バーナビーお得意の何か得体のしれない本人はキメキメだと思っているポーズをするのは、ゲームショップ前。
ああ…周りに人がいなくて本当に良かった。唯一の救いである。もちろん、乙女ゲーを物色しに猛り立ったバーナビーに続くのは、楓である。こちらも気合満々な足取りだ。将来有望が違う意味で見えて来た。
なんか空気読むとね。あのプラネタリウム前後で、虎徹が完全に蚊帳の外になっていて二人が乙女ゲー話している間に、楓が乙女ゲー買いに行きたいって話になったらしく、バーナビーがすんなりとゲームショップへ連れてきたってコースらしい。虎徹はオマケというポディションで、どうすっかな。だから外で待っているという選択肢はあんまり存在していない悲しさと入る前からの疲労。
ちなみに虎徹というと、楓の誕生日やらクリスマスやらの時期以外、ゲームショップとは完全に無縁です。大人でもおっさんでもゲームが好きという人種がいることはわかっているが、興味ないもんは興味ないのである。
「さあ、行きましょうか」
慣れた様子で店内をナビするがの如く、バーナビーが狩りに向かうかのように先頭に立つ…から、虎徹は続くしかない。楓はわくわくしているけど、もちろん虎徹のテンションは下落中だ。
あまりマジマジと今まで気にした事などなかったが、このゲームショップは店の外装もやたら原色だったり何かの(多分ゲーム)キャラクターが描かれたりしているのだが、中に入るとよりそのゲーム色は顕著に表れている。
入口から入って直ぐにあるのは、新作ゲーム置き場と思われる店内で一番気合の入っている派手なディスプレイ。ナンバーリング二桁以上発売している有名RPGや家族も遊べるアクションゲームやらパズルゲームやらと一通りが並んでいる。
だがしかし、バーナビーはそんなコーナーには見向きもせずに、ずんずんと奥に進んでいく。その足取りに迷いなどは全くないようだ。
ということで、やはり虎徹の予想通りに乙女ゲーコーナーへと案内された。
ある程度心の準備はしていたのだが、そこは想像以上の空間だった。
ライトユーザーが増えたとはいえ、世間一般的なイメージとしてゲームといえば男の子がやるもので、カッコよかったりと力強い感じがするものだった。
それなのにこの乙女ゲーコーナーだけは、まるで雰囲気が違い。ピンクを基調としたPOPに異様に多いハートマークや☆など典型的な少女マンガのようなディスプレイだった。
これは…あまりにも近寄りがたい。もちろんバーナビーは全く動じてなどいないが。強い、強すぎる。その勇気をどこに持ち得ているのだろうか。むしろそれが気になる。虎徹としてはバーナビーの後にくっついていく形じゃなかったら、絶対に逃げていただろうし。
実際、行き交う少年や男性達もわざと乙女ゲーコーナーを迂回するような隅っこ配列で、唯一隣の配置が男性向け恋愛ゲーム(通称ギャルゲー)なので、肩身狭くそれを見る男性ゲーマーはいるが、それでも乙女ゲーマーとは相いれないし、若干特殊志向であるという認識はあるらしく、バーナビー(イケメン)・楓(少女)・虎徹(おっさん)という異色の3人組が乙女ゲーコーナーに近寄ると、蜘蛛の子を散らすかのようにいなくなってしまった。
すまないな青年よ…と虎徹は心の中だけではあったが深く謝る。その気持ちは十分にわかるのだが、虎徹もここにいなければいけないので仕方ない。
「いっぱいあるねー」
キラキラと目を輝かせて、楓なんかはそのラインナップを見ている。純粋でとても羨ましいし、今このコーナーに相応しいのは楓だけである。
「あのさ…バニーちゃん。ゲームショップとか、よく来るの?」
それでもここまで慣れた様子を見せつけられて、虎徹は疑問を口にするしかない。
てっきり全部ネットで買っていると思っていたのだ。お得意のあちらのスポンサー様で。
「ええ。自分の持っていない昔発売した乙女ゲーを探しに」
「へえ…あ、中古の乙女ゲーとかもあるのね。って、高いな!中古なのに」
どうやらこの店は上段に新品ゲーム。下段に中古ゲームを置くという仕様らしい。最上列には何やら普通のゲームソフトよりでかい箱?みたいな物がたくさん並んでいる。もしかして特別版とかか?
虎徹としては正直、立ち並ぶ端正な容貌のイケメンたちの違いがよくわからないので、ぼんやりと値段見ていたら…驚いた。中古ゲームといえば、価格崩壊を起こすくらい安いという先入観があったのだが、乙女ゲームの中古の高いこと高いこと。多分新品より若干安い程度?幾つかは、何で新品より高いんだ…というプレミアム付きらしいものさえ見受けられる。それが一つや二つじゃないのが凄い。
「乙女ゲー業界は需要と供給のバランスがうまくとれてないんです。乙女ゲーをするのはコアユーザーが多いですしコレクション精神も高いので、それほど多くは中古にも出回りませんし。まあ、僕は中古嫁とか嫌なのでソフトは新品しか買いませんけど」
さすが、結構たくさん持ってると思っていたが、その通りの余裕綽々なお言葉だ。ここが外じゃなかったらパチパチと拍手をしたいぐらいお見事。
…忘れもしない。バーナビーの寝室のクローゼットを用事があって開いたら、隙間なくぎっちりと乙女ゲーが並んでいた事を…どんだけ種類があるんだ?と今更ながらに戦慄く。
「でも新品ソフトなんてネットで買えるんじゃない。なんでわざわざ店舗に?」
店舗販売を否定しているわけではないが、バーナビーは結構見境なく色々な乙女ゲーを購入しているようだから、面白そうな乙女ゲーがあったら買おうとかそういうタイプじゃないだろうと思っていた。
まさか真後ろで流れている店舗限定のPV(無論乙女ゲー)とかが見たいのかと思いきや、陳列するソフトの方しか見てないし。
バーナビーと言えば顔出しヒーローなので若干の変装はするだろうが、こういう場所にはあまり寄りつかないと思っていたのだ。
「ソフト自体は大体持っています。が、予約特典・初回特典・店舗特典で持っていないのがあるので、定期的にないか探しています」
「は?何だって???」
平然と言葉を羅列するバーナビーの声が良く聞き取れなくて、虎徹はオウム返しすることしか出来ない。
「だから、PS3版・PS2版・PSP版・DS版とか移植する度に、色々と特典が付いてくるんですけど、昔のソフトはもちろんの事、最近のソフトでも予約戦争に負けて逃がしたりしているから、悔しいんですよ。僕は、仕事忙しくてネットオークションでも勝ち抜けないですし」
なんだか恐ろしい事をぶつくさと言いながらも、バーナビーは中古棚を見ている。どんだけユーザー搾取しているジャンルなんだよ。でも…当たり前なんだろうな。恐らく乙女ゲーマーはあんまり他のゲームもやってないから、当然の如く買っているに違いない。
お金に困っていない人間がハマると恐ろしい。いや、経済が回って行くにはこういう人間にお金を使って貰うのが一番だとわかっているが、知り合いはキツい。
「ちっ、これ…持ってるな………」
中腰になってソフトの背表紙を空中でなぞって行きながら、さり気無く舌打ちしている。
「えっ…バニーさん。この店舗特典ドラマCD持っているんですか?私、一店舗しかGET出来なくて」
その光景を見ていたのは虎徹だけではなかったようだった。ただし楓にはきっと舌打ちは聞こえていなかっただろう。だからこそのはきはきとした素直な声が飛び交うのである。
「そうなんですか。それなら、良かったらお貸しますよ。でも僕も…いつもこのメーカーは四つの店舗特典ありますけど、この前…五周年記念ということで五つ目の店舗特典だけはうっかり買い逃してしまって………神を呪いました」
そんなことで呪われていたら神様も不条理だと文句を言いそうなくらいの内容でも、バーナビーはあっさり呟いている。恨むなら商法が酷いメーカーに言うべきだろう。しかし、それでもバーナビーにとっては大好きな乙女ゲームを発売してくれる神様…あれ、やっぱりメーカーが神様か。じゃあ、憎むのもやっぱりメーカーか?とか、何だか色々とマトモに受け取って考えていたら虎徹の方が段々と混乱してくる。
そんな虎徹はもちろん放置されて二人の会話は続く。
「わかります。私も移植されたのか、続編なのか、ファンディスクなのか、よくわかんなくて買い逃がしたソフトありますし」
楓は自身の手をぐっと握って盛大に同調した。やはり同じ乙女ゲーマー同士心が通じているらしい。
「乙女ゲーはタイトルに素直に2とか3とかナンバーふってくれない事が多いですから、確かにわかりづらいですよね。例えば、このシリーズの移植は全部副題が違いますし」
「あれ…この推理小説乙女ゲー。PSP移植発売、明日じゃなかったっけ?」
例えばとバーナビーが指を示した新作ゲームを正視して、楓は頭を捻って独り言のように声を出す。
しかしこれまた随分なジャンルらしい。メインがどちらかわからないほどだ。サブとしてのイベントが壮大すぎて恋愛忘れないかと聞いていて虎徹は変に心配する。
「明日発売ですね。ここの店は前日にフラゲ出来るんですよ。僕はネットで予約してしまったので明日まで待ちますが…」
「私、このゲームのハード持ってないからPSPに移植されるのずっと待っていたんです。いいなぁ…」
ぽつりと楓のつぶやきが虎徹の耳に入って来る。
「楓!パパが買ってあげるよ!」
滅多に出来ない父親アピールを盛大に込めて虎徹は声を張る。あ、ここで、声を上げなければ父親失格だと空気が後押ししたのだ。
「ホント?ありがとう」
今度こそ100%虎徹に向けての明るい笑顔だった。物凄く可愛い。
待っていましたかと言うように財布をポケットからいそいそと取り出して、楓に手渡す。この際、値段なんて気にしない。
楓は少し背伸びをして上段にある、その空箱のパッケージを取ると、ウキウキな様子を見せてレジに駆けっていった。

「………ありがとな。バニーちゃん」
珍しく父親らしい事を絶妙なタイミングで出来て虎徹は嬉しかった。それが、この場違いな異空間をげんなりしながらも我慢していた成果だと思うと感動も倍増だ。ここは素直にバーナビーに感謝しておくべきだろうとは、やはり思う。
「いいえ。僕は別に………それより、レジ混んでいたみたいですから、ついて行った方がいいですかね?」
人気ゲームショップとしてのレジへの人だかりを気にするように、バーナビーはそちらの方を見ている。
「いや、大丈夫だろう。楓だっていつまでも子どもじゃないんだろうし。ところで、お前は買わなくていいのか?」
楓を見送る父としてはまるで初めてのおつかいを見守るようだった。同時に、最初は乙女ゲー意欲に満ちていたバーナビーの方を心配する。
「ええ、大丈夫です。特に目ぼしい物はありませんでしたので」
「んじゃ、これで最後だよな。もう他の場所に寄るとかないよな?」
先ほどは突然ゲームショップに連れてこられてしまったので、保険と心の準備をする為に虎徹は尋ねておく。
虎徹が知らないだけでもしかしたら世の中には乙女ゲーに関連するところが山ほどあるのかもしれないのだから。可愛い娘が要望するなら付き合ってやってもいいが、それでもなかなか普段とは違う疲労を感じることには違いない。
「ないですよ。楓さんの迎えの時間も差し迫っていますし、きちんと帰りますよ」
きっかりと時間を確認していていたらしいバーナビーは、もう一度腕時計に目をやり改めて残りの時間を計っている。
「ふう。やっと終わりかー」
安堵の息と共に虎徹は少し背伸びをする。何だか気のせいではないほど、凄く濃厚な一日だった気がする。
「それで、どうでしたか?このデートは」
「おまっ、、、ここでその話、蒸し返すのか?」
突然の事に面を食らった虎徹は、右手を軽く顔に当てながらバーナビーから若干視線をずらす。
「元々そういう話だったでしょ。忘れてしまったんですか?」
けろりとした顔でバーナビーは追求してくる。どうやら話題を逸らすつもりはないらしい。
「いや、忘れてはいないけどさ…色々とありすぎてデートっていうのをあんまり意識しなかったというか………とりあえず楓の事に関しては感謝だな」
当初の目的は確かにデートだったが、まさかの娘が乱入して来た事により当初の想定とは大いにかけ離れたものだった。まあ、それなりには楽しかったような…とりあえず今のところ思いつくので一番上がったのは父親としての株か。
「特に意識しない…ほど自然だったって事ですか?とりあえず子連れデートは成功だと捉えますよ」
不敵な笑みを見せてバーナビーは独自の考えを述べてくる。
「………バニーちゃんってポジティブに考えるの得意な方だっけ?」
何だかかなり都合の良い解釈をされているような気がする。前向きなのは良い事だとは思うけど、この場合はどうだろうか。
「さあ?もしかしたら虎徹さんと一緒にいると、そうなりやすいのかもしれないです」
「そうか?」
自分の事を棚に上げられてもイマイチ実感がわかなくて、虎徹はとりあえずハテナマークを飛ばしておく。
「貴方は自分自身の魅力をわかっていないんですよ。今日一日過ごしてみて、わかりました。やっぱり僕は貴方に惹かれている―――」
ここで今までの冗談交じりの声は全て取り払って、真摯に向き直ってバーナビーは伝えてきた。
「バニー、俺は三次元だぞ。それに正直言うと、もう少し他を当たってみれば?って思うけど。別にお前好みのおじさんなら三次元だろうがいるだろ」
今までの二次元乙女ゲーに対するバーナビーのトンデモ行動を念頭に置きつつも、冷静に虎徹は声を押し殺す。
別に自分じゃなくてもいいと思ったのは、バーナビーが乙女ゲーやっていてもそのキャラ一筋というわけではなく、範囲は狭くあるが老年男性なら比較的誰でも好みだと言っているのを聞いていたからだ。
三次元で再現するならかなりハードルは高くなるかもしれないが、それでもいないというわけではないだろう。乙女ゲー好きに理解があって付き合ってくれる人がいるかはどうか微妙だが。だからこそ、身近で手軽な自分という選択肢が疑問のままなのだ。
「わかっています。それでも、僕は貴方が良いと思ったんです。三次元で僕が好きになったのは虎徹さんだけですよ」
「嫌だ………って選択肢も存在はしてるよな?」
少しだけ考えて声のトーンを落とす言葉を虎徹は出した。
「正直言うと、一人エンドしたり、一方的片思いには慣れましたけどね………虎徹さんにはっきりと拒絶されたら辛いです。三次元ではふられ慣れていませんし」
もしかしたら今までずっと明言されるのをバーナビーは避けていたのかもしれない。
確かに最初、虎徹は二人の関係を様子見と前面に出したが、無理だと続きを言おうとすると必ず乙女ゲーの話題でごまかされて、そんな繰り返しが何度かあった。だからきちんと言っておこうと思った。
「三次元はリセット出来ないぞ。ずっと側にいられるわけじゃないし、思い通りにもならないし、どちらかが先に死ぬ悲しさも味わう」
ゲーム脳を馬鹿にしているわけではないが、虎徹は貶すようにはっきりと言った。
もうバーナビーが二次元と三次元を混在しているとは思ってはいないが、良い事ばかりではないと印象付けるように。
「忘れたんですか?僕は、年配の男性が好みなんですよ。加齢はむしろ喜ばしい事です。何より貴方の側にいられるなら、それで十分です」
最初は二次元ありきで虎徹のことを好きになったのだろうけど、それでも…
どこからが乙女ゲーの言葉でどこからが本当にバーナビーの言葉かよくわからないな…と思わなかったわけではなかった。
前は太陽よりも広い心を持つ虎徹さん!とか言われても、それはゲームの俺だろとか、今まで散々洗脳作戦するつもりかとか、これは偶像崇拝だと、一番思い込んでいたのは虎徹の方だったかもしれない。
本気に捉えなかったのだ。いつの間にかすっかりバーナビーに付き合うのがそこまで嫌なわけではなかったし、楽しかった。嬉しかった。ギャップ萌えなんて信じていないけど、段々と浸食されて来て………あ、なんかそれでいいかなって思ってきた。
当のバーナビーは未来予想図まで完璧だし、これは虎徹の完敗だった。
「負けたよ、わかった。とりあえず、付き合ってもいい」
軽く両手を上げながら、保留…はひとまず終わる言葉を虎徹は出した。
「ありがとうございます。これから宜しくお願いしますね…………
それで、これでもまだ僕の事、好きにならないんですか?おかしいな」
「お前…相変わらず、飛躍しすぎだろっ!」
折角カッコ良くキメるのかと思いきや、台無しだ。でも、これがバーナビーなんだから仕方ないなと苦笑する。
大告白された場所が乙女ゲーコーナーっていうのもなかなかないだろうなぁと、虎徹は最後に周囲を見て突っ込みながらも思った。
後ろでは相変わらずイケメン達が愛の告白をするPVが流れ続けている。
多分バーナビーの指摘通り、好きになっているのだろう。もちろんこの場で、素直に口には出さないけど。



たとえ、乙女ゲームの中とはいえ、8股や全股余裕なバーナビーに相手に勝ち目があるわけがないと知ったのは後の祭り。
乙女ゲーの続きはリアルでどうぞ。










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