前回の話要約
「私にとってバーナビーは、命の恩人。超カッコいいイケメンで、ハンサムで、憧れで。バーナビーは、楓の運命の王子様なの!」

「たとえ何度マベられようが、僕のこの乙女ゲーを愛する気持ちは覆せない。渋いおじさまが孫持ちだろうと関係なんかない。そして虎徹さん、愛してます!」
の、感動的?ご対面現場から中継でお送りします。





さっきまでの勢いはどこへと行ったやら、楓はバーナビーから程よい距離を取った位置で、ピタリと身体を硬直させたかのように止まり、そのTV画面を注視している。
これは多分、初めて虎徹が乙女ゲーバニーちゃんを見た時と全く同じ状況だ。なんという苦い現場だ。自分が体感したことがあるからこそ、その様子がありありとわかるのが余計に辛い。
あの時も一瞬虎徹の頭の中は真っ白となったが、インパクトの強すぎるその光景を生涯忘れることはないであろう。
ぶっちゃけ虎徹なんかよりも断然乙女ゲーに精通している楓が、あの画面を見て察しないわけがない。
楓にもそんな思いをさせてしまうだなんて…誰が悪いとかそんなことをいうつもりは微塵もなかったが、虎徹は単純計算で二倍のダメージを食らった。
虎徹の時と決定的に違うのは、ここが虎徹の家だということだろうか。だからと言って、違う!バーナビーじゃなくてパパが乙女ゲーをやってたんだ!!とごまかせる雰囲気でも今更ないし、それを言うのも今後の自分の男の沽券にかかわるので恐ろしい。
まだバーナビーがプレイしていたのが、噂の個人製作18禁乙女ゲーではないことだけが唯一の幸いか。いや、この際…アブノーマルではなくとも、まったくもって慰めにもならないが。
恐る恐る問題のバーナビーの方へと視線をやると、いつも虎徹が娘の話をしていたから状況はわかったらしく、押し黙っている。出来れば直ぐにそのTV画面を切って欲しかったが、その無駄も悟ったようで。
だからこそ、虎徹も心は静かではなかったが上辺だけは取り繕って…楓の次のリアクションを待った。
「すごーい!そのペンダント!!どうやって手に入れたんですか?」
「は?」
問いかけられているのはバーナビーなのだろうが、疑問の声を出したのは虎徹の方だった。
今、楓が出したきゃぴきゃぴとした言葉は虎徹にとって不可解すぎたのだから。
「あ、これですか?隠しなので、わかりにくいと思いますが…」
やはり楓はゲーム画面内のことを言っているらしく、瞬時に悟ったバーナビーは解説を始めた。
楓の言うペンダントとやらは、まさかゲーム内でヒロインがしている四つ葉のクローバーのネックレスのことだろうか?虎徹からすると、よくありがちなセレクトショップに並んでいるアイテムとしか見ていなかったのだが。
「やっぱりレアアイテムなんですね!」
瞳を輝かせて納得しながらも、楓の声は高い。
「ええ、元々四つ葉のクローバーの小葉にはそれぞれ意味があって…希望・誠実・愛情・幸運。キーアイテムの小葉を全部揃えるとサブイベントで手に入るんです」
勢いに乗って、いつのまにかバーナビーはノリノリになりながらも丁寧に解説を始めた。しゃべり始めると空気を溶かすかのように案外普通に。
「そうだったんですか。私、三つしか集めてなくて…だから三つ葉のクローバーだったんですね………あ、そういえばそっちのワンピースもデフォルト色しか持ってない」
目ざとく楓は色々と発見していき、聞きまくる。
「ああ、それは……………」
虎徹を完全においてきぼりにして、二人はどんどんと会話を進めて行く。
只今、絶賛カラバリ服に対しての批評中だ。
正直全くついていけないのだが、虎徹の脳だけは勝手に謎だけが深まる。
あれ、おかしいな…楓ちゃーん?そいつ、バーナビーだよ?スクラップを切り抜いて取っておくほど大大大好きなバーナビー様だよ。楓の一番好きなアイドルみたいだと思っていたのだが、えーと違ったのか?
確かに今日のバーナビーはプライベートで外に出かけるということで少し髪を撫でつけており、髪も襟足をゴムで止めていてメガネしておらず、コンタクトだ。
だがしかし生まれ持った印象はそう簡単には変えられないだろう。隠しきれないオーラは、どう見てもバーナビー・ブルックスJr.だ。相棒の欲目を抜いても、それ以外にはあり得ない。
虎徹がアイパッチ一つで隠せているつもりでも、これは次元が違いすぎる。
はて、しかし。ここで一つの仮定へと虎徹は行き着いた。
まさか…もしかして………
楓の脳が、乙女ゲーをしているのがバーナビーであることを拒否しているのだろうか?
そうだ。そうに違いない!演技ではないのだから、それしか考えられなかった。
こんな10歳ちょっとの女の子の脳内に左右するほど、バーナビーは恐ろしいほどに残念だったのだ。
二人とも可哀想すぎる………と虎徹は二人に同情の眼差しを送ったが、そんな虎徹の気持ちなど二人は微塵も察することはなく、ただ楽しそうな話だけが飛び交っている。
趣味が同じ人間が集まれば、必然的に愚痴話も色々と飛び交う。
「この乙女ゲーの攻略本って三種類ありますけど、どれも攻略情報がバラバラですよね。私、内部パラメーターと小ネタがよくわかんなかったです。スチル絵も小さくて全部は載せてくれていませんし」
「確かに。今回の内部パラメーターは複合要素があったので、わかる範囲でサイトにまとめようかと」
「えっ!攻略サイトお持ちなんですか?」
「ええ…ゲームタイトル+Wikiで検索すると二番目にhitする程度ですが」
「あ、そのサイト!私知ってます!!色々な乙女ゲーの、他の攻略サイトよりマニアックな情報載せているトコですよね?すごーい」
「攻略本にない情報を提供するのが攻略サイトの役目だと思っているので。それに自分がプレイするメモ程度ですよ」
今はざっとこんな話をしている。
攻略サイト持ってるだなんて虎徹も知らなかった。どんだけ乙女ゲーに命かけてるんだ…バーナビーと変な感心だけはいつも通りに増える。
「あ、あのさ…バニーちゃん?」
どうしても一つだけ聞きたいことがあって、悪いとはわかっていたが、虎徹は二人の間に口を挟む。
「お父さん。今、忙しいんだから邪魔しないで」
返ってきた返事は娘の少し冷たい声だった。
いつも卑下されているから慣れている部分もあったが、今回に限っては普段とは違うので余計にショックだ。凹む。
「あ、そういえば…バニーさんって言うんですね。いきなり色々とすみません。私は鏑木楓と言います。よろしくお願いします」
ぺこりと日本式に軽くおじぎをしながら楓はバーナビーに向かう。本当ならば最初にすべき挨拶だったが、乙女ゲーという存在で全てが吹き飛んだのだろう。
なんだか勝手に楓はバーナビーの名前を勘違いしたのだが、虎徹の呼びかけがそうだったのだから仕方ないし、この際は好都合にも思える。
「いえ、こちらこそ。楓さんの話は虎徹さんからよく聞いていますよ。お会いできて嬉しいです」
ここでバーナビーお得意のハンサムなスマイルが飛ぶが、乙女ゲーというフィルターにかかっているので、いつもより効力は薄く思える。
「もうーお父さん!何でバニーさんの事、今まで教えてくれなかったの?同僚がいるって話はずっと聞いてたけど、どんな人とか全然話してくれなかったじゃない!」
「ええっ!」
なんだか軽く怒られて虎徹は納得いかない。
だって、言えるわけないじゃないか。一応虎徹自身もまだ正体隠している設定だし。
それにたとえ、同僚はスーパーヒーローのバーナビーという部分を伏せたとしても、男が…しかも成人したハンサムが…乙女ゲー好きだなんて説明できない。未だに虎徹だって信じたいとはあんまり思っていないのに………
虎徹の思いとは裏腹に二人は非常に意気投合したわけだが、想定しているわけないだろう。こんな事。
「あのさ。いいの?バニーちゃん、男だよ?男が乙女ゲー好きでも」
楓がバーナビーの正体に今のところ気がついていないのは万々歳なのだが、今後と念のための予防線を張っておきたいのと確認をしたかったのだ。
バーナビー自身も自分のこの趣味が通常ではないとわかっていたからこそ、今まで隠していたんだし。
「お父さん………乙女ゲーは心が乙女なら誰がやってもいいゲームだよ。男女差別するような人だと思わなかった!酷い!サイテー!!」
耳の左から右まで通り抜けるくらいの楓の金切り声が虎徹の頭を通過する。これはマズッた発言だったと自覚するまでは一瞬だ。
「ご、ごめん!楓。パパが悪かった。別にバニーちゃんが悪いとかそういう事を言いたいわけじゃなくて、純粋に気になっただけなんだ。パパも男で乙女ゲー好きなのは初めて会ったからさ」
さっきから楓の機嫌を損ないまくっていることはわかったが、ろくな受け答えが出来ていなかったので、挽回するが如く虎徹は必死に言葉を並び立てる。そこまで禁断だとはさすがに思わなかったのだ。
つーか、正直…乙女ゲーマーなんて男どころか普通でもあんまり聞いたことなかったんだが。娘がプレイしなければ存在さえも生涯知ることはなかっかもしれないという代物なのだ。
「そうね…そういえば私も男の人で乙女ゲーする人に何人か会ったことあるけど、みんな気が合わなかった」
ここでようやく落ち着いた様子を見せた楓が言葉を出す。
「そうなんですか?同じ乙女ゲー好きで、気が合わない………となると、原因はやはりアレですか?」
再び話に参加してきたバーナビーは勝手に納得をはじめて、楓に言葉を振っている。アレという部分に声を張っているので意味深が増している。
「そう…アレなの。やっぱり無理だったわ」
残念という表情を見せながら、二人は同時にうんうんと頷いている。
「えーと。アレって何かな?」
恐る恐ると虎徹は聞いてみる。何だか専門用語より奥が深そうだ。
別に乙女ゲーの内情を知りたいというわけではないのだが、自分のかかわり合う二人の仲が良くなった理由がソレだというのならば、ある程度理解しておかないと今後に差し支えると思ったからだ。
「お父さん。私が乙女ゲーでどんなキャラ好きかって、知ってる?」
「確か、正統派メインポディションキャラだっけ?」
質問に質問で返されたが、虎徹は素直に頭を巡らせて答える。楓が好きなキャラと指さしてきた歴代の乙女ゲーキャラを連想した結果だ。
「そう。面食いってわけじゃないけど、やっぱりイケメンで性格がスマートなキャラが私の好みなのよね。メインキャラが贔屓されまくって他のキャラ食いすぎてる乙女ゲーは正直萎えるけど」
当たっていたか、良かった…と少し虎徹は胸をなで下ろす。
それが三次元で言うとバーナビーに当たるのだろうが、そんな爆弾を今は投下出来るわけがないので、胸の内にだけしまっておく。
「それで、僕が好きなキャラは…ご存じですよね?」
楓に続いてバーナビーがこちらへと問いかける。
「あーもちろん」
ここで三次元だと、虎徹さん大好きvとか言い出さないだけでもマシだろう。
しかしバーナビーの今更な好みを口に出すのも、もはやいつものことで疲れたので虎徹は肯定の言葉だけを全面へと出す。
「ということです。これでわかりましたか?」
「全然。つーか、好きなキャラ系統違うのに何で仲良くなるの?余計にわかんなくなったよ」
今のやりとりで何がわかれというのだろうか。回答になっていない。
二人の好みのキャラクターなんて、元々虎徹も知っていることだった。むしろ対極にいると言っても過言ではないだろう。
「だから、好きなキャラが同じだと仲良くなれないのよ!」
にぶい父親をしかるように、楓が強く主張してくる。
「へ?何で………」
さっきから質問してばっかりのようだが、わからないのだから仕方ない。
「僕はさして興味がないのですが、普通のマンガやアニメやゲームで好きなキャラが同じというのは意気投合しやすいのかもしれませんが…僕たちが好きなのは、乙女ゲーですよ?同じキャラを好きになったら、嫁がかぶることになります。奪い合う相手と、とても仲良くなんて出来ませんよ!」
それはまるで戦争かのように、バーナビーは大げさに解説してくれた。
ど、どうやら…乙女ゲーマーの中では、自分こそがたった一人のキャラの嫁になることが前提にあるらしい。理解出来ない………というか、大変な世界なんだな。
確かにそれなら、好きな系統がかすりもしない楓とバーナビーは乙女ゲー全体的な話をする仲間としてはベストだろうということはわかったような、わからないような。
「そうなんだ。良かったね…仲良しになれて………」
なんか結託する理由がスゴいんだが、とりあえず歓迎する言葉を虎徹は出しておいた。
だから前々から、バーナビーは楓と気が合いそうだと言っていたのか。今更わかったが、こんな状態で知りたい話でもないかなあと、やっぱり気落ちする。
「はい!」
それでも虎徹の憂鬱など気にせず、心底嬉しそうにバーナビーは返事をした。
無理もないかもしれない…今まで、バーナビーが乙女ゲー好きだと知っているのは自分とマーベリックさんしかいなかったし。二人とも、この趣味に若干ひいていたし。楓が初めてリアルで会話出来る相手なのだろう。
また虎徹が同情含めてあれこれ考えていると、あちら側ではまた二人の会話(乙女ゲーではあるが)が花開いているようで蚊帳の外を食らう。
「………虎徹さん」
「あ、ああ。何だ?」
突然、現実世界に呼び起されたかのように、バーナビーに呼ばれて、はっと気が付く。意識が飛んでいて、全く気がつかなかったのだが、こっちはこっちで自分の世界に引きこもっていたようだ。というか、引きこもりたかった。
「楓さん。夕方までこちらに居るそうですよ。どうしますか?」
「そうだな。どうしようか。出掛けるのもなあ」
頭を少しぽりぽりと掻く。そうだ。あまりの出来事があったので忘れかけていたが、正しくこれからバーナビーとデートという一歩手前だったのだ。
「どこかに行くの?」
「ええ、プラネタリウムに」
楓が不思議そうな瞳を向けてこちらを伺って来たので、あっさりとバーナビーは、その行き先を告げてしまう。
「いいなあ。私も行きたい!」
子どもの本能のまま、はいはーいと手を挙げるかのように楓は主張する。
「駄目。絶対駄目!」
瞬時に虎徹は否定を示す。
だって、恐ろしい事に乙女ゲーベースのデートなのだ。通常ならまだ知らず、そんな変なイベント事に連れていきたくなんてなかった。
確かに普段は全然遊んでやれない楓に申し訳ない気持ちはあったが、これは譲れない。
「別にいいじゃないですか。行きましょうよ」
何か問題でもあるのかというぐらい普通に、バーナビーは賛同の方へと話を勝手に持っていった。
「わーい。やったー」
そうして二人一斉に騒ぐ。二人共とても楽しみにしているが、その根本は違うだろう。
え、何でバニーちゃん………OKしてるの?まさか…
「おいっ、バニー?」
嫌な予感が流れて、虎徹はバーナビーを軽く引き寄せて耳元でこっそりと訪ねる。
「乙女ゲーの中では、子連れデート如きよくあることですよ。それに…楓ちゃんとは話が合いそうですし大歓迎です」
ああ、やっぱりろくでもない事だった。
まるで何かのトラブルや出歯亀を期待しているかのごとく逆にバーナビーは嬉しそうだった。最初のデートからいきなり難易度が高い方が燃えるのだろうか。
このアンバランス差に肩身の狭い思いをしながら、泣く泣く虎徹はがっくりうなだれる。
対人関係的に虎徹が一応真ん中にいるのだが、おかしいな。完全に、乙女ゲーマーにサンドされている気分だった。

そうして、三人でオリオンをなぞる為にプラネタリウムへ行くこととなったのだった。










二 次 元 嫁 に し か 興 味 な い バ ニ ー ち ゃ ん を 三 次 元 に 振 り 向 か せ る 方 法 6
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