前回の話要約
仕事上の相棒(男)が、乙女ゲーマーでした。
ぎこちない自覚はあったが、それでもバーナビーの神経を逆上させないようにして何とか虎徹はその場を後にした。
そして、そのままの足で必死にダッシュをして、元居た社長室へと向かった。
それは…何をどう考えても無理です!と切実に訴えるためにだ。
いくらお偉い雇用主様のマーベリックさんに言われても、無理な物は無理だった。
いくつか文句を言われる覚悟で発した諸々ではあったが、マーベリックの反応は意外な方向へと向かう。
とりあえず、バーナビーに対するこの恐ろしい秘密を共有する?仲間が出来た(投げつけることが出来た)ようでそれで満足らしい。との事。えげつない。
おい…今度から被害全部こっちにくるのかよ。さすがラスボス様だよ。こわっ、こっちの記憶も操作して欲しいよ!忘れたいよ!!と思ったが当然世界の理を覆すようなそんな事はまるで叶うはずもなく。
複雑ではあったが、それからの虎徹とバーナビーの関係は、より柔和した。
今までは仕事上のパートナーと割り切った関係であったことが多かったが、バーナビーのプライベートを知り得たということで、帰りに店で一杯飲んだり互いの家を行き来するくらいの仲になったのだ。年代は一回りほど違いがあるが、まるで友達同士のようだ。
但しバーナビー側の話題は、ほぼ全部乙女ゲーだけど。
正直虎徹としては色々と悩んだりもしたが、今まではこの青年と仲良くしたいと思っていたことに違いはないし、その話題が悲しいことに自分が理解できる範囲ならば、聞くくらいはいいかなと思うことにした。
たまに…ろくに反応出来ない自分相手だと、壁相手にしゃべっても同じじゃね?と思うけど…ロボットのように頷くだけでも違うのだろうか。よくわからん。
とりあえず、こっちに乙女ゲーやれって強要してこないだけマシだろう。さすがに物事の分別はわきまえているらしい。
何気に娘も同じようなこと言ってくるから、正直奇妙な板挟みは痛かったが、これも仕方ない。運命だと割り切った。
おかげさまで、何回かバーナビーの話を聞くだけですっかり彼の好きな傾向はわかってしまった。
いや、さすがに初っ端から「結婚しているんです…僕たち。孫がいようが年齢に関係ありません」とか言われたときはドン引きしたけど、あれは真顔で受け止めろという方が無理であろう。顔の引きつりはごまかせただろうか、多分無理。
とにかく何故かバーナビーは年上がお好きらしい。それが、上なら上ほど良いらしく、恋愛に年齢は関係ないが口癖だ。
十代や二十代にはかすりとも興味はないらしくアウトオブ眼中で、どうやら自分に無い物としての包容力やら安定感を求めていて…どこまでも嫁です!と主張し始める。
いわゆるマイナー路線なのだろうが、彼を好きなのは僕一人でいいんです…と言う姿はいじらしいが、世間一般的にいわれているオタク?ともちょっとずれているみたいだった。乙女ゲーしかしてないみたいだし。
そんなプライベートでは乙女ゲーまっしぐらなバーナビーだったが、今はヒーロー事業部のいつも席で仕事中だ。
乙女ゲーのことさえなければ無駄にハンサムなイケメンは普段と変わらずパソコンと書類に向かっている筈なのだが、なんだかいつもより若干様子が違うように見えて、はて?と虎徹は訝しんだ。
適度順次に壁時計・腕時計・パソコンの時計を、ちらっちらっと何度か目線を送っている。
何というか、そわそわというかいらいらというか。通常のバーナビーの様子には似つかわしくない姿だ。
しかし虎徹はそーゆーバーナビーを何度か嫌な場所で見たことがあった記憶があるので、一応声をかけといた。
「あのさ。バニー、どうかしたのか?」
「あ、はい。実は…ロイズさんへこの書類を今日中に渡さなくてはいけないのですけど、まだ会議が終わらないみたいで」
そう言って、バーナビーは軽く書類を開いてこちらに見せる。ざっくり見る限りでは、どうやら今後受けるインタビューに関する稟議書のようだった。
「明日でもいいんじゃね?」
確かに期限は迫っている日付だったが、今日までというわけではないようで、虎徹は軽く返す。
「いえ、実は…僕明日から二日間。有給を頂いているので、渡すならば今日中でないと………」
「へ?そうなの??バニーが有給とるなんて珍しいなあ」
確かに休んだ後となると、タイムオーバーというのはわかる。しかし、何だかんだと仕事一番で動いているバーナビーが有給だなんて、多分初めてじゃないだろうかと記憶を辿る。
「えっと、実は…ずっと前から楽しみにしていた物が今日届くので」
そう頬を赤らめて言う姿はまるで熱を上げるかのようだった。
あ、つまりその物とやらは乙女ゲーなんだな…と瞬時に虎徹は悟った。乙女ゲーすげーよ。マジでバーナビーのようなハンサムも恋する乙女に出来るなんて。
「そっか、良かったな。しっかし、有休二日とるほど時間かかるもんなの?」
今までもずっと乙女ゲーはやり続けてきたはずだが、わざわざ休んだことなんてなかった筈で、そこまでご執着とは珍しいと単純な言葉を虎徹は口に出す。
「乙女ゲーはルートさえ間違えなければ、僕を裏切らないですけど………たまにロードしまくって運でパラメーターが変化するゲームがありますので。念を入れてですかね」
バーナビーはフロアに経理のおばちゃんがいないことをいいことに、熱く語りだした。
そう言われると前も、1000回のロードゲーとかやったことがあるとか言っていたような。
正直ヌルゲーかと思っていたが、聞けば聞くほど何だか意外と乙女ゲーって奥が深いような気がする。そして一般人は必要もない知識が、また着々と虎徹に植え付けられている。
「…書類はさ。俺がロイズさんに手渡しといてやるから。先に帰っていいぞ。が、頑張れよ」
そのバーナビーの熱意に負けたというわけではなかったが、虎徹は右手を軽く上げて残業を買って出た。
しかし最後の言葉はぎこちないのは仕方ないだろう。心からとは完全には思えなかったのだから。
途端に、ぱあっとバーナビーの顔が明るくなるが、それは虎徹向けられたものではなく、多分…これからプレイする乙女ゲーのキャラに向けてだろうなとわかった。
バーナビー有給一日目。
もちろん出勤したのは虎徹だけで一人きりで仕事をこなす。当然、連絡もなしのつぶて。
バーナビー有給二日目。
今日も一人きり仕事。そこまでは普通だったが、文字通りの事件が起きた。
PDAのアニエスからの情報によると、市内中心部での銀行強盗発生である。
専用トランスポーターはバーナビーの住まいに急ぎ、虎徹は社から出撃した。いわゆる現地集合。
しかし、事件の大きさの割に顛末はあっけない物だった。
最初は狡猾な事件だと思った。強盗犯は、帽子とサングラスはしているものの比較的普通の格好で銀行に入ってきた。その後、直接窓口には行かずに横の応接ブースに近寄ると、無言でその事務机を飛び越えた。銀行強盗と言えば窓口に拳銃を向け、金を出せ!が定番である。その瞬間犯人を隔てるために目の前のシャッターが降りるほどのデフォルトなのだが。生憎普通に侵入されるパターンは想定していなかったらしく、何だ何だと銀行員が首をかしげている間に呆気なく犯人は金庫室の目の前に近寄ると、そこで拳銃を身近な銀行員に押しつけた。テンポがズレてから起きるのはパニック。さっさと金庫室を開けさせて中に入って金を漁る犯人だったが、札束に目が眩み人質にしていた銀行員から目を離してしまったのが全ての間違いだった。そろりと逃げ出した銀行員は、金庫室を外からガチャンッと閉めてしまったのだ。犯人一人をその中に残して。ヒーローズが現場に集合したときは既にそんな状態で、監視カメラで金庫室の犯人を覗くと相当怒っているらしく拳銃を入り口兼出口に向けて発砲しているが、中から開く仕組みではない。それでも八つ当たりのように紙幣を破き始めたので何とかしなければということで、ヒーローズが措置することになった。通常ならば正面の金庫室の扉を開いて身柄を確保するのだが、相手は苛立っているので危険になるだろうという判断。困り銀行員に詳しい話を聞くと、実は金庫室には緊急用の脱出口があるらしく一年に一回ほどは支店長が通路を確認しているとの事。人一人しか通れないという大きさ的にドラゴンキッドがその役を担い、不意打ちな形で脱出口から犯人へと電撃を一発。事件は拍子抜けする終わり方だった。あまりにも地味でしかも詳細を犯人に知らせないためにヒーローテレビも表だっては放送しなかったので、他のヒーローたちは何で来たんだ?状態になった。ワイルドタイガーとバーナビーもその一人で、二人はそのままトランスポーターで引き上げることとなった。
「バニーちゃん、残念だったね」
とりあえずの装着物を取り外してアンダースーツ姿となった虎徹は、トランスポーター内でバーナビーに声をかける。
恐ろしいことに、今日のバーナビーときたら必要以外はずっと無言だったのだ。
さすがの虎徹もその理由ぐらいはわかる。出動要請がかかるまで完全に有給だったのだ。それも待ち望んだ大好きな乙女ゲーをやっているときに呼び出されて、それでいて行っても意味ないとか思われるんじゃ、浮かばれない。
だからこそ残念…という言葉に二つの意味を込めた形となる。
「………事件のことはいいんです。こういうこともあるでしょうから。
でも、僕…まだ心の準備が出来てなくて………」
そう言ってバーナビーは、若干苦しそうに心臓付近をぎゅっと押さえて苦痛の表情をこちらに見せる。
未だバーナビーはフェイスオープンだけしていてアンダースーツにさえなっていないほど微動だしていないというのに、その仕草はやけに迫真的な動きであった。
「は?心の準備??」
何だ…何で突然妙な事をバーナビーが言うのか全くわからず、そっくりそのまま聞き返す形となる。
「虎徹さん………」
「な、何?」
意を決したようにバーナビーは顔を上げて、名前を呼んで虎徹を見据えてくる。
それはまごうことなきハンサムで、いつも見ている筈の虎徹でさえ耐性が崩れそうなほど真剣な表情だった。
「僕…貴方の事が好きなんです!付き合って下さい!!」
そうしてバーナビーは、真顔のままとんでもない爆弾を落とした。
「はあ?????」
頭の中の処理速度が追いつかないというのはこういう時に存在するのだろうか。
もしかして突然耳が悪くなったのか。そとも白昼夢か。それとも妄想か。いや、こんな妄想を虎徹が望んでいるというのはこれっぽっちもなかった筈だ。
おかしいな…なぜかバーナビーが自分に大大大告白しているような気がするんだけど。間違いだよな。いや、そうであってくれ!頼む!!と懇願するような微妙に頬を引き攣らせた顔を向けておいた。
「なんですか、その反応は。そこは『YES』以外の選択肢は存在していませんよ!大体、何で落ちてくれないんですか!?」
なぜか逆ギレされたが、どうやら虎徹の持ってしまったとても嫌な認識は間違いではなかったらしいと同時にわかる。わかりたくなかったけど…な。全然っ
「………何でって……言われたってな。だって、そりゃ…乙女ゲーとかじゃないだし、そんな簡単に返事出来るわけねーだろ」
半分戸惑いと諦めを含みながらも、そう返しておく。
「僕のステータスは、リアルでもとっくに最大値だと思ってます!」
おいおい…イキナリな自分自慢かよ。しかし確かに間違っていないが、バーナビーにはこれから地道に能力上げる必要もないかもしれないし、とっくにリアルでも振り切れている数値なのかもしれないが、これはまた別の話である。
「いや…だから待てよ。何でイキナリそんな話になるんだか、それがわかんねぇんだよ」
「………そうですね。僕としたことが、確かに不用意だったかもしれません。本来ならばきちんと過程を踏んで、シチュエーションと告白場所も選ぶべきでした。でも…どうしても貴方に会ったら気持ちが抑えられなくて………」
悲痛にバーナビーが叫んでいることはわかるが、何だか言っていることに虎徹はスゲー心当たりを感じて、げっそりとする。
「と、とりあえず…………まずはきちんと説明してくれ」
本当は説明なんて聞かないで逃げたかったが、ここはトランスポーター内だしそんな場所は微塵ほどもない。
もうっ本当にどうにかして欲しかったが、バーナビーに続いてこちらも混乱しては収拾がつかないから、仕方なく頭をフル回転させて虎徹はそう言った。
未だに間違いであることにすがり続けていることに変わりはなかったが。
「はい……………あの、僕は基本的にはいつも『リア充爆発しろ!』って思っているのですが」
「世間的に見れば、お前が一番のリア充だぞ」
最初からバーナビーには不釣り合いな言葉が飛び出てきたので、嫌なのに本能が突っ込んでしまう発言が飛び出る。
その整いまくった自分の顔をよーく鏡で見てみろという言葉が我慢出来ただけでも、この場だと上出来だろう。
「僕だって、好きでハンサムなわけじゃありませんよ」
ファイアーエンブレムやらブルーローズからハンサムって呼ばれているけど、普通に返事返しているから納得しているのかと思いきや一応違ったらしい。バーナビーがハンサムじゃなかったら、じゃあ誰がハンサム何だ?ということにはなるけど。
「あ………ああ……、悪い悪い。話を続けてくれ」
なんだか変に話がズレそうなので、虎徹は黙って話の続きを聞くことにする。
「えっと、だから僕は乙女ゲー相手にしか恋をしたことがなくて………
いつか、好きなキャラが空から僕の元に舞い降りて来てくれるって思っていました」
ここでほうっとバーナビーは空を夢心地で見つめるが、所詮トランスポーター内なので無骨な天井しか存在していないのを残念がっている様子だった。
「えーと。まさか…俺がその空から降ってきたキャラだって事?」
長い夢を見ているようなバーナビーだが、要約すると言いたいことはそれなのかなと、つまり半信半疑あっちこっちしたい気持ちで、虎徹は尋ねてみる。
「そうです!虎徹さんこそ、僕が待ち望んでいた人なんです!!」
「いや、だから何で突然…」
と、また突っ込もうとした瞬間だった。
叫んだ勢いでぐっと握り拳に力を込めて前傾姿勢になったバーナビーが、カシャンっと何かを落とした。
それは軽いプラスチックケースで、スーツの横にある書類などをしまう個所からの落下だった。慌てて大切そうにバーナビーは拾い上げる。
「………バニー。まさか、その乙女ゲー……………」
ちょっと離れているからわからないが、バーナビーが拾い上げたのは、どう見てもパソゲー=乙女ゲー。
無駄に光る特殊効果なエフェクトの中にいつも通りのイケメンたちが何人か並んでいるように見える。
非常に…過去最大級に嫌な予感がする。聞きたくない。
虎徹は自らの耳をふさいで逃げたかったが、間に合わなかった。
「はい!この乙女ゲーに登場する僕の好きな人が、虎徹さんにそっくりなんです!!」
自分は周囲から鈍い鈍いと言われる事の方が多かった筈だ。
しかし、このときばかりはその鈍さが当たって欲しくてたまらなかったが、叶わない。
どうしてこうなった!………と虎徹は心の中で涙した。