前回の話要約
ハァイ! TIGER&BUNNYの乙女ゲーが好きな方、バーナビーです!
それなのに、今度は虎徹さんに恋しちゃいました。責任取って下さい!!
はっ!何だか自分達の定番文句を凄く汚されたような気がして、虎徹の意識はまるで望んでいるたかのように嫌にすんなりと覚醒した。
どうやらあまりの恐ろしすぎる出来事に、ふらっと一瞬気が遠くなってしまったらしい。それほどの衝撃だよ。
気がつくと、軽く腰をバーナビーに支えられたおかげで倒れなかったらしい。それは確かに、ありがたいが…
「実際に存在しているって素晴らしいですね…僕もアンダースーツになっていれば、直接触れられたのに………」
と、ほうっと見とれるようにバーナビーが歓声混じりの言葉を放ち、隙あらばこのまま姫抱っこしそうな勢いだった為、虎徹はすかさず逃げる。
「バニー、現実を見ろ!俺は…二次元じゃないぞ。そのキャラと違うんだ!」
きっと今頃草葉の陰でご両親が涙しているに違いない。虎徹としては、間違いを指摘して根本から処断してやらないといけないという保護者気分になった。
乙女ゲー好きな事も十分に問題であることには何ら違いはないが、それは特殊な趣味という範囲で何とかカバー出来ると思っていた。
しかし、このような現実世界との混在は非常にマズい。何とか自分が更正させないと。つーか、じゃないと変につきまとわれそうで怖い。
「…虎徹さんに、何がわかるんです?だって貴方この乙女ゲーの事、何も知らないじゃないですか!どうして違うってわかるんです!?」
こちら押しつけるようにピッと格好よくこちらにそのソフトを見せつけるが、それはあくまで乙女ゲーであることには違いない。
うわっ、めんどくさい超極論が来た。バーナビーの悪いところは思い込みが激しいところなのだろうか。
どう考えても、あちら様はただの二次元でこっちは歴然とした三次元なのである。住まう世界が違いすぎるのだから、重なることは絶対にないだろう。
しかし、確かにイカれた発言だったがバーナビーには妙に説得力があるというか、つーか…もう駄目なんだろうな。
本気で女性が白馬の王子様がいつか訪れてくれると信じているくらいに、乙女ゲーキャラが来ると思っているんだから。恋する乙女…マジで手に負えない。
大体恋する乙女の数に比例してそのキャラが降ってきたらどーするんだとも思ったが、何かまた喚きそうだから伝えるのはやめた。
そう…どうしようもないほど、バーナビーは真剣だった。その屈折した真摯な眼が、虎徹をロックオンしていたのだ。
「わかった。偏見を持って悪かった………」
なんで自分が謝らなければいけないのか若干納得がいかなかったが、放っておくとエキサイトするこの場を沈める為に、虎徹は何とか収める声を出し、会釈程度に頭もすくめる。
「わかってくれましたか。じゃあ、このまま僕の家に行きましょうか」
優雅にエスコートするかの如くバーナビーは右手を差し出してきた。
「おいっ、どーしてそうなる」
当然の如くあっさりとそう言われて、はいそうですかと虎徹は受け入れるわけもなかった。大体話が全く繋がってないだろ…
「どうしてって…虎徹さんが、まだ信じていないようですから、実際にゲーム画面見て貰おうと思って」
「いやいやいやいや…十分わかったから、いいって」
無駄にサービス精神旺盛なのは結構だが、盛大に右手をぶんぶんと目の前で横に振って虎徹は遠慮を示した。
まさか今まで娘から含めて色々と聞いてきたが、禁断の乙女ゲー世界に足を踏み入れるだなんてまるで望んでない。
「嘘ですね…じゃあ、そのままの状態で僕と付き合ってくれるんですか?」
ようやく機嫌が治ったかと思いきや、またバーナビーの声は降下しじわりじわりと迫り来る。何だか、もう勝手に自分たちが付き合う事は確定条件のような口ぶりだ。
「いや、それとこれとは話が別………」
うまく話を逸らして終わりに出来たかと思ったのだが、また堂々巡りのように交際を迫られてしまった。何でこんなに自分はうまく出来ないのだろうか、悲しい。
「今ここにパソコンありますから、この場で起動させて見せてもいいんですよ?」
トランスポーター内の簡易テレビも兼ねているノーパソ本体を、バーナビーはテーブルの端から引きずって寄せてくる。
本当に虎徹が家に行くのを拒否ったら、ソフトを入れる気満々なご様子だ。
こいつ…もう斎藤さんや他のメカニックに自分が乙女ゲーマーだってバレてもいいと思っているな………
確かにマーベリックさんは昔から知っているとはいえ、つい最近には自分にバレてしまい、もう完全に割り切ってしまったというのだろうか。
そっちがその気でも、虎徹は冗談ではなかった。バーナビーは自身が乙女ゲー好きなのだから、それでもいいかもしれないが、これが公言されるようになったら今まで自重していた仕事中にも普通に乙女ゲー会話が迫ってくるかもしない。もしかしたら開き直ってメディアにも意外な趣味として紹介するかもしれない。そうしてタイガーさんが好きな乙女ゲーキャラにそっくりだから、大好きなんですvって言うかもしれない。そうなったら、パートナーの自分の肩の身の悪さと言ったら恐ろしくて仕方なかった。ヒーロー人生は確実に終わったな。
これは、ラスボス様マーベリックさんのメディア王パワーと記憶操作NXET能力を持ってしても防ぎきることは出来ない。
何とか自分がせき止めなければ…と思うと、その返事は乙女ゲーとは違い、たった一つしか存在していなかった。
「………行けばいいんだろ」
ぶっきらぼうに虎徹は了承を示した。
そうして、トランスポーターは社に戻ったが、そのまま虎徹は自宅に戻ることも許されず、共にバーナビーのマンションに行くこととなった。
もう…何度この部屋に来ただろうかという嘆き。
二日間の有給中に仕事として呼び出されたとはいえ、相変わらずバーナビーの部屋は散らかりもせず簡素だった。
いつも虎徹が呼ばれるときは、各種媒体の乙女ゲーソフトがテーブルに積み重なっていることが多いのだが、今日はそれが少なかった。
しかし、全く同じソフトが三本ほど置かれていて、それがトランスポーター内で見せつけられた乙女ゲーと全く同じパッケージだと気がついたとき、もしかしていわゆる保存用とか鑑賞用とかいう類なんじゃないかと気がついて、視線を送るのをやめた。
それほど、バーナビーはこの乙女ゲーを楽しみにしていたらしく、それでいてこんな残念な事態になっているわけだが、火の粉は今正しく虎徹に降り懸かろうとしている。だって、今からこの乙女ゲーをやることが決定しているのだから。
「どうかしましたか?」
キッチンからペリエとグラスを二つ持ってきたバーナビーが、心配そうに虎徹に声をかけてくれる。その声は優しい笑みまで伴っていたが、実際は鬼畜野郎だ。乙女ゲープレイを半強制してきたのは奴なのだから。
「いや、どうも頭が痛くて…な」
間違いではなかった。確かに普通の頭痛や二日酔いとは違う奇妙な感覚が虎徹の頭に襲いかかってきたのだから。これは脳から響いてきている気がする。
「それは…大変です!膝枕しましょうか?」
テーブルにトレイを置きながらも、何だかわくわくと言った表情で目を輝かせながら期待をバーナビーは自らの膝を示した。
その膝枕って選択肢が既に乙女ゲー。何が悲しくていくらハンサムだろうが野郎相手に膝枕なんぞしてもらわなきゃいけないっつーんだ。
この空間でバーナビーが正座とか…果てしなく合ってねぇ…
「だ、大丈夫だ。その気持ちの…おかげで治った!」
「そうですか…」
額に軽く当てていた右手を直ぐに除けて、虎徹が快調を象徴するように空元気を示した。
そのおかげで、しゅん…としながらも、一度は座った正座状態からバーナビーは残念がりながら立ち上がった。
「………とりあえず、ゲームやろうぜ」
ぐっと右手の親指を立てて、まるで虎徹が望んで進んでやりたいみたいな言葉を出さなくてはいけなかったが、膝枕に拘られるのも困るので無理にでも煽った。
それは瞬く間に実現して、バーナビーも大好きな乙女ゲーへと目を向けた。
なんか前に聞いたというか勝手にしゃべっていたのだが、バーナビーはプライベートのパソコンも乙女ゲー専用機があるらしく、多分これそれ。持ち歩いていたパッケージから中身を取り出して差し込む。
「俺さ…あんまりゲームとか得意な方じゃねぇんだけど、出来るかな」
保険をかけておくように、始めにそう初心者として付け加えて置く。何か失敗したら、隣で完璧主義者っぽいバーナビーが口を挟みそうなので予防線だ。
そもそも虎徹も一応それなりにヒーロー業が忙しくあり年齢も年齢なので、子供の頃はともかくとしても、乙女ゲーどころかいわゆるロープレだとかパズルゲーとかさえ久しくやったことがない。
そんなこんなでも、まだ一応の如くこの乙女ゲーをやる気になったのは、パソゲーだからだ。最近の家庭用ゲームは携帯機でさえ、いくつもボタンがありすぎて判断つかない。しかもメーカーごとに決定ボタンとキャンセルボタンが違ったりして、前にお遊びでやったときに殺意さえ沸いた。
虎徹は、現時点で辛うじてコントローラーをみなくてもボタンがたぶんわかるって程度のレベルで、パソコンなら確かにキーは無駄に多いが配置は分かるので酷い間違いはしないと思いたい。
「そうですね…ではアクション部分は僕がやりますから、肝心のノベル部分だけやって貰えればと」
ふむっとしばらく考えた末に、バーナビーは妥協の言葉を出す。
「アクション?乙女ゲーに!?」
何だか乙女ゲーにふさわしくない単語が同列視されて、妙なジャンル名に思わず虎徹は聞き返す。
「ええ。設定が戦うヒロインなので、キャラクターを恋愛状態に落とすには勝たないと」
「それまた…随分と斬新な事で」
呆気にあんぐりと口を開けながらも、感心する言葉を出す。
戦うヒロインか…確かに最近の男は軟弱とか言われたりしているが、乙女ゲーで男より強い女って…と首を傾げる。
しかしおかげで、二日間も有給取った理由がわかった。なんかバーナビーの右手の親指に若干格ゲーしまくるとできるタコのようなものさえ見えてきたのだから。
「最近は、選択肢だけで全て進行していく、つまらないゲームが増えましたからね。しかも…その選択肢も、どちらが目当てのキャラにたどり着くか根拠もなく適当で………」
苦悩した後に、ここでガンッとテーブルを叩いたのでペリエが入ったグラスが波打つ。
何だかバーナビーが勝手にイライラと頬をひきつらせて、ぶつくさ言い始めた。
「ほらっ、バニー。始まるぞ!」
このままだとまたいつもの愚痴が始まると思って、顔を画面に引き戻させる。
「あ、はい。では、最初からではなく目的のキャラからやりますか?一応隠しキャラ扱いなので、全員攻略しないとルートに入らないんですけど」
「………いや、全部やってたら時間かかりすぎるだろ。そのキャラだけでいいよ。出来たら一応概要は説明してくれ」
ノーサンキューと低い声で虎徹は伝え、あらすじを求める。多分、他のキャラをクリアしてが前提のシナリオ構成なんだろうし。また中途半端にやったからわからないんだとか、バーナビーに叫ばれるのだけは勘弁したい。
「はい。このゲームはリーマンアクションゲーですので、序盤の共通ルートでヒロインがキャラ全員と出会い、その後入社する会社を選ぶ形ですかね」
「何でリーマンなのに、アクションなんだよ………どこかの世紀末的な荒廃した世界観なのか?」
さらさらとつっかえもせずに説明してくれるが、根本的な理解が出来ずに尋ねる。しかも、何か最初から若干年齢層高そうだな。リーマンとか。
「いえ、戦うのが仕事なだけですよ。やってみれば、わかります」
そう言って、バーナビーは虎徹の横に割入ってセーブロード画面を展開した。
さすが大容量のパソコン仕様ということで、いくつもセーブアイコンが見える。きちんとキャラ用にデータを分けてあるのは几帳面なバーナビーというところか。
「進むボタンは、これです。最初は選択肢とか特になくてキャラ説明が進みますので、テキストを読んだら押して下さい」
バーナビーの言うように進めると、青空の中に簡単なテロップ的ななあおり文句が表示された後に、ありがちな高層ビルビジネス街の背景が出てくる。
さすがリーマン設定。きちんと出社するらしい。現実的だ。
「あ、次のシーンで僕の最愛キャラが登場しますよ!」
やはりというか、横で目の色を変えたバーナビーがわざわざ教えてくれる。若干ウザい。
登場早いな…初っ端じゃないか………と思ったが、そのキャラのルートに入っているのだから他の男が目立つのもお門違いということだろうか。
それにしても最愛キャラということは、そいつがバーナビーいわく虎徹に似ている二次元キャラということだろう。
何か序盤から既に疲れたし、二次元と三次元の違いを指摘して早く終わりにしよう………と思いながらも、虎徹はボタンを押した。
瞬間、ピッと男の立ち絵が表示された。
少し明るめの黒髪に光加減によって少し金に近い瞳を持った少しくたびれ気味なオッサンが、よれたスーツ姿で登場した。
「ね?虎徹さんにそっくりでしょう」
ここで、わざわざバーナビーが追い打ちの一撃を虎徹に加えてくれる。
こ、これは…………………
悪い予感というのは当たるようにこの世の中に存在しかしていないのかもしれないという暗雲。
―――今虎徹にとって一番大切なことは、このキャラが自分に似ているかどうかではなかった。
長年の経験からさえ渡った勘を瞬く間にフル動員して、バーナビーに向き直る。
「バニー、このゲームのパッケージと説明書を見せろ」
もはやこのゲーム自体に触れてはいけない。そう虎徹の本能が痛烈に叫んでいたので、パソコンから手を離して目を背けながらも、示唆する。
「え…あ、はい」
何だか期待していた反応とは違ったようで戸惑ったが、素直にバーナビーはソフトを虎徹に手渡した。
震えながらも虎徹はまずパーケージ絵に目を通す。トランスポーターで最初に見せつけられた時から散々視界に入ってきた物だったが、あまり乙女ゲーが得意というわけでもないし、虎徹からするとこういう世界感の、ある一定以上のイケメンは全部同じ顔に見える為、全く気にしていなかったから、初めてマジマジと見た形となる。
パッケージにはバーナビーいわく虎徹檄似キャラは写っていなかった。隠しだからかもしれないけど。しかし、虎徹は立ち並ぶメインキャラ達の顔をガン見した。
続いて中を開いて、数枚しかないうっすい取扱説明書に手をかける。
さすが乙女ゲーということで、一人のキャラクター紹介に一ページ使用している。後ろにはアクションの説明もほんのりと、残りは気合いで頑張れということだろうか。
そうしてざっくりと見終えると、静かにパッケージを閉じた。
「虎徹さん…どうしたんですか?」
「どうもこうも………はあ。バニーちゃん、わかんないでやってるんだよね?」
心配そうな顔をしてこちらを見下ろすバーナビーに、ため息混じりに質問する。頭が痛い。今度は詐称ではなくガンガンッて響くやつだ。
「何がですか?」
「あのさ。この乙女ゲー…どこで買った?」
どうやって説明しようかと手をこまねくように悩んで、仕方なく虎徹は遠回しにそこから攻めてみた。
「通販ですけど。あ、いつもはスポンサーから買うことが多いんですけど、それは何かちょっと変わった感じのサイトでしか売ってなくて」
さすがバーナビー。必要なものはスポンサーを経由しているらしい。確かにバーナビーのスポンサーは便利で虎徹もちょくちょく利用させてもらっているが、今大切なことはそこではない。
「あのね………これ、見て。このパッケージにバーコードないだろ?一般流通しているゲームじゃないんだよ。
つまり個人が作ってんの。このゲームは俺たちヒーローをモデルに作った乙女ゲーなんだよ!」
自分を指し示すように胸に手を当てて、力一杯虎徹はそう言い放ってやった。
確かにバーナビーが主張する虎徹に似ているキャラ!というのは間違ってなかった、悔しいが。でも、こんな事態は想定していなかった。
バーナビーは乙女ゲーしかしない。それこそ、他の一般的なゲームもしない程で、こんなアンダーグラウンドな世界の存在を知り得ていなかったのに、なぜ引っかかってしまったんだ!ネット怖い!!