な声を出したバーナビーだったが、同時にした行動はやはりろくでもないことだった。
虎徹が一瞬寝室の方へ意識を向けた瞬間、バシャリッという若干派手な音と共に身体に何かかけられたことを知る。
「おいっ、何やって…?」
思わず濡れた自身の上半身を見つつもバーナビーの方を振り向くと、景気良く第二段が降りかかってくる。再び音と共に湿ったベストとシャツを思い知ることになる。曲がりも何もここはバーナビー住まいのリビングである。こんな暴挙が許されるのは家主だからとはいえ、液体は全て虎徹の身体にジャストフィットしたわけではなく、滴り落ちるに決まっている。虎徹の居た場所は床も盛大に濡れた。
「すみません…手が勝手に滑ってしまいました」
と言いながら、第三弾を虎徹の下半身に向けて投げつけるのだから、酷い確信犯である。
「どう考えてもわざとだろうが。大体…何だ、これ…冷た…………」
最初はただの水だろうと思っていたのだが若干の違和感を覚えて、そうしてはたりとバーナビーが両手に握っている物及び、横に置かれている空の容器でその正体を知る。身体を伝うこの粘性と潤滑性で、それは決定打だった。
「よりにもよってローション間違えて投げつける奴がどこにいるんだよ」
アホだ。アホの構図だ。いつの間にか、ずらっとバーナビーの横にはローションボトルがスタンバイしていた。どこから取り出したんだ…一体。この収納スペースが微塵もないと思っていたハイビスカスだけが鎮座する空間に、虎徹の知らない引き出しがあるとしたら…やはりこういうくだらないことにしか使われないのなら、悲しい出来事である。
「大変です。床が濡れてしました。掃除をしないと………あ、虎徹さんが動くと掃除範囲が増えるので、ここで脱いで下さいね」
しかもこのセリフをにっこりと笑いながら棒読みしてきた。少しは演技くらいしてみろってんだ。だが、忠告に従わなければ、またローションをぶっかける気満々のようだ。セコイ。
「わかったよ。脱げばいいんだろ、脱げばっ」
半端ヤケクソのように虎徹は叫んだ。バーナビーが近寄ってこないので、まだ昼間のように脱がされるよりはマシだという判断をするくらいしか今救いはないのだから。誰が色気なんて出して脱いでやるかと思い、ここは男らしく豪快に脱ぎ捨ててやろうというくらいだったが、そう簡単にはいかなかった。
何しろ今の相手はバーナビーというよりローションである。こいつが…また必要以上に滑って滑って、着慣れたベストのボタンさえいつも通りに外すのは困難だった。それでも比較的ボタンは大きいのでなるべくぐずぐずせずに脱ぐと、こちらはあまりローションがかかっていなかったのですんなり外せたネクタイ含めて、盛大に虎徹は投げ捨てた。まだ濡れていない床へとローション塗れのベストを放ったのはもちろん掃除をすると言ったバーナビーへの嫌がらせである。
さて残るシャツもボタンが小さいとはいえ、先ほどの要領でさっさと脱ごうと画策したのだが、やはり邪魔立てが入る。
「サスペンダー透けてますよ。乳首が透けなくて良かったですね。僕のおかげですよね」
ストリップをさせていることを意識させるかのように、ねっとりと視線を向けながらバーナビーが横槍を入れてきた。感心するほどムカつくタイミングである。
「っつ……、どこが、だ…」
全ての元凶相手に素直になれるわけがなかった。だが皮肉な事に指摘されて簡単にスルー出来る性格では虎徹はなく、さっさと脱ぎたいのだが、ローションのせいでシャツは容赦なく素肌とサスペンダーにまとわりついてくるのがわかる。上からボタンを外しながらシャツを剥がしていくのだが、その度にじわりじわりとすれていくから予想していなかった労力だ。それでも時間がかかりながらも全てのボタンを外し、シャツを脱ぎ捨てる。
「…これも、外すぞ」
「どうぞ」
今更いちゃもんを付けられるのも嫌だったので確認を交えて虎徹はサスペンダーに手をかけて尋ねると、バーナビーは案外あっさり了承した。拍子抜けをするようだったが、嫌だった存在に変わりはないので、虎徹はサスペンダーの釦留めをいさぎよく取り去った。するりと虎徹を覆っていた二つのサスペンダーが床へ落ちる。
上半身裸くらい別にバーナビー相手でなくとも見せたことはあったが、それでもローション塗れという状況の不安定さに、まだ虎徹は安堵できるわけもなかった。
「どうしたんですか、虎徹さん?下も遠慮なくどうぞ」
若干渋った様子を見せた虎徹にバーナビーはわざわざ促す声をかけてくる。言いなりのなるのも癪だったので、さっさとサスペンダー用ズボンを脱いだ。こちらも床へ淀みなく落ちる。足元のズボンが邪魔なので、多少蹴って外へ出した。そうして、一つ文句でも言おうとしたのだが。
「わかってるよ………って、おいっ。何の用だよ、」
後はあの下着を脱げば終わりと思い、そちらに意識を集中させようとしていたせいで若干気が付くのが遅れたのだが、いつの間にかバーナビーがローションに濡れるのも構わず虎徹に近寄っていたので思わず驚愕の声が出た。絶対良い事ではないことだけはわかったが。
「このままでは面白くないですから、少し遊びを入れましょうか」
バーナビーはそう言って少し身を引いていた虎徹の足を軽く引っ掛けた。
「うあっ!」
続くのは虎徹の軽い叫びと、盛大な転倒音だった。普段だったらその程度の衝撃で虎徹が転ぶわけがないのだが、何より現在の床はローションに占領されていると言っても過言ではないのである。バーナビーが踏み荒らした床はローションにより粘り気を与えており、呆気なく虎徹は床へと、バーナビーの横だったが前方へと滑り込んだ。多少受け身を取ったとはいえ、何しろその手の先も濡れているわけだったが、そのまま滑ったので案外ダメージを受けなかったのだけが幸いと言ったところであろうか。それでも床の上へとダイビングするように倒れ込んでいることに変わりは全くないのだが。
「大丈夫ですか?虎徹さん…」
そう言いながらバーナビーもその場に中腰になり、虎徹へと労りを向ける…筈もなかった。そんなことをするなら最初から足など引っ掛けはしない。
「さっきから…全く言動が一致してなさすぎるだろ」
そうなのだ…近寄ってきたバーナビーはよりにもよって、虎徹の両腕を掴んで後ろ手にやった。そして転がっていたサスペンダーをこれ幸いと意気揚々と、虎徹の手首に括り付けて固定させたのだ。これがまた手早くやったというのに全く外れないというか滑ってそれどころではない。
「何だよ、何させたいわけ?」
手を出して来ていつものようにセックスになだれ込むのかと思っていたが、意外とバーナビーは満足そうにこちらを見ているだけだし。ぶっちゃけこんな後ろ手を縛られた状況で出来ることなんて殆どないような物だったからこそ、もう素直に聞くしかなかった。
「さあ、どうぞ」
「は?」
それの意味が直ぐにわかるほど虎徹の頭の回転が追いつくはずもない。ただ顔だけ後ろに向けて、そちらにいるバーナビーに疑問の声を投げるだけだ。
「脱いで下さい」
そして決定打を落とす。そうしてバーナビーは数分前と同じ言葉を繰り返したのだ。いつからウサギからオウムになった、こいつは………
「そんなの…無理に決まって………」
「じゃあそのままでいますか?それとも僕が脱がしましょうか?」
詰まる虎徹の声に追い打ちをかけるかのようなバーナビーの勝手な選択肢が混じる。待ちかねるかのように少し手を伸ばす仕草まで加えてくる。
「これを外すって選択肢はねーのかよ?」
忌々しい手首に巻きついたサスペンダーを示すように少し上げながら虎徹は声をあげる。
「残念ながらそれは無理ですね」
初めから存在していない選択肢であるかのように気の毒を示す声を出す。そう思うなら初めから、こんなことをするなと思うのだが。
バーナビーはそれきり押し黙って、まるで虎徹の無様な姿を観察するようにじろじろと頭の先からつま先までじっくりと見ている。このまま時間が経過するのはバーナビーの思う壺だったが、これから虎徹がやろうとしている事もバーナビーの要望通りだという事はわかっていた。だが、一番被害が少なく早く終わらせられそうだという選択肢を選ぶ事しか出来なかった。
「…くそっ、……」
後ろのバーナビーは気にしないことにした。虎徹は前を向き態勢を整えると床にうつ伏せに這いつくばった状況を打破すべく、つま先をピンッと立て膝を若干引き起こした。残るはこのTバックだけなのである。これだけ布地が少なければ、少し動けばこの態勢でも脱げる…と虎徹は判断したのだった。だが、しかしそんなに簡単な事だったら初めからバーナビーが提案するわけがなかった。
押し付けていた腰を床に引っ掛けてTバックはめくるように脱げるはずだったが、やはり最大の敵はローションだ。つるつると滑り全くいう事を聞かない。元々きつい仕様のTバックは、プールから出たばかりの水着のように滑る。
「何だか…床オナしてるみたいですね」
何度もめり込ませて、擦りつけて、体全体で揺らしながら動かすとほんの少しだけ捲れたが、それでもまだまだ先は長い。
「っ、誰のせいで……こんな、こと…………ふっ、……ぁ…」
文句だけは一丁前に出たが、確かにバーナビーの言うとおり、虎徹の腰は止まらなくなっていた。元々キツかったTバックを昼間バーナビーに刺激され、でも怒りに身を任せたので抜いてもいなくて、溜まっていた。そこでこんな事をしていれば、当然虎徹の性器が一番に快楽に身を任せてしまうのは仕方なかった。
「あ、あっ…ん……っ!」
いつしか脱ぐことではなく、ただ虎徹は床に性器を擦り付ける事へと意識が移っていた。それでもローションによって滑る床相手では虎徹が望む刺激には程遠く、何度もなすり付けても効果は薄かった。それでも、グリグリとした腰の動きは止まらない。
「あ………バニー……バニー!」
なかなかイケない不安から脆くも精神が崩れ、いつの間にかその名を呼んでしまう。
「はい。なんですか?虎徹さん」
「これ…、外し…て…………ん……んも!う………っ」
後ろ手をガチャガチャと上下に動かしながら虎徹は必死に訴えかける。腕を動かすと同時に上半身も左右に揺れ、敏感な乳首も床へとすれて、焦らしを加える。
「わかりました。お手伝いしますよ」
そうは言うもののバーナビーは固定したサスペンダーには一つも触れず、人差し指でTバックのラインを尻の割れ目ごとなぞるように下へと降りていく。
「…なっ!……違っ…!」
びくんっと体全体を震えさせながら出した声だったが、もちろんこちらの指摘など右耳から左耳へと素通りさせてバーナビーは、布地を引っ張った。元々は脱ごうと度重なり擦り付けたことで、既に虎徹の性器はTバックからぽろりとずれていたのだが、それを元に戻したのだ。出る時と同じで戻すのもローションの助けによって容易かった。
「虎徹さんは左曲がりですからね。やっぱり、ずれずに着るのは無理だと思ってました」
平然とそう言い放つバーナビーの声を後ろから聞くのも辛すぎた。一度は解放された圧迫感が再び虎徹を襲ったのだから。苦しさに熱い息が出るが、所詮床へと吐くだけだったので余計に熱くなるだけだ。
そうして意識が少し明後日の方向へと傾いていたのだが、今度は逆にと言わんばかりにバーナビーが後ろの布をずらして来た時は、さすがに頭が少し冷静になった。
「っ、おいっ………な、んか…後ろに固い物が、当たってるぞ…ん………も…うっ……今週は五回した…じゃないか…!」
これだけは約束したのだからはっきり言っておかないとと思って、合間合間に必死の声を出す。このままセックスに雪崩れ込むのでは、当初の目的が果たせな過ぎる。
「ああ、その事ですか。さっき、虎徹さん。脱ぐ前に、露出させていましたよね? 約束は僕の勝ちって事で、とりあえずは。今日は、僕が不能になってないと示さないと………」
「んなっ!」
都合の良い解釈を口に出したバーナビーは、そのまま昂った自身の性器を容赦なく虎徹に突っ込んだ。
せめて手首くらい外せ!と何度も訴えたがその虎徹の声は枯れ、結局セックスが終わるまでそのままの態勢でやられまくたのだった。
ピンポーン…
ピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポーン…
朝。容赦ないインターフォンの音が鳴り響く。つまり非常にうるさかった。
「おいっ、バニー。誰か、来たぞ!」
腰が痛い腰が痛い腰が痛い腰が痛い腰が痛い。他にもありとあらゆる無茶をさせられた箇所が痛かったが、特に変な態勢を強いられた為、特に腰が痛い。そんな鈍痛を抱えて惰眠を貪りつくそうと思っていたのに、このインターフォンである。当然家主であるバーナビーに対応させようと虎徹の声が飛ぶのも当然だった。
しかし肝心要のバーナビーの返事はない。それでもインターフォンは止まらないので仕方なく身を上げると、バーナビーは横で寝ていた。
「このうるささに気が付かないとか…ある意味羨ましいな」
半分感心したが、ただ…バーナビーは低血圧な為、起きないだけだったのが若干忌々しい。まあ虎徹はセックス中、意識を飛ばしたり、無体されてまた起こさせられたりを繰り返したわけだったが、バーナビーはこっちが寝ても人の酷い寝顔を眺めているという習性があると聞いたこともあるし、今回もそれが原因の一つだろう。おかげで、インターフォンの対応を虎徹がしなくてはいけないわけだが。
もちろんイラッとしたので、バーナビーも使っているシーツをはぎ取って、虎徹は自身の身体に巻き付けてベッドから降りた。その間にも、定期的なリズムでインターフォンは鳴りつづけている。眠気も吹っ飛ぶほどの連続さだ。つまり…しつこい。
元々というかあまり人付き合いしないバーナビーの住まいに訪れる人など殆どいない。一番多いのは虎徹で、次は宅配業者ぐらいだ。その宅配業者だってこれほど何度もインターフォンに執着はしないだろう。
「誰だ…一体………」
玄関まで来た虎徹は、一応本来ならばここに居るべき人間では無い為、念のため音声だけONにして、外の客の声を拾うことにした。
基本、インターフォン音のピンポンだったが………その合間に恐るべき声が混じった。
「バーナビー君。いるんでしょ?家庭訪問の時間、とっくに過ぎてるんだけど、何してるの?」
まごうことなきそれは…ロイズさんの声で、、、
ようやく虎徹も思い出した。今日がバーナビーの家庭訪問だったという事をだ!
元々荷物を持っていこうと思っていたのだが、それどころか今のリビングはローションが濡れに濡れたままで、乱れたベッドサイド。そして全裸の自分とバーナビーという最高のオプション付きの今、ロイズさんが………
「まさか、倒れたりしてないだろうね?念のために合鍵借りてきたから、入るよ!」
来る!来てしまう!!!
全ての終わりを感じるとともに、
今ならきっと自分にもハンサムエスケープが出来ると………と、虎徹は信じた。信じたかったのだ―――