前回の話要約
・二次元で好きな人
虎徹→考えたこともない
バーナビー→年配の男性
楓→若いイケメン
・三次元で好きな人
虎徹→可愛い可愛い娘
バーナビー→虎徹さん
楓→バーナビー
デッドトライアングルの始まり始まり
元々バーナビーに完全に押し切られた形となってしまったせいで、プラネタリウムデートに関して虎徹はやる気なしであった。
無駄に張り切りまくっているバーナビーに任せとけばいいやというくらいの認識しかなくて、だからこそ娘である楓も同行するという話になった時、今までの自分の興味のなさを多少恨んだが、それでもそこまでは比較的普通だったような気がする。
三人でバーナビーのあの赤いスポーツカーに乗り、向かった先は意外や意外とシュテルンビルト郊外だった。
虎徹もどれだけプラネタリウムを見ることが出来る施設がシュテルンビルトに存在しているのかは詳しくは知らないが、それでもゴールドステージだけではなくいくつか名前聞いたことあるなってくらいの有名なのは知っているし、近いしソコ行くんだろ?って思っていた。
しかしバーナビーが連れてきたのは郊外っつーか、シュテルンビルトのハジっこ。人工的に作った高台立地にある結構本格的なプラネタリウム施設で、これから登るのだが、下から見上げる感じもかなり壮大だった。
やっぱり多少変装しているとはいえ、KOHだとバレないようにわざわざ郊外にって配慮かな…と感心したのだが、別に違ったらしい様子が最後には見えて来た。
「あのーバニーちゃん?君は何をしているのかな?」
かなり高台にあるせいで、肝心要のプラネタリウムへは駐車場から施設まではエレベーターとエスカレーターを随分と乗り継がないといけないくらい距離があった。
そんな時間を持て余すエスカレーター空間で、すちゃりっと効果音がつきそうなくらいの勢いで、バーナビーが取り出したもの、それは。
「見てわかりませんか?PSPで乙女ゲーやっているんですけど」
一応回答としてそう言いながらも、バーナビーが画面から目を離すわけがない。
いや、わかってる。わかってるよ…PSPやってるってさ。でもさ。何でそんなディープな携帯ゲーム機でやっているのか…それを虎徹は聞きたかったのだ。これが100歩譲って程度だがDSならば、まだまあ…って感じかもしれないが。
完全に乙女ゲーマーのオーラ?みたいなものを今のバーナビーは身にまとっていた。あまりにも近よりがたい。
おかげさまで、いくらハンサムだろうが(ソフトの内容はバレなくとも)PSPガン見している男に周囲は見なかった振りをしているので、バーナビーの正体がバレなくて騒ぎにならなくていいんだが…みんな他人の空似だよね?って顔をしながらチラッチラッこっちを見ている。視線が痛い。なるべく虎徹も離れたいが、そうも簡単にはいかないし。
しかし、嫁持参のダブルデート?されるとは思っていなかった。嫉妬とかは一切ないが、それでもいたたまれないことに違いはない。
「楓さん、お待たせしました」
やっと顔を上げたかと思うとその方向はもちろん虎徹相手ではなく。
「うん。私も準備整ってるよ」
あれ?バーナビーがでかくて目立つ男すぎたからそちらに視線が行っていたが、いつのまにか楓も淡いピンク色のPSPを取り出していた。
こちらはさすが年齢にふさわしいというか、ゲーム機持っていても違和感ないように見える。
「ネット以外で通信交換するのは初めてなので、うまくいくでしょうか?」
「大丈夫。私、慣れてるから。ほらっ」
二人は互いにPSPを向け合って、何やら小さいボタンをガチャゴチャ押しまくっているのが、虎徹にも見えた。バーナビーは身長的に二段ほどエスカレーターの下へ降りたようだ。
「繋がったようですね。えっと、では交換するのはピンキーリングだけでいいんですか?」
「えっ、他のでも大丈夫なんですか?」
「どうぞ。何なら見ますか?」
笑顔でPSP(相変わらず乙女ゲー絶賛プレイ中)を楓に手渡して、バーナビーは確認を促す。
瞬時に嬉々として、今度は楓がそのPSPに夢中という構図になる。
空気読んでバーナビーは少しその場から離れて視線もずらした。こういう真剣な時、邪魔をしてはいけないと自分の経験からもわかっているようだった。見守るまなざしが妙に生ぬるい。そして虎徹の方へとやってくる。
「…バニーちゃんって、一応携帯ゲーム機も常備してたんだね」
今まで散々二人で移動なりすることが多かったが、外でバーナビーが携帯ゲーム機を出しているのを見たのは、虎徹は初めてだったのだ。
確かに傍目からは何のゲームしているかどうかなんてわからないが、それでもハンサムとしての全体的なイメージは大切にしているようだ。
「普段はあまり持ち歩かないですよ。僕は…嫁を携帯する趣味はないので、携帯ゲーム機でも大体は家でやっていますし」
今回は楓という同じ志を持った乙女ゲーマーに出会えたということで、わざわざ持ちだして来たのだと暗にバーナビーは言った。
「え、でも。何か最近多くね?携帯ゲーム機で発売する乙女ゲー」
虎徹が乙女ゲーのラインナップに詳しいというわけではないが、悲しい事にバーナビーや楓からの情報で何となく二人がどんなソフトをやっているか知っている。
パソコン主体の乙女ゲーはとにかくとしても、いわゆる家庭用ゲーム機をメインとして発売している乙女ゲーが最近PSPやらDSばかりな気がしたのだ。
「そうですね………僕もそうですが、乙女ゲーをするような乙女は普段あまりゲームをやらない層なので、無駄にハイスペックで高価な据置ゲーム機を持っていないんです。だから値段も手軽で既に浸透している携帯ゲーム機で発売する傾向が強くなりました」
やや残念そうな声を出したが、それでもバーナビーは的確に説明をする。
「なるほど。同じゲーマーでも違うのね。確かにハード?だっけ。ゲーム機もありすぎて、おじさんついていけないわ」
何かTV見ているといつも新しいゲームのCMしているな…とはよく思うが、ソフトだけではなく、ゲーム機も数年に一度は新しいのが発売しているような気がする。
その名前も、前のを引き継いだりしているので似ていて、慣れていないとどのソフトがどのハードに対応しているのかわからない印象で。新ハードで旧ハードのゲームもプレイ出来たりするのもあるみたいだし。
購入客層が独特な女性のライトユーザーともなると、わかりやすいハードで発売した方がいいというのはわかる気がする。地下鉄とかで鉢合わせた隣の女性が乙女ゲープレイしていたら、少し嫌だが…お手軽というのは理解できるし。
「昔、据置ゲーム機が一企業一強となった時がありましたけどね。ライバル会社は居た方がいいと思いますよ。互いに競い合ってよりよいゲームを作ると思いますから。ただ、僕は携帯ゲーム機の乙女ゲーはあまり好きではないですけど」
PSP相手に喜んでいる楓が少し遠くに居たのだが、それでも声質を低くしてバーナビーは言った。
「そうなんだ。バニーちゃんなら、喜んで乙女ゲーキャラと旅行とかしそうなのにな」
ヒーローという職業柄、そんな無理は聞かないが、それでも乙女ゲーのこととなると途端に盲目になるバーナビーなら、突飛ではあったがそれくらいはやりかねないなと虎徹は思っていたのに、意外だった。
「ああ、ありますね。ゲーム持って現地に行くと、ご当地ゆかりのアクセサリーが手に入るとかスタンプラリーとか。そういうのはいいと思います。僕が好きではないのは、わざわざ据置ゲーム機で発売出来るゲームを携帯ゲーム機で発売する事なんですよ」
何だか段々とバーナビーの声が真に迫った音域へと導かれていくような気がする。それほど真剣だった。
「へ、そうなの?」
「全てではありませんけど、今までずっと据置ゲーム機で発売していたシリーズが携帯ゲーム機オンリーになったりするんですよ。確かに旧ハードで発売するのが時代遅れで、新ハードは開発費が高いとはいえ………乙女ゲーの一番の売りはキャラクターです。そのキャラクターが写される画面が小さいやら解像度が低いだなんて、有り得ない!」
ここでバーナビーはぐっと叫んだのだが、やや早口だった為…周囲からは何かハンサムが変に熱く語ってるな………ぐらいにしか捉えられなかった。熱意の激しさだけは万国共通といったところか。
だが、虎徹としては…ここ外だから。ながーいエスカレーターに乗って上へ登っている途中だから。乙女ゲーの話はほどほどにして欲しかった。
「うん。わかったから…わかったから!声抑えてっ」
何だかよくわからなかったが、それでもつられて虎徹も声を張り上げる。
むしろ周囲の目が若干痛いのに、未だにPSPに夢中な楓が怖い。おそらく彼女も自分の世界に入っている。少しはこっち気にしてくれ。一緒にバーナビーを止めてくれと願うが、ああ無情。
「声………で思い出しました。携帯ゲーム機に移植したら、容量の関係で据置ハード機ではあったボイスが全部カットされたゲームがあるんです。乙女ゲーで一番大切なのはキャラクターですが、その次に声優さんが重要なのに…あれには完全に騙されました。移植ならちょっと追加要素つけて、当然普段通りにボイス収録されていると思うじゃないですか。グラフィックの解像度が落ちるだけならまだしも、詐欺だ!」
「あっ、でも携帯ゲーム機で良かったと思ったこともありますよ。イベント中、いきなり表示されたスチルがキャラの顔ドアップで!告白されたんです!!それが、また…深々刻まれたしわが一本一本わかるくらい恰好良くて。あまりの渋さに僕は倒れそうになって、思わず携帯ゲーム機を放り投げましたよ。これが据置ゲーム機だったら自宅のTV相手に確実に死んでた自信あります!!!後で、据置ゲーム機で美麗移植された時、心の準備が出来ていてもそのシーンは軽く死んだ記憶もありますし」
「ということで、携帯ゲーム機があり得ないと思っている僕としては、携帯電話で発売する乙女ゲーは冗談じゃない!としか言いようがありません。論外です。あれは…『おはよう』とか言ってもらうのに1シュテルンドルとか払うんですよ。『こんにちは』とか『こんばんは』とかも別料金です。『好き』や『愛している』は破格の値段なんですよ!別に僕はお金を出し渋っているわけじゃないんですけど、それでもお金で愛を買うなんて…酷い事出来ません!!!」
何やら開き直って、案外周囲にはバレないものだと思っているらしく、バーナビーは心の叫びを全て曝け出す。
もはやこうなったバーナビーを止めるのは不可能だと虎徹は悟った。乙女ゲーに関しては、熱烈に語りだすと完全に突っ走るのだから。止めるのは諦めた。
「はい、はい。次エレベーターだからね。足元気を付けて。
あ、すみません…三人だけにしてもらえます?ちょっと…同じ空間にいると色々と弊害があると思いますので………」
なんか微妙な顔をして一緒のエレベーターに乗るのに戸惑いを見せた後ろのカップル相手に、虎徹は先手を打つ言葉をかけた。
カップルは嫌な汗を見せながら、こくこくと頷く。深々と会釈をして、虎徹はエレベーターの閉ボタンを押した。
「はあ〜」
盛大にため息をつく。感情的になったバーナビーをマトモに相手するのは疲れる。
「バニーさん。ありがとう!いっぱい選んじゃった」
エレベーター内で、ようやくチョイスが終わったらしい楓が明るい声を出す。知らぬが仏というように、先ほどの惨事の事など、全く話には出てくる様子がない。その耳はもしや、乙女ゲーの音声しか拾わない仕様になってしまうというのだろうか。
「喜んで貰えたのなら、良かったです」
ほっと胸をなでおろすバーナビーも嬉しそうな表情を見せて、返された自分のPSPを受け取った。
「やっぱり、こうやって直接やりとり出来るのが携帯ゲーム機の良さだよね」
「そうですね。こうやってワイワイ出来るのは楽しいです」
まるで人間が変わったかのように切り替わったバーナビーは、楓との乙女ゲー話に花を咲かせている。相変わらずわからない。さっきまでかなり携帯ゲーム機乙女ゲー否定してなかったか?何だか、それとこれは別らしい。
そうして、虎徹にはさっぱり理解できないまま、二人は乙女ゲーライブDVDの話やら抱き枕などのグッツの話やら、乙女ゲー声優が結婚した話やらを話していた。会話は一ミリたりとも尽きない。
前書きがスゲー長かったが(だってバニーが乙女ゲー熱弁するんだもん)ようやく目的であるプラネタリウムに着いた。
そうしてようやく虎徹は、何故わざわざバーナビーがこのプラネタリウムを選んだのか悟った。
ここのプラネタリウムは常時三つほどプログラムが上映されており、定番の天体観測やらヒーリングやら後はプラネタリウムという大スクリーンで見る大自然映画とか、色々あるらしい。
バーナビーは迷わず定番の天体観測を選んだので、ああ…普通だ良かったと虎徹は安心したくらいだ。やっと落ち着いた状態で、虎徹含めた3人は席に着いた。
薄暗い空間に目が慣れてくると、少しずつ星々が照らされて、やがては満天。春から季節を廻り最後の冬へと至るまで一つ一つ丁寧に星座の説明が繰り広げられる。モチーフとなったギリシャ神話も絡めているので子どもにもわかりやすく楽しい。
全てが終わると、虎徹自身も勉強になったなというなかなか素晴らしい内容だった。―――内容自体は非常に素晴らしかった。だが、、、
プログラムが平穏無事に終わった後、ずっと上空を見上げていただけではない疲労感に虎徹は包まれた。
がっくりとうなだれながらも、隣の席に座るバーナビーに震える声で質問をする。
「あのさ………ナレーション?していた人、物凄く声に深みがある男前な感じに思えたんだけどさ。もしかして…」
そうなのだ。ずっと気になって仕方なかったのは、ナレーションの声だった。
「はい!僕が今一番好きな声優さんです。親子二代で声優しているベテランの方のお父様の方なんですけどね。虎徹さんにも良さ、わかりました?」
ああ…やっぱりどこかで聞いた事のある声だと思っていたが、予想は外れない。このなんとも言えないデジャブは、バニーちゃんプレイの乙女ゲーでの出来事だったのかと、もやもやは払拭出来たが今度は違う意味で心が晴れなかった。
どうやらバーナビーはずっとこのプログラムを見聞きしに行きたかったようだが、一人プラネタリウムなどというハードル高いことは出来なかったらしく、ようやく来る事が出来て感動という姿を見せたのだ。だが、こっちに振られてもちょっと困る。
「素敵でしたよね…………お父さん!今度、他の声優さんがナレーションしている時にも連れて来てね」
え、声優さんいくつかパターンあるのかよっと内心突っ込んだが、隣で楓も同調していたので、ここは肯定の言葉しか虎徹は用意できない。
「あ、ああ。仕事が暇な時にね………」
正直言うと、あまりに良い声すぎて…虎徹としてはそれが気になってプログラムの内容が頭に入りにくかったのだが、先入観があるっていけないことだと思った。
とにかくプラネタリウムが終わったのだ。今はそれでいい。
例えそれがプラネタリウムデートの筈が、完全に虎徹が置いてきぼり食らう展開だろうが。想像していた子連れデートと違っていたとしてもだ。
立地的に若干田舎も否めないので、三人での食事はプラネタリウム施設内にある屋外テラスレストランで軽く取った。
疲れた…疲れすぎたのだが、ようやくこれでネックのプラネタリウムデートが終了したと肩を撫で下ろして、再び今更ながらカーナビーが声優さん仕様のバーナビーの車に乗り、帰路へと着けると思った。そう思っていたのに……………
「ここどこ?」
いつのまにか連れて行かれた先は、平穏無事な虎徹の住まいではなかった。
前回…前々回…前々前回と散々プラネタリウムへ行こう!という話を展開してきたわけだったが、そのプラネタリウム自体はあっさり話が終わった筈。伏線消化しただろ。メインはこっちじゃなかったのか!と思うほどそこは衝撃的な場所で。
思えば最初はプラネタリウムに行った。あそこまではとても世界は平和だったかもしれない。
ここは一歩間違えれば三次元への扉が開くかもしれない、恐ろしい空間だった。
「お父さん。見てわかんないの?ゲームショップに決まってるじゃない」
そう…楓の言うとおり、やってきたのは広大な敷地を持つゲーム専門店で、その目的と言えば一つしかバーナビーの前には存在していない。
「さっさと(乙女ゲー買いに)行きますよ。虎徹さん」
おかしいな…バーナビー屈指の名セリフに、幻聴が付いて虎徹には聞こえてきた。