その奇妙な客は、診療受付時間終了間際ギリギリにやってきた。
カランッと扉につけた鈴が鳴る。
「いらっしゃい、お客さん。表の看板、見なかった?うちは完全予約制の歯医者なんだけど」
受付で専門雑誌を読みながら目を上げて、歯科医師である虎徹はその相手が馴染みの客でないことを確認すると一番にそう言った。
「完全予約制…にしては、他に患者さんはいないようですけど」
ちらりと周囲を見渡したその若い男は、若干の皮肉交じりと思える声を出した。
高い受付を隔ててもわかるほどの長身とスラリとしたスタイル。極めつけにほどよくカールした金髪碧眼ともなれば…虎徹にとっては美形だが、若干柄の悪い客だなという第一印象だ。
「変に待たされるよりは、空いている方がいいだろ?で、お客さん…冷やかしってわけにも見えなさそうだけど、うちに用?」
確かにそこのハンサムの言うとおり、受付兼待合フロアに他の人影はない。只今の患者の待ちは0であるが、指摘されて嬉しい物でもないからこその言葉だ。
「歯医者に何か用があるとしたら診療以外にはないと思いますけど」
「ま、そうだな。いや…歯医者にマスクしてくる客っていうのも珍しくてな。そんなに重症?」
すました顔で当然を言葉に出して来たので、悪気があるんだかないんだか虎徹には掴み取りにくかったので無難に言葉を返しておく。
「いえ、そういうわけでは…」
そう少しだけ声を落としながらも目の前もハンサムは手早くマスクを取った。
口元が開かれ整った派手な顔立ちが露見すると…うおっ、隠れていた口元はある程度は予測できたが、それでもやっぱりオーラが凄いなとちょっと虎徹はひいた。
「僕の事、ご存じないですか?」
しばらく押し黙っていたが、虎徹がハンサムっぷりに感心するだけの表情しか見せないので、そう尋ねられる。もしかしてじろじろ眺めているのがまずかったか?こういう系統は見られ慣れているとは思っていたが。
「えっ、ごめん。知らない。もしかして、前にうちに来たことあったりする?」
まさかハンサムがあまりにもハンサムすぎて自意識過剰でそんなことを言いだしたのかと一瞬思ったが、そういうタイプでもないなということぐらいはわかるので、一番有り得そうな無難を選んで尋ねておく。
「いいえ、初めてです。そうですか………僕の事を知らない…ですか。本当に貴方は話通りの人なんですね」
少し驚いたように、それでも淡々とハンサムは納得したかのような声を出す。もしかして思い込みの激しいタイプか?
「俺の事知っているってことは、どっかの病院からの紹介?」
やはり初対面だとは思ったが、それでもハンサムの口ぶりからするに察する。紹介状は見せて貰っていない。一応事前連絡は貰っていない筈だったが、どうだっけなあ〜と頭の中をぐるりと一度回して思い出させようとする。
「病院からではなくて、患者さんからですね。アポロンメディアの斎藤さんに勧められて今日は来たんです」
「あー、斎藤さんの紹介か。そりゃ、失礼したね。あ、斎藤さんの声って、聞こえる?俺、電話越しだとボリューム最大にしちゃうんだよね」
ようやく合点して、うんうんと頷くように斎藤さんの第一印象を尋ねておく。こればっかしは単純な興味本位だ。
「僕も、音量スピーカーに頼っていますよ」
ここで少しだけ口元に笑みを浮かべたハンサムも、同調するように声を返した。やはり声の小ささは共通のようで安心した。
「やっぱりなあ〜あれ?っていうことは、そちらもアポロンメディアの社員さん?」
あまり目の前のハンサムと斉藤さんの年齢とか嗜好とかの共通点が思いつかなかったので、最大の男同士の共通点である職場を強調してみる。
「はい、そうですね。僕の名前はバーナビー・ブルックスJr.です。この名前に聞き覚えはありませんか?」
当然のようにさらりと流れて来る名前があった。フルネームをよどみなく言えるタイプらしいとはわかったが。
「んん?」
なんだかまた同じような事を言われたような気がしたが、ようやくどこか…その名前が頭の隅に引っかかったので虎徹は受付の机からちょっと身を乗り出して、そのバーナビーの顔を間近で見てみた。相変わらず近づいてもハンサムは崩れない。いや、それは現状の問題ではないのだが。
アポロンメディアの社員ということは報道関係で、どっかテレビ出てたのか?とは思いはしたが………ようやく思い当たった。
「ああっ!スーパーヒーローのバニーちゃんかっ」
虎徹は、ぽんっと両手を叩いて疑問の正体を払拭した。あーもやもやが解消されて、良かった良かったという安堵の息も含める。
「僕はバニーじゃありません。バーナビーです!」
一瞬で顔をしかめたバーナビーは激しい訂正と主張を誇示してきた。
「あれ?そうだっけ…まあ、固い事言うなよ。バニーちゃん」
手を伸ばしてぱんっぱんっとバーナビーの肩を気安く叩く。スーパーヒーローなのに案外心狭いなあと思って軽く流すのだ。
しっかし、ここまで言われるまでさっぱり気が付かなかったが、確か…多分………現KOH様じゃなかったっけ?うろ覚えだが。あんまり興味がなかったのでそこまでしつこく強調されるまで勘づきもしなかったわけだが。それはバーナビーにとって物珍しかったのだろう。
「貴方がそう呼ぶなら…こちらも先生とは呼びませんよ。おじさんっと呼びますからね」
訂正するつもりのない虎徹の様子を見下ろして、バーナビーは反撃に出るつもりのようだ。おじさんという呼び方に深い重みと怨念がこもっている。
「どーぞ、お好きに。大体、俺…先生呼びされるの好きじゃないし。患者さんからも大体さん付けだしなあ」
「はあ………斎藤さんにお勧めされて来たのに、まさかこんなしなびた口の悪いおじさんだなんて…」
顔の表面を軽く右手で覆って、バーナビーはちょっとがっくり来ているようだ。ハンサムのなかなか珍しい姿を見られて虎徹としては面白いので口笛でも一つ吹きたくなる。
「んじゃ、他の歯医者いけば?バニーちゃんなら、どこの歯医者も大歓迎じゃね?」
軽く流すかのようにあっさりと虎徹はお勧めの声を出す。
「………歯科医師、鏑木・T・虎徹」
「ん?」
突然本名を名指しされて、一瞬疑問声を出す。が、すぐにバーナビーの言葉が続く
「シュテルンビルト防衛医科大学を卒業後、幹部候補生となり空軍に従事。結婚を機に退職をした後は、ブロックス大学病院にて勤務歯科医となるものの営利追求の大学病院側といざこざを起こし、退職。個人起業してタイガーデンタルクリニックをシュテルンビルトシルバーステージにて始める…腕は確かだが、性格に難あり」
まるで目の前にある書類を読み上げるかのように、すらすらとバーナビーは虎徹の履歴を述べた。
「おー、良く調べたな」
パチパチパチと称賛を送るようにおどけて軽く拍手をするくらいだった。正しい、正しい。むしろ虎徹自身の方が詳細とかあまりこだわっていない方だから。
「ふざけないで下さい。貴方、大学病院に居た時相当評判良かったのに、今のこの閑古っぷりはどういうことです?まさか、道楽でやっているんですか?」
こちらは真面目なつもりなのに小馬鹿にされたかのように口ぶりをされたので、少しバーナビーは強く問いただしているようだ。
「いやあ、一応年金暮らしの年寄りじゃないんだから道楽じゃねーよ。ただねー俺、めんどうくさい人間関係は苦手だから、自分で出来る範囲だけでやっているのよ。個人開業医なんだし、まあ好きにさせてよ」
おどけるように、ぷらぷらと右手を上下に振った。気楽に行こうというスタイルを示すのだ。
「それにしては、随分と厄介そうな患者さんばっかりって噂ですけど。一見さんお断りの歯医者って、どこの高級リストランテですか?」
どうやら紹介通さないと駄目って制度が、バーナビーには意味不明だったらしい。虎徹としては娘と過ごす時間を保つためにそんなに忙しいのが嫌なのと、貧乏でもあまりうるさい患者を相手にしたくないからの手段なのだが。
「いやだなあ。そんなトコまで調べたの?キャーおじさん、若い子の行動力が怖い怖い。
それで…俺はバニーちゃんの御眼鏡には適ったかな?」
元々虎徹は、お客様は神様ですと断言するタイプでもないから、そこまで必死にはならないのだ。ただ、見極めようとするバーナビーの鋭い視線だけは受け止めておく。
「言い忘れていましたが、貴方の守秘義務の固さは一番有名でしたね。歯科医院なのに助手もつけずに一人でやっているとか………少々フレンドリーすぎる気がしますが、多少は目をつぶりましょう。宜しくお願いします」
ここにきてようやく規律正しい青年の姿を示す様に、バーナビーは軽く頭を下げた。
「オッケー。ま、うちの唯一の取りえみたいなモンだからね、守秘義務は。ヨロシクっ。まあおかげで経費節減の為に歯科衛生士の美人なお姉ちゃんとかいないけどな」
虎徹の歯科医院へやってくる厄介な客とは、まさにバーナビーのような著名人だったり少々難有りな人間だったりするから、結構扱いには慣れている。だからこそ、明るく同意を示すように虎徹は言った。
「ああ、だから…受付にもおじさんが座っているんですね」
そうしてハンサムはどこまでも皮肉ってくるものだった。

最初に…ということで、テンプレートの問診表を渡すと、すらすらと書き進めるので暇だから虎徹もその様子を眺めていた。
他人の視線に慣れているのだろうか。バーナビーは気にするそぶりもみせない。
「これで、お願いします」
さすが生真面目な性格ということでさっくりとでもきちんと設問に回答した問診表を手渡されたので、虎徹はしばしそれを読み込む。
ちょっと時間を取ってバーナビーには待合室のソファで待って貰っていたが。
「隣の診療室へ、どーぞ」
しばらくすると、お決まりの文句を添えて虎徹は立ち上がりを促した。歯科独特なにおいのゾーンへご案内だ。仕事柄、虎徹としては気に入っているにおいなのだが、子供には特に不評である。一番子供が嫌がるのは歯を削るあの音だが。
「はい、診療台に座ってね。あ、荷物あるならそこにかけて。あー、バニーちゃんやっぱり背高いなあ。今、調節するから待っててね」
バーナビーが白い診療台の上に寝そべると、背もたれと高さの機械調整をかける。姿勢は良いタイプみたいだからリクライニングにジャストフィットだ。
「さて、えーとまずは…問診票に突っ込みね。単純に言えば、虫歯?ってコト?」
問診表片手にざっくりと虎徹は尋ねる。大筋を掴みたいのだ。
「はい、そうですね。実は僕。今まで歯医者にお世話になったことがなくて、歯磨きも欠かさなかったのですが…最近はどうもヒーローとしての出勤が多くて不摂生が祟ったのでしょうか、なぜか…痛くて」
ここでちょっと不名誉だと言わんばかりにバーナビーは苦悩している。
「えーまあ、歯磨きをきちんとしていても絶対虫歯にならないってわけじゃないから。遺伝資質もあるし。あれだよ、風邪だって気をつけててもなるじゃんっ そーいう感じ?」
ちょっと落ち込んでいるようにも見えたので勇気つけるように、虎徹は話を転換させる。正直、たかが虫歯ごときにショックを受ける人間は初めて見た気がするから新鮮である。
「遺伝…ですか。そういえば、僕メディカルチェックでも視力以外引っかかったことなかったですね…」
「そりゃ、健康羨ましいことで。んじゃ、とりあえず診察の邪魔だからメガネは取ってね」
虎徹に促されてバーナビーはメガネを折りたたんで手渡してきたので、横に置く。なんか、このメガネ軽いからこそ高そうだな。割ったら気が遠くなりそうだと、最初に思う。
「ん?バニーちゃん。もしかしてグロスか何かつけてる?」
開かれる前のバーナビーの唇が妙に光に反射して見えたので、虎徹は尋ねてみる。
「あ、そういえば…雑誌の撮影から直行したので、ついているかもしれません」
「ごめんねー口紅とかそういうのは駄目なんだよね。悪いけど、これで拭いてくれるかなあ?」
そういいながら背面にある棚の小さい引き出しから白いナプキンを何枚か取って、バーナビーに手渡した。女性には初めから注意をするように促すのだが、男性相手にリップとか以外でそういう事を言うのは初めてで、虎徹自身も少し苦笑した。ハンサム事情は複雑だなあと感心するのだ。
「今度からは気をつけます」
折り目正しくナプキンで拭きとると、そのまま紙くずを受け取りゴミ箱へと落下させる。
「よろしくー んじゃ、口開けてくれる?」
診察台から繋がるライトの位置を合わせながら、虎徹は促す。
ゆっくりと開かれる口から問題の歯の位置を確かめようとしたが………
「バニーちゃん。あの、もう少し…口を大きく開けないかな?」
思わず虎徹が苦言してしまうほどバーナビーの口はほとんど開かれていない印象だった。例えればなんだろう…バニーちゃんならぬウサギが精いっぱい開けた程度というか、アルファベットの「O」を的確に発音したくらいの大きさだったのだ。お上品にも限度がある。
「………これ以上ですか?アゴに悪いような気がするんですけど」
さすが歯医者慣れしていないらしく、とんちんかんなことを言っているようにしか聞こえない。
「いや、平気だって。ほらっ、鏡見てみ?人間は上アゴ固定されていて動くはの下アゴだけだから、案外安定しているから」
仕方なく虎徹は少し大きめの手鏡をバーナビーに渡して、アゴの仕組みを説明する。子ども相手ならどうしようもなくて若干無理やり開けたりしないこともないが、成人男性にそれはNOだ。
「今までそんなに大きな口を開けたことがないかもしれません」
少し悩んだ顔を見せて、ありのままを言ってくる。別に疑いをかけているわけではないが、本当なのだろう。
「せめて、人差し指から小指まで縦に口に入るくらいは開けてくれるかな?」
もうこうなったらこちらも妥協しかなく、わかりやすい例をあげて見る。
「………努力します」

バーナビーに出来うる限り口を開けて頂いて、虎徹は歯の診察に入る。
おそらく虫歯だと主張しているのは、下の第一小臼歯だ。犬歯より一つ奥の歯なので地味に痛いだろうとわかる。形だけは整っているが、内部がかなりやられているような気がする。
ついでに他の歯の様子も確認だ。
んー凄い。銀歯が一本もない。バーナビーの子どもの頃の歯の治療法といえば、とりあえず悪い歯は削って銀歯をかぶせておけっというのがメジャーだったので、それを引きずっている若者が多いので、なかなか壮観だ。
悪い歯を見るのが仕事とはいえ、あまり悲惨な歯並びを慣れたいとも別に思わないので、みんながこうだと虎徹としては商売あがったりだが、平和でいいなと思う。
初めてにしては、バーナビーは歯石も貯まっていなし歯茎から血が出る様子もない。
何度か口を開いたり水で濯いだりを繰り返す。
本当に駄目なのは、バーナビーの主張通り…あの虫歯一か所だけだと決まった。
「はい、今日は終わりねー」
検査用金属棒を全て横へと置くと、虎徹は終わりを告げた。最後に口を灌ぐように言う。
「もう…ですか?まだ30分も経っていませんが…」
ぼんやりとした視界ながらも、真正面の時計と体感で時間を認識したバーナビーがそう言ってきた。
「まあ、あんまり長々やると、それこそアゴに悪いからな。手術でもない限り、こんなもんだよ」
歯医者の常識ということでバーナビーには伝えておく。作業するこちらとしては集中力的問題も含んでいるのだが。
「特に削ったり…治療していないような気がしますが」
やっぱり口をずっと開いていた事に違和感があるようで、下アゴを若干さすりながらもバーナビーは聞いてくる。
「あーそうそう。応急処置だけはしたんだけど、それを相談しようと思ってな」
うんうんと頷きながらも、診療台に寝そべるバーナビーに対して少し屈んで顔近づけた。
「やっぱり虫歯ですか?」
今まで虫歯になったことがないからこそ確信さえもよくわからなかったバーナビーが訝しげに声を出しているのがわかる。歯が痛い=虫歯っていうのは、確率的にはなかなかうまい公式だ。
「うん、そう。実はな、そこの虫歯になっちゃった歯は乳歯なのよ。一本だけ生え変わってないの。今バニーちゃん24歳だっけ?よくもった方だよ」
頑張ったなあ〜というしみじみ深い声まで虎徹は付け加えた。
「ということは、永久歯がないってことですか?そんなことって、あるんですか?」
歯は全部生え変わる物という認識の中でいたバーナビーにとってそれは疑問の渦でしかなかったようだ。気持ちはわかる。というか、どの歯が生え替わったかなんていちいち記録している人間の方が珍しいだろうから、わかるはずもない。
「意外といるのよ。永久歯がない人間って。でもそこまで異常な事じゃないから。俺も乳歯残ってるし。ま、とりあえずはその虫歯の処置かな。残念だけど、意外と中やられているんだよね」
なるべくわかりやすい例を取り出して、明るく虎徹は解説した。なんかバーナビーは神経質そうだから、他人と違うことを気にして貰っても困る。
「銀歯は嫌です。見た目が悪い」
さすがスーパーヒーローはこだわりがある。下の第一小臼歯を銀歯にしたとしても、よっぽどの近くでも相手がいないかぎり気がつかないとは思うが、念には念を入れてということだろうか。
「ワーオ、即答?いや、最近はあまり不自然じゃない他の歯と遜色見えなくなるタイプもあるけど、うーん。でも表面が駄目とかじゃなくて中が限界なんだよね。永久歯なら削るしかないかなあとも思うけど、乳歯だと元からガタガタで。だから、抜くしかないかなっと」
少し頭をかきながらも考えながら提案してみる。本人が嫌だといったら、出来ないのだから。
「抜くんですか?」
「うんっ、ゴリゴリーっと。大丈夫。最近は痛い麻酔の為の麻酔とかあって、チクッとするくらいな感覚だから」
「別に痛みはかまいませんが…抜いて、その後はどうするんですか?」
まさか空いたままにするわけにはいかない。つまり、ビジョンというか計画プランを示せということだろうか。最初からそこまで詳細に説明する事は滅多にないのだが相手が相手だからこそ、仕方ない。
「うーん。レントゲン撮らないとまだ決められないけど、若いから入れ歯とか嫌でしょ?そうなると全部社会保険診療でやるっていうなら、最初はブリッチをお勧めしているかな。偽物の歯を入れるために、両端の歯の表面を削って橋にするの。で、ブリッチ」
軽く手の先で解説するように橋を示してみる。かなりわかりやすい用語だとは思うけど。
「なんとなくわかりました…偽物の歯は仕方ないとは言え、両端の歯を削るって………それ健康な歯をわざわざ傷つけるんですよね。それと偽物の歯の下に隙間出来ませんか?あまり建設的ではないような気がしますが」
さすが頭の回転が早いらしく直ぐにバーナビーは疑問点を追及してきた。
「俺もそう思うから部立地はあまりお勧めしていないんだけどね。長持ちしないし。だから、金銭的にそれほど困っていない人にはインプラントが絶対いいと思う。検査しないと誰でも出来るとは断言できないんだけどね。もしバニーちゃんの歯の幅が狭かったりしたら無理だし」
「お金には困っていません。インプラントというのは何ですか?美容とかでは聞きますが」
うわっ、はっきりくっきり断言したよと虎徹は内心思った。虎徹だってバーナビーが金銭的にケチだとは思ってはいないが、これは歯医者のセオリーなのである。最初から高いインプラントだけの説明をするのは社会保険診療報酬的にも進められていないのだから。
「デジタルインプラントね。歯科ではこういうの。簡単に言えば、人工歯を歯茎の根元から埋め込むの。かなり自然の歯に近いから神経とかとも馴染みやすいんだけど、これって保険対象外なのね。元から馬鹿高いのに、自由診療だから10割負担」
美容整形ってわけではないけど、政府が認めてくれないのだから仕方ない。とりあえずインプラントの仕組みとお値段を打診してみる。
「構いません。ではインプラントでお願いします」
「いや、せめて値段くらいは聞いてくれよ。歯を1本入れるだけでも、普通のサラリーマンの月収の2倍くらいするんだけど………」
金持ちの金銭感覚ってよくわからないな。未だにと思いながらも、それでもなぜか金持ちこそ金にがめついというタイプが存在している事を知っているので、具体例をきちんとあげておいた。
「治療費は気にしないので、おまかせします。僕としては早く治療して貰いたいんですよ」
気持ちはわかるが、それにしてもバーナビーの回答はあっさりしすぎている気がする。
「そうだな、わかったよ。確かに歯が駄目だと力出ないしな。ヒーローとしては辛いトコってことだな。んじゃ、次の診療はちょっとインプラントの適性検査するから」
終わりの声を出して診察室から受付に戻らせると、またちょっと時間を頂く。一人で全てこなしているのだから仕方ない。
虎徹はパソコンに向かって診療内容を打ち込むと、レセプトを立ち上げて今度はそこから請求書を出した。
ついでにバーナビーに手渡す歯の検診表を印刷する。
今度はレジだ。請求書からの会計は、初診料含むので保険使ってもやや高めだ。バーナビーを呼びつけて、保険証を返し、金銭のやり取り。カレンダーを開いて次の予約日を決めて貰った。スケジュール表に書きこむ。1週間後という無難さ。ヒーローとして忙しいようなら、キャンセルもアリだ。
そうして、さようなら〜とひらひらと手を振る。これで、終わりだ。今日は予想外の客で診療時間の終了をかなりすぎてしまった。これから片づけだ。



ここまではバーナビーは、在り来たりな客の一人にしかすぎない………そう思っていた。
この時は、後でどうなるなどまだ虎徹は知るよしもなかった。











ヒ ー ロ ー は 歯 が 命 前 編
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